浜松の銘菓「うなぎパイ」は、なぜ“夜のお菓子”なのか?:うなぎパイファクトリーで誕生秘話や製造方法を聞いた

うなぎの名産地・浜名湖を擁する浜松の定番土産物「うなぎパイ」。生地にうなぎエキスを練り込んだ珍しい洋菓子は、“夜のお菓子”のキャッチフレーズと共に全国的に知られている。製造工程を見学可能な「うなぎパイファクトリー」で、誕生秘話や隠し味などを聞いた。

北海道「白い恋人」、鎌倉「鳩サブレー」、京都「生八ツ橋」などと伍して、ご当地銘菓の代表格として知られる浜松「うなぎパイ」。さほど観光名所があるわけではない浜松の菓子が、全国区の人気を誇っているのだ。

静岡だけでなく、東海地域を代表する銘菓「うなぎパイ」
静岡だけでなく、東海地域を代表する銘菓「うなぎパイ」

他に類を見ない“うなぎエキス入りの甘い菓子”であることに加え、「夜のお菓子」という意味深なキャッチフレーズも興味をそそる。一口食べれば、サクサクの食感が心地よい正統派のパイ菓子だ。発売から60年間ほぼ変わらぬ味で、子どもから大人まで楽しめる味わいである。

製造・販売元の春華堂は、うなぎパイの魅力をより広めるため、2005年に「うなぎパイファクトリー」を開設。誰でも無料で製造工程を見学でき、カフェではうなぎパイを使った特製スイーツが楽しめる。取材に訪れると、常駐するコンシェルジュが誕生の経緯や伝統の製法、人気の秘密を話しながら、丁寧に案内してくれた。

平日にもかかわらず、たくさんの家族連れやカップルが訪れていたうなぎパイファクトリー
平日にもかかわらず、たくさんの家族連れやカップルが訪れていたうなぎパイファクトリー

「気軽に声を掛けてください」というコンシェルジュの田京裕也さん。巨大なうなぎパイのオブジェは、人気の記念撮影スポットだ
「気軽に声を掛けてください」というコンシェルジュの田京裕也さん。巨大なうなぎパイのオブジェは、人気の記念撮影スポットだ

まだ知名度の低かった浜松で生まれた菓子

春華堂の創業は明治中期にさかのぼる。現在の藤枝市で茶屋を営み、甘納豆が人気だった。浜松に店を構えたのは東海道線開通の1889(明治22)年。戦後になって、2代目の山崎幸一社長が、浜松らしい銘菓を作りたいと考えるようになった。

いまや浜松は、ヤマハや河合楽器製作所、ローランドなど国内有数の楽器メーカーや、スズキが本社を置き、ホンダの創業地としても知られる工業都市だが、当時は全国的な知名度は低かった。旅先で「浜松から来た」と言っても首を傾げられることが多く、「浜名湖の近く」と説明すると、ようやく「ああ、うなぎの産地ね」とかえってくる。ならばと、うなぎをかたどった菓子の開発に着手した。

ウナギの養殖で有名な浜名湖。写真は、浜名湖南端・いかり瀬にある赤鳥居
うなぎの養殖で有名な浜名湖。写真は、浜名湖南端・いかり瀬にある赤鳥居

うなぎパイファクトリーは、階段の手すりまでうなぎ形
うなぎパイファクトリーの階段の手すり。「うなぎ上り」にかけて、昇り階段のみがうなぎ形になっている

ベースとなったのは、ヤシの葉をかたどったフランスのパイ菓子「パルミエ」。うなぎを想起させる形状を目指して試作を重ね、最終的に現在のフォルムに落ち着いた。さらに、うなぎの頭と骨から抽出したエキスを、生地の中に練り込んだのもポイントだ。

試作品の模型。左は串を刺したかば焼き風、右はうなぎの頭をイメージ。どちらも割れやすいため断念。
試作品の模型。左は串を刺したかば焼き風、右はうなぎの頭をイメージ。どちらも割れやすいため断念した

憶測を逆手にとった戦略もヒット

1961(昭和36)年、駅の売店での販売が始まると、物珍しさもあって好調な売り上げを記録する。64年に東海道新幹線の浜松駅が開業、69年に東名高速道路が全線開通。地元企業の成長で多くの取引先から出張者が訪れるようになり、うなぎパイの知名度もどんどんアップした。

人気を後押ししたのが、「夜のお菓子」のキャッチフレーズ。女性の社会進出で一家だんらんの時間が減っていることを気にかけていた山崎社長が、「夕食後にうなぎパイを囲み、楽しいひと時を」と願いを込めたという。

パッケージの「夜のお菓子」は、土産を渡す時の会話も盛り上げてくれる
パッケージの「夜のお菓子」は、土産を渡す時の会話も盛り上げてくれる

開発者・幸一氏が思い描いた、うなぎパイを楽しむ家族の風景
開発者・幸一氏が思い描いた、うなぎパイを楽しむ家族の風景

一方、うなぎは精のつく食材として知られる。工業都市として発展し、夜の街がにぎわうようになると、「夜のお菓子」を「精力増強」の意味に深読みして、面白がって購入する人も増えていった。

春華堂は、それを逆手に取った。当時の人気栄養剤「マムシドリンク」を参考にし、パッケージを浜名湖の水をイメージした青色から、赤と黒、黄色を基調としたデザインへと変更。実際、うなぎエキスを練り込んでいるので、疲労回復効果や夏バテ対策になるビタミンAが豊富に含まれているのだ。山崎社長も「菓子は味だけでなく、付加価値も必要」と、客側の思い描くストーリーに便乗したという。これを機に、うなぎパイの販売量は、さらに“うなぎのぼり”となっていく。

客の憶測を逆手にとった、当時のユニークなポスター
客の憶測を逆手にとった、当時のユニークなポスター

熟練の職人の手わざと浜松らしい秘伝のタレ

うなぎパイファクトリーでは、当時とほとんど同じ製造工程で生産している。生地の原料は小麦とバター、水、うなぎエキスの粉だけ。気温や湿度に合わせて微妙な調整が必要な生地作りは、熟練の職人が担当し、1日に1人が約3.6トンも練り上げるそうだ。それを薄くのばしたり、砂糖を振りかけたりして、約9000層にもなるまで重ね、サクサクとした独特の食感を生み出している。

焼き上げの工程は機械化しているが、手順は昔と変わらない。約300度の熱で10分間、じっくりと焼き上げ、最後は蒲焼きと同様に秘伝のタレをはけで塗る。タレのレシピは企業秘密で、150人以上が働くうなぎパイファクトリーでもわずか5人しか知らない。

生地作りの工程部分には、壁にイラストがはめ込まれていて非公開
生地作りの工程部分は非公開。壁にイラストがはめ込まれている

秘伝のタレは、機械製造になってもはけで丁寧に塗っている
秘伝のタレは、機械製造になってもはけで丁寧に塗っている

秘伝のタレの成分で唯一公表されているのが、少量のガーリック。うなぎエキスにかすかに残る生臭さを消し、深い風味を生み出す。

山崎社長が開発時に、はやり始めた餃子から着想を得て、ニンニクを使用するようになったそうだ。浜松は現在、栃木・宇都宮に並ぶ“餃子の町”。地元の2大名物グルメ、うなぎと餃子の要素が詰まったうなぎパイは、まさに浜松の味といえるだろう。

焼き上がると人間の目で検品してから、袋詰めしてトラックに積み込む。うなぎパイファクトリーの生産量は、1日に約20万枚にも及ぶ。

最終工程は手作業でチェック。型崩れしたものや割れたものは、「お徳用袋」で販売する
最終工程は手作業でチェック。型崩れしたものや割れたものは、「お徳用袋」で販売する

2階からは、パッケージ作業の一連の流れを見学できる
2階からは、包装ラインの作業の様子を見学できる

うなぎパイを使用した絶品スイーツも

定番のうなぎパイは60年間変わらぬ味だが、アーモンドを使った「うなぎパイ ナッツ入り」や蜂蜜とナッツを加えたミニサイズの「うなぎパイ ミニ」などバリエーションも豊富。特に大人におすすめなのが、ブランデーやマカダミアナッツを使用した最高級品「うなぎパイ V.S.O.P.」。キャッチフレーズは「真夜中のお菓子」で、酒のつまみにもぴったりだ。

工場見学の後は、うなぎパイを使ったスイーツでひと休み。アイスクリームやフルーツとも相性は抜群である。うなぎパイ好きなら、製造工程や歴史を知ることができ、特製スイーツも楽しめるファクトリーに、ぜひ一度訪れてみてほしい。その奥深い魅力に、よりハマることは間違いなしだ。

高級感あふれるゴールドのパッケージ「うなぎパイ V.S.O.P.」
高級感あふれるゴールドのパッケージ「うなぎパイ V.S.O.P.」

左「うなぎパイジェラート」、右「うなぎパイV.S.O.P.の紅茶パフェ」
左「うなぎパイジェラート」、右「うなぎパイV.S.O.P.の紅茶パフェ」

工場直売店では姉妹商品の「うなぎサブレ」や「しらすパイ」も人気!
工場直売店では姉妹商品の「うなぎサブレ」や「しらすパイ」も人気!

うなぎパイファクトリー

  • 住所:静岡県浜松市西区大久保町748-51
  • 開館時間:午前10時~午後5時30分(うなぎパイカフェのラストオーダーは午後5時)
  • 定休日:火曜日、水曜日
  • 入場料金:無料
  • アクセス:東名高速・浜松西ICから車で約15分。駐車場無料

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:うなぎパイファクトリー駐車場近くにある「うなぎパイトラック」

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