りんごの街・弘前でアップルパイ巡りが人気:観光案内所スタッフ制作のガイドマップがブーム創出
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“りんごの町のアップルパイ”を広めたマップ
日本のりんごの6割強を占める41.6万トン(2021年度)を生産する青森県。暑さが大敵のりんごは、夏でも涼しく、秋になると急激に気温が低下する本州最北の地で、みずみずしさを保ちながら、甘さと程よい酸味を蓄えて成長する。市町村別の収穫量では、弘前市がダントツの1位だ。
津軽藩の城下町だった弘前の市街地を観光すると、よく見かけるのが「りんごの街のアップルパイ」というPOPやのぼり。名産品を使用したスイーツなので当然に思えるが、ケーキ屋や喫茶店に加え、老舗の和菓子屋にまで置いてある。
そして、ケーキのショーケースをのぞく人や、飲食店でメニューを眺める人が手にするのが、かわいらしい真っ赤な表紙の『弘前アップルパイガイドマップ』。
駅や観光案内所などで無料配布する冊子で、青森産りんごを使用し、市内で販売するアップルパイを43種類も掲載。その味や特徴、こだわりの製法などを紹介している。2010年の発行以来、若い女性を中心に好評を博し、アップルパイ巡りを弘前観光の目玉の一つに押し上げた立役者だ。
街の中で暮らすため、気付けなかった魅力
ガイドマップの窓口となっている弘前市立観光館を訪れると、野村いずみさんが対応してくれた。掲載内容の改訂や、関連グッズの企画を担当する観光コンシェルジュだ。
「『アップルパイは、どこで食べられるの?』『おいしい店を巡りたい』といった問い合わせが多くなり、十数年前にスタッフの間で “一度ちゃんと調べてみよう”となったのがきっかけです」
洋菓子店や喫茶店から、ベーカリー、和菓子屋まで片っ端から電話してみると、取扱店の数は想像をはるかに超えていた。ある和菓子屋には「数十年前から作っているよ。知らなかったの!?」と言われる始末。
国内トップのりんご生産地・弘前では、秋になると親戚や知り合いから、食べ切れないほどのお裾分けが届く。余ったものはアップルパイに使ったり、ジャムにしたりする家庭も多く、お金を出してりんごを食べる発想が薄い。
案内所のスタッフもご多分に漏れず、弘前ならではのアップルパイの逸品が増え、和菓子屋やせんべい店でも製造していることに気付かずにいた。まさに“灯台下暗し”である。
関連グッズも続々登場、人気は全国区に
りんご自体は旬の時季が限られるが、アップルパイなら観光の目玉として1年中アピールできる――。すぐにスタッフが手分けして販売店を回り、持ち寄ったもので試食会を開いた。味の特徴や見た目をシートに書き出し、さらに材料やこだわりの製法などを製造元に取材しながら、掲載許可も取っていく。そして、34種類のアップルパイが並ぶ初版が完成した。
弘前らしいユニークなガイドマップは、たちまち話題を呼ぶ。当時、別の仕事をしていた野村さんも、すぐに観光案内所にもらいに行ったそうだ。「こんなにアップルパイを扱う店があると、私も知らなかった。デザインもかわいかったので何度も見返し、ついつい店を回ってしまった」と笑う。
版を重ねるたびに、テレビ番組や女性誌に取り上げられ、表紙と同じデザインのクリアファイル、アップルパイを食べた感想や思い出を記録するログノートなど関連グッズが誕生した。英語版に加え、姉妹冊子『弘前タルトタタンガイドマップ』も発行。2021年春には、弘前観光コンベンション協会が監修した『弘前アップルパイレシピBOOK』(パルコ出版刊)まで出版された。
こうした積み重ねによって、「りんごの街のアップルパイ」の知名度は全国区となった。菓子司みしまの店主も「観光案内所のスタッフが走り回り、このブームを作ってくれた。本当にありがたい」と感謝し、りんご生産者にも喜ばれているという。
数種類を食べ比べられる店や、土産用も人気
ガイドマップ片手に好みの店を見付けたかったが、青森での取材予定が詰まっていた記者に野村さんは「大正浪漫喫茶室ならアップルパイを食べ比べられますよ」と教えてくれた。
大正浪漫喫茶室は、人気観光スポット・藤田記念庭園の洋館内にある。弘前で最初にアップルパイを販売したという老舗和菓子屋・双味庵や、自家農園で育てた紅玉を使うタムラファームのものなど、取材日には9種類を取りそろえていた。
大正浪漫喫茶室では、レジ横のカウンターで持ち帰り用も販売していた。イートインとテイクアウトの組み合わせを工夫すると、より多くの種類に挑戦できる。
駅の売店や土産物店で取り扱うアップルパイも多彩なので、自宅に帰ってからも弘前の味を楽しむことが可能だ。
取材の帰り際に、観光館と同じ追手門広場内にある旧東奥義塾(とうおうぎじゅく)外人教師館にも立ち寄った。
青森県民が西洋りんごを初めて手にしたのは、1875(明治8)年のこと。この建物で暮らした米国人教師ジョン・イングが、クリスマスの日に教え子らに分け与えたと伝わる。
1階にある喫茶室「Salon de café Ange (サロン・ド・カフェ・アンジュ)」のアップルパイは、弘前生まれのりんご「栄黄雅(えいこうが)」を使用し、サクサクの生地で評判だ。その味を堪能しながら、青森りんごの発祥に関わる建物と同じ敷地内で、弘前のアップルパイの魅力を広めていることに、不思議な縁を感じた。
弘前市立観光館
- 住所:弘前市下白銀町2-1
- 開館時間:午前9時~午後6時(祭り期間は延長あり)
- 休館日:年末年始(臨時開館の場合あり)
- アクセス:JR「弘前」駅からバスで約15分の「市役所前」下車すぐ
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部