沖縄の家の守り神「シーサー」:その正体や役割、歴史をひもとく
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一般家庭に普及したのは明治以降
沖縄を訪れると、建物の入り口や屋根の上など至る所で出会う「シーサー」。琉球王国の時代から生活に溶け込んでいたように思えるが、一般の住宅に飾られるようになったのは明治時代の半ばからだという。
「沖縄の古民家は赤瓦の屋根が印象的ですが、琉球王朝は庶民の家の大きさなどを規制し、瓦ぶきの屋根も禁じていた。赤瓦の家が増えたのは、1889(明治22)年に規制が撤廃されてから。そして、屋根瓦職人が余った漆喰と瓦を使って、屋根の上にシーサーを手作りするようになり、一般家庭に普及していったのです」
シーサーの歴史や特徴について解説してくれたのは、王国歴史博物館の学芸員・酒井若葉さん。この博物館は、沖縄の文化を詰め込んだ観光施設「おきなわワールド」内の琉球王国城下町にあり、名工が手掛けたシーサーの数々や、その原型とされる海外の獅子像などを展示している。周囲には築100年以上の赤瓦の古民家が立ち並び、シーサーの歴史について学ぶのには最適な場所だ。
スフィンクスや狛犬の仲間
シーサーは、古代オリエントの獅子(ライオン)像が中国を経由し、沖縄へと伝わったと推測される。古代のエジプトや中東地域では、百獣の王・ライオンを王の権力や聖なるものの象徴とし、宮殿や神殿などに飾った。その代表が、人間の頭とライオンの胴体を持つスフィンクスだ。
獅子像はシルクロードで、少しずつ姿を変えていく。実際のライオンを知らない地域に伝わったことで、どんどん霊獣化して魔よけや守り神となった。酒井さんは「沖縄の人からも、『シーサーって犬? それとも猫?』と聞かれる」と笑う。本土の狛犬などとも起源は同じだが、沖縄は中国から直接伝わったのに対し、本土へは朝鮮半島を経由しているので多少ルートが違う。
沖縄本島北部や八重山諸島では、シーサーのことを「シーシー」と呼ぶ地域もあるという。名の由来について、本土の「シシ」がなまったという説をよく聞くが、獅子は中国から沖縄に直接伝播しており、中国語では「シーズー」と発音する。どちらかというと、シーズーがなまったか、単に獅子の字をシーサーやシーシーと読んだ可能性の方が高いのではないか。
さらに酒井さんは、「最初の“シ”にアクセントをおかず、平坦に発音するのが沖縄風」と指摘する。観光客には古代ローマの将軍・シーザーのように、シーサーの“シ”を強調する人が多いが、現地では抑揚をつけないそうだ。
宮獅子と村獅子、家獅子の3種類がある
獅子を飾る文化は当然、交易をつかさどる王府から始まった。琉球王国の陵墓「浦添ようどれ」にある13世紀の王・英祖が眠る石棺には、獅子が刻まれている。第二尚氏王統の陵墓で、世界遺産に登録されている「玉陵(たまうどぅん)」(1501年創建)にも3体のシーサーが飾られ、これら王朝の陵墓や寺院、城郭にあるものを「宮獅子」と呼ぶ。
次に誕生したのが、魔よけや火よけとして、集落の入り口や高台の上に設置された「村獅子」。記録に残る最古の村獅子は、1689年に建立された本島南部・八重瀬町富盛(ともり)にある「富盛の石彫大獅子」だ。村で火事が続いたので占ってもらうと、原因は八重瀬岳だと告げられたため、山のある南西に向けて設置。その後は、全く火災が起きなくなったと伝わっている。
王立歴史博物館には、富盛のシーサーに身を隠し、双眼鏡で偵察する米兵の写真が展示してある。本島南部は沖縄戦の激戦地で、村の平和を守る火よけの神が、弾よけに使われたのだ。今でも、たくさんの銃弾痕が残る大獅子は、沖縄特有の文化と共に、戦争の壮絶さを伝えている。
村獅子の存在によって、庶民の間でシーサー信仰が広がり、明治期からの「家獅子」の普及につながっていく。一般の住宅では屋根の中央や門柱、玄関近くに設置し、魔物が侵入しないように、にらみを利かせてもらう。近年は集合住宅用に、家の中に飾る小型の置き物タイプが増えているという。
「沖縄の観光地化が進むと、シーサーもどんどんキャラクター化した。昔は威嚇するような怖い顔ばかりだったが、今では笑顔だったり、逆立ちしていたりする。色もカラフルになったので、お土産でも人気になったのでしょう」(酒井さん)
性別を超越した霊獣
シーサーには単体のものと、対のものがある。門の左右に置く場合は、口が開いているものと、閉じているものがセットになっている場合が多い。寺社の狛犬と同じ阿吽(あうん)の形のため、「開口しているのが雄で、閉口しているのが雌」とよく言われる。
しかし、酒井さんは「シーサーは1体でも2体でもいいし、性別が必ずあるわけではない」と言う。中国にも対の獅子は多いが、大抵は両方とも口を開けている。阿吽のものも作られているが、中国での性別の見分け方は、富や財宝を表す玉(ぎょく)を持つのが雄、子どもを抱えているのが雌とするのが一般的。
琉球のシーサーは中国から直接伝来し、単体のものはほとんどが口を開いている。口の形で性別を見分ける方法が、当てはまらない場合も少なくないのだ。
そもそもライオンは、雄しかたてがみを持たない。実物を見たことがない民族が生み出した獅子像は全て、たてがみを持っている。酒井さんの言うように、性別を超越した霊獣と考えるのが自然だろう。
珍しいシーサーを探しながら街歩きをすると、沖縄観光はより楽しくなる。おきなわワールドの入場口には、大きなシーサーが5体並ぶ「獅子吼乃塔(ししくのとう)」があり、記念撮影スポットとして人気だ。
インスタ映えを狙うなら、「残波大獅子」は外せない。沖縄最大のシーサーで、高さ8.75メートル、長さ7.8メートルを誇る。近くには残波岬と灯台、ビーチや公園もあるので、那覇から少し足を延ばしてみよう。
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:琉球王国城下町にある古民家の屋根に置かれた漆喰シーサー