大都会の開かれた名刹「築地本願寺」:仏教の世界に気軽に触れられ、カフェの朝食も人気

歴史 建築

古代インド風の壮麗な本堂で知られる築地本願寺(東京都中央区)は、京都・西本願寺(下京区)を本山とする浄土真宗本願寺派の仏教寺院。近年は「開かれた寺」を目指し、カフェやブックセンターを新設するなど、親しみやすい雰囲気に変貌を遂げた。重要文化財の建造物に加え、本堂の内部や行列ができる朝食、宿泊施設なども紹介していく。

宗務長こだわりの朝食が大人気

改革の象徴として設置されたインフォメーションセンターは、東京メトロ日比谷線「築地」駅の出口とほぼ直結している。2階には屋上テラスがあるので、本堂中央のドームなどはここから眺めた方が精細な造りがよく分かる。

カフェや書店が入るインフォメーションセンターは、2017年11月に開設された
カフェや書店が入るインフォメーションセンターは、2017年11月に開設された

東京メトロ「築地」駅の出口1から直接境内に入ることができ、インフォメーションセンターは徒歩すぐだ
築地本願寺は、築地駅の出口1から直接境内に入ることができる。インフォメーションセンターは目の前だ

この建物に入る「築地本願寺カフェ Tsumugi」で、特に人気なのが「18品の朝ごはん」。お寺らしいおかゆとみそ汁に加えて、16種類の小皿が並ぶ。

浄土真宗の本尊である阿弥陀如来は48の誓願を立てたが、特に18番目が念仏往生の根本となる願いとして重要視され、本願寺の由来となった。その18にかけて、18品目を並べることに安永宗務長はこだわったという。おかずの選定にも参加して、地元の名物である「つきぢ松露」の卵焼きや「築地江戸一」の甘口昆布の佃煮なども加えた。朝食は朝8時から10時30分までの提供で、「18品の朝ごはん」は売り切れになることもあるため、平日でも開店前から行列ができる。

コーヒー、紅茶といった飲み物はもちろん、ランチなどの食事メニュー、スイーツも充実。アルコール類もそろい、午後9時まで営業しているため、ライトアップされた本堂を眺めながら晩酌が楽しめると、夕方以降も客が途絶えない。(※コロナウイルス流行による緊急事態宣言により、現在は酒類の販売は休止中で、営業時間も午後5時まで)

本堂側はガラス張りで天井が高く、開放感のある「築地本願寺カフェ Tsumugi」の店内
本堂側はガラス張りで天井が高く、開放感のある「築地本願寺カフェ Tsumugi」の店内

いろいろなおかずを楽しめる上に、おかゆは何杯でもお替わり無料。セットのお茶も、温かいかぶせ茶か冷たい深蒸し茶が選べて好評だ
おかゆは何杯でもお代わり無料で、多彩なおかずと共にたっぷり楽しめる。セットのお茶も、温かいかぶせ茶か冷たい深蒸し茶が選べて好評だ

夜の築地本願寺も魅力的。ライトアップされた重要文化財をめでながらの一杯はぜいたく
夜の築地本願寺も魅力的。ライトアップされた重要文化財をめでながらの一杯はぜいたく

お坊さんにいつでも相談でき、境内に宿泊も可能

カフェの隣には、ブックセンターやオフィシャルショップもある。仏教に関する入門書やエッセーから、信者向けの専門書までそろい、数珠や仏具に加えて築地本願寺特製グッズが購入できるので、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

インフォメーションセンターのユニークな点は、受付にお坊さんが座っていること。仏事に関する疑問や質問、さらには仕事や人間関係など日頃の生活における不安まで、気軽に相談することができる。まさに「開かれた寺」を象徴する建物だ。

ブックセンターには、僧侶お薦めの本が並ぶ。取材時は「名僧フェア」を開催していた
ブックセンターには、僧侶お薦めの本が並ぶ。取材時は「名僧フェア」を開催していた

築地本願寺特製グッズがそろうオフィシャルショップ。本堂型のロゴをあしらった手拭いやトートバッグ、「築地本願寺和三盆」などが人気だという
築地本願寺特製グッズがそろうオフィシャルショップ。本堂型のロゴをあしらった手拭いやトートバッグ、「築地本願寺和三盆」などが人気だという

受付デスクには僧侶が待機しており、予約なしで相談を聞いてくれる
受付デスクには僧侶が常時待機しており、予約なしで相談を聞いてくれる

本堂右手側にある第一伝道会館にも、ティーラウンジや日本料理店、土産物コーナーが入っているので、食事や買い物が楽しめる。さらに、誰でも利用可能な宿泊施設まである。1室1人利用で和室5500円、洋室6600円とリーズナブル。名門寺院の本堂の横に泊まり、境内を散策し、昼は築地場外市場で魚介を頬張るーー。そんなぜいたくな体験ができるので、旅行や出張の際には検討してみてはどうだろう。

南門近くにある第一伝道会館。宿泊用客室は和室12部屋、洋室3部屋が用意されている
南門近くにある第一伝道会館。宿泊用客室は和室12部屋、洋室3部屋が用意されている

広々とした洋室。室内にバス・トイレはないが、貴重な体験ができると思えばコストパフォーマンスは抜群だ
広々とした洋室。室内にバス・トイレはないが、貴重な体験ができると思えばコストパフォーマンスは抜群だ

地元との連携を深め、さらに魅力的な寺に

インフォメーションセンターの開設と同時に募集を始めた合同墓も好評だという。生前の宗教や宗派は問わず、築地本願寺倶楽部(入会費・年会費無料)への入会が必要なだけで、初期費用や法要時の他は年間管理費なども一切掛からない。核家族化や少子化で「墓離れ」や「墓じまい」が進む、現代のニーズに合った運営形態である。

正門を挟んだ南側には、浄土真宗の開祖・親鸞聖人像に加え、築地本願寺と縁が深い佃島の初代名主の墓や江戸後期の風流人として知られる画家・酒井抱一(ほういつ)の墓、大谷光瑞の妹で社会活動家でもあった歌人・九条武子の碑など、歴史好きには興味深い石碑が並ぶ。

都心にある合同墓は、いつでもお参りしやすいデザインを心掛けたという
都心にある合同墓として、いつでもお参りしやすいデザインを心掛けたという

礼拝堂からは本堂中央のドーム部分が拝めるため、本尊に手を合わせている心待ちになる
礼拝堂からは本堂中央のドーム部分が拝めるため、本尊に手を合わせている心待ちになる

繊細な叙情性を持つ江戸琳派を完成させた酒井抱一の墓は、東京都指定旧跡
繊細な叙情性を持つ江戸琳派を完成させた酒井抱一の墓は、東京都指定旧跡

築地本願寺では、インターネットの活用にも積極的に取り組んでいる。仏教の世界に気軽に触れてもらうため、3分法話やパイプオルガンコンサートを無料で配信。YouTubeチャンネルでは法要のライブ中継もしている。実際に参拝するのは難しいが、仏教に関する疑問や悩みを持っていたり、日々の生活に不安があったりする人は、ぜひ公式ホームページをのぞいてみてほしい。

「毎月全国に配布する広報誌『築地本願寺新報』で“築地のヒト”というコーナーやお店紹介を設けるなど、地元に少しでも貢献できるように努めています。そのおかげもあって築地場外市場では、築地本願寺倶楽部の会員にドリンクサービスや割り引きをしてくれる協賛店が約30軒まで増えました。地元で愛されない寺が、より多くの人を幸せにすることなんてできません。これからも、築地という立地や本願寺の持つ伝統を生かし、インターネットも活用して、より開かれた寺を目指していきます」(東森さん)

開かれた寺を目指し、日々挑戦を続ける築地本願寺を見守る親鸞聖人
開かれた寺を目指し、日々挑戦を続ける築地本願寺を見守る親鸞聖人

本堂の参拝時間は午前6時から午後4時までだが、門は朝5時30分から深夜0時まで開いている
本堂の参拝時間は午前6時から午後4時までだが、門は朝5時30分から深夜0時まで開いている

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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