マグロ、ウニ、マダイが意外な料理に:豊洲の高級魚介、アイデアで消費を喚起
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新型コロナウイルスの感染「第4波」が到来し、まん延防止等重点措置に続き、4月25日から東京や大阪など4都府県で3度目の緊急事態宣言に入った。飲食店は再び時短営業や休業を強いられる中、東京・豊洲市場(江東区)の魚流通も大きな打撃を受けている。
最新鋭の施設が整う豊洲市場は、スペースが旧築地市場(中央区)の1.7倍。活発な魚介類の取引に期待が高まったものの、移転後1年数カ月で新型コロナの直撃を受けた。20年の同市場水産物の流通量は、33.4万トンで前年比4%減。金額は3586億円で同10%ダウン。築地時代から続く減少傾向に歯止めは掛からず、約30年前の1990年と比べると、数量・金額ともに半分以下まで落ち込んだ。
21年の1~3月の取扱量も前年同期をやや下回っており、関係業者の我慢も限界にきている。こうした中、特に売り上げが厳しい高級クロマグロなどの高級魚介を中心に、消費をどうにか喚起しようと、市場の仲卸や料理店があの手この手と奇をてらった策を繰り出し、話題となっている。
クロマグロをかつサンドに
「何も国産の天然クロマグロを油で揚げなくても……」。
豊洲で長年、マグロを扱ってきたベテランの仲卸は、同業者が商品化した「かつサンド」に首をかしげながら、こうつぶやいた。すしネタなど生で食べなければ、クロマグロの価値は半減、とでも言いたげだ。
この春、豊洲のマグロ専門仲卸「鈴富」の鈴木勉社長は、高級天然クロマグロの「トロ」を使ったかつサンドを考案し、自身が経営する世田谷区のすし店で発売した。原料は豊洲でも誰もが「上マグロ」と認めるアイルランド沖で漁獲され天然物。冷凍ではあるが、豊洲でキロ5000円以上の値が付くことも珍しくなく、生の上物に匹敵する折り紙付きだ。
仲卸、本気で別のテイストを
マグロの尾の断面をモチーフに描かれたパッケージには「マグロ屋本気の」と大きく書かれている。かつサンドは、赤身とトロの2種類で、それぞれ3個入り。赤身はレアな揚げ加減で、鮮やかな赤色やうま味を出すためずいぶんと手間がかかるとあって、値段は2200円(税込み)と高め。トロの方は800円(同)。こちらは「筋トロ」という部位を使用しているが「すしではスキミにして軍艦に使ったりする」(鈴木社長)という貴重なネタだ。2種それぞれに、特製のたれが付いている。
「マグロ屋本気の」という前置きが示すように、「アイルの本マグロは最高級。これをあえて使い、コーヒーやワインにも合わせられるマグロの新しい食べ方を提案したかった」と鈴木社長。テイクアウト商品として販売し、これまで順調な売れ行き。今後はネット通販にも乗り出す予定という。
最高級のウニはスイーツ風に
すしネタではマグロに次ぐ人気を誇るウニも一見、風変わりな料理となって登場した。築地場外市場にある商業施設「築地魚河岸」3階にある「センリ軒」では、北海道産の高級バフンウニを使って「贅沢うにプリン」(税込み880円)を開発。
裏ごししたウニと卵などを混ぜた茶わん蒸しの上に、ポン酢のジュレをかけてカラメルプリン風に仕立て、さらにウニをトッピングしている。冷やすとうま味が増すといい、コーヒーと一緒に注文する客も多いとか。
センリ軒ではウニのほか、大きなサザエの身をぶつ切りにして、殻の中にクリームシチューと一緒に流し込んだ「サザエの壺シチュー」(同1680円)や、「シラスのピザトースト」(同800円)も提供。じわり人気が高まっている。
築地場外市場は、旧築地市場が豊洲へ移転してからも、にぎわいを維持してきたが「コロナの影響で客足が遠のいているため、新たな名物を作って少しでも築地へ人を呼び込みたかった」と店主の川島靖喜さん。今後も「豊洲直送の魚介を使った料理を考えていきたい」と意気込んでいる。
魚の王様・タイはデザートにも活用
一方、豊洲で買い付けた高級マダイをおしゃれなデザートに生かす店もある。アニメやアイドルの聖地・JR秋葉原駅(千代田区)の近くで営業する「なでしこ寿司」では、ブランド養殖魚「白寿真鯛」をすしネタに使うだけでなく、スイーツ風にアレンジした料理に仕立てている。
愛媛県の養殖業者が育てた白寿真鯛は、飼料に白ごまを加えることで、抗酸化作用を持つとされるセサミンがマダイの身に蓄積され、鮮度とうま味を保つことができるのだとか。豊洲でも仲卸などの評価が高い。
なでしこ寿司ではこのマダイを、得意の創作すしのネタとして調理するとともに、すり身にして生クリームや豆乳、オリーブオイルなどを混ぜてホイップ。ムース状にして雪のように盛り付け、デザートとして提供している。料理によって甘さを調整するなど、工夫を凝らし人気は上昇中。千津井(ちづい)由貴店長は、「コロナ流行前は6~7割が訪日観光客だったので、経営は本当に厳しい。でもその分、空いた時間を使って、新メニューや通販用商品の開発をするなど新しい挑戦ができている」と前向きだ。
変異株の流行もあり、コロナ事情の先行きが見通せない中、内外から集まる貴重な魚介類をどのようにして食べてもらうのか。豊洲の仲卸や飲食店などは、今後も頭を悩ませながら、これまでとは違った発想でアイデアをひねり出していくに違いない。
写真=ニッポンドットコム編集部(提供写真以外)
バナー:マダイのスイーツを手にする「なでしこ寿司」の千津井店長