未来の防災を発信する町へ:宮城・名取市震災復興伝承館とかわまちてらす閖上
Guideto Japan
防災 旅 気象・災害- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
海辺の町に活気を生み出す「かわまちてらす閖上」
2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波によって、東北地方の太平洋沿岸部は壊滅的な被害を受けた。空港が濁流に飲み込まれるショッキングな映像を覚えている人も多いだろう。その仙台空港のターミナルビルがあるのが宮城県名取市だ。海沿いに平地が続くため、広範囲にわたって深刻なダメージを負った。
特に大きな被害が出たのは、北東部の閖上地区。海の恵みに加え、北には名取川が流れ、その支流・広瀬川は仙台まで通じているため、古くから港町として栄えていたという。震災前までは、河口の入り江・広浦にある閖上漁港を中心に、かまぼこ製造など水産加工業が盛んな地域であった。押し寄せた津波が、名取川を遡上して堤防を破壊したことで、多くの工場や倉庫、住宅が流失し、名取市の死者の8割近くがこの地域に集中した。
防潮堤の強化や土地のかさ上げなど復興工事が進む中、2013年に「ゆりあげ港朝市」が再開し、その3年後には水産加工団地が新設された。18年に小中学校が開校して、災害公営住宅も完成。19年5月には「閖上地区まちびらき」が盛大に開催された。
新しい人気スポットとなっているのが、名取川に架かる閖上大橋近くの堤防沿いにある商業施設「かわまちてらす閖上」。地元名産の赤貝やしらすといった魚介を提供する飲食店を中心に、水産加工品や県内産の野菜、菓子などを販売する26店舗が軒を連ねる。シフォンケーキ、フレンチトーストなど、スイーツを味わえるカフェも評判だ。川側にはテラス席が設けられ、広い遊歩道や芝生も整備されているので、名取川を眺めながら閖上グルメを頬張り、散策も楽しめる。
震災で被害を受けた店が、かわまちてらす閖上の誕生によって、地元での復活を遂げた例もある。津波によって店主夫妻が亡くなった食堂「ももや」もその一つだ。
ももやの看板メニューはカツ丼で、地元住民に愛されていたが、レシピなどは一切残っていなかった。そんな中、閖上出身の料理人が、少年時代からのなじみの味が失われたことを惜しみ、店主夫妻の親族や常連客に聞き込みを開始。試行錯誤の末、懐かしい味を復活させた。かわまちてらす閖上にオープンした屋号を引き継いだ店では、そのカツ丼を提供している。しっかりと染み込んだ甘じょっぱいタレは、サバ節を使用しているので独特な風味を持つ。盛り付けのグリーンピースの数やお新香の味まで忠実に再現したそうだ。
他には、津波で店舗が破壊された海鮮丼で有名な和食屋「漁亭 浜や」、工場が流失した笹かまぼこの「ささ圭」や「佐々直」など閖上ゆかりの店が入る。かわまちてらす閖上はレジャー客が楽しめるだけでなく、地元住民が故郷の味に触れられる貴重な場所でもあるのだ。
かわまちてらす閖上
- 住所:宮城県名取市閖上1
- アクセス:JR名取駅から乗合バス「なとりん号」で「閖上中央第二団地南」下車、徒歩5分
- TEL:022-399-6848
- 定休日・営業時間:店舗により異なる
伝承館で震災の傷跡と復興への歩みを知る
かつての港町のにぎわいを取り戻しつつある閖上には、犠牲者に祈りを捧げると同時に、震災被害の記録や記憶を残し、防災の重要性を広く発信する施設や祈念公園も完成している。
かわまちてらす閖上から名取川沿いに海側へと7分ほど歩くと、河口近くに2020年5月に開館した「名取市震災復興伝承館」がある。館内は3つのスペースに分け、東日本大震災の資料を展示し、防災のセミナーや体験学習なども行う。入口正面に見える「コミュニティスペース」には、震災前の閖上地区のジオラマと現在の名取市のマップが設置してあるので、町並みの変容が一目瞭然だ。
「展示スペース」へ進むと、復興の様子を写真やデータで伝えるパネルや、津波の脅威を体感できる展示が並ぶ。「水圧体験ドア」は、浸水によって水圧がかかったドアの重さを再現。押し開けるには相当な力が必要なので、迅速な避難の大切さを実感できる。
「シアタールーム」では市内で起きた津波被害の写真展示や、防災についてのレクチャー映像を放映。震災被害の切迫した状況や避難生活の困難さに触れることで、防災について今一度考えるきっかけとなるだろう。
名取市震災復興伝承館のホームページでは、市内の団体が開催する防災・減災のワークショップや被災地を巡るガイドツアーなどの情報も発信している。震災や避難生活を体験した“語り部”から当時の話しを直接聞くことで、防災意識をより高められると好評だ。予約が必要な講話やツアーも多いので、訪問前にチェックしておこう。
名取市震災復興伝承館
- 住所:宮城県名取市閖上2-66
- アクセス:JR名取駅から乗合バス「なとりん号」で「閖上中央第二団地南」下車、徒歩10分
- TEL:022-393-6520
- 営業時間:午前10時~午後4時(4月~11月は午前9時30分~午後4時30分
- 定休日:火曜(祝日の場合は開館し翌日休)
- 料金:無料
鎮魂の祈りと復興への願いを捧げる祈念公園
伝承館から北へ徒歩10分弱の場所に、閖上地区のランドマーク・日和山(ひよりやま)を含む「名取市震災メモリアル公園」が広がる。園内には慰霊碑が立つ鎮魂ゾーンや、震災遺構が展示される伝承ゾーンなど5つのエリアが設けられ、閖上のまちびらきに合わせて2019年5月に開園した。
「祈りの広場」の中央に建つ慰霊碑「芽生えの塔」は、震災の犠牲者が天へと昇る姿と、復興へと向かう市民の新たな決意をイメージしたという。高さは8.4メートルで、この地点を襲った津波の高さと同じ。多くの犠牲者の名が刻まれた芳名板とともに、震災の恐ろしさと防災の大切さを未来へと発信していく。
標高6.3メートルの日和山頂上にある「富主姫(とみぬしひめ)神社」も再建された。「閖上湊神社」の末社で、港町らしく海上安全や大漁、商売繁盛などの御利益があるといわれるが、津波に飲み込まれてしまい、社殿が流失した。13年に新造された社殿は、震災で犠牲になった方の鎮魂社の役目も担い、メモリアル公園を山頂から見守っている。注目は鳥居の前に座る狛犬。津波で流されたものの、地元の人が奇跡的に発見し、再び設置したという。
「遺構と伝承ゾーン」では、倒壊した歩道橋や街灯など、震災の脅威を伝える遺構も保存展示している。名取市は仙台市の隣に位置するため、東日本大震災の祈念公園や伝承館の中では比較的アクセスしやすい。かわまちてらす閖上では地元グルメも堪能できるので、ぜひ訪れてみてほしい。
名取市震災メモリアル公園
- 住所:宮城県名取市閖上5-142
- アクセス:JR名取駅から乗合バス「なとりん号」で「震災メモリアル公園」下車、徒歩1分
- TEL:022-724-7144(名取市企画部政策企画課)
取材・文=シュープレス
写真=ニッポンドットコム編集部(提供写真以外)
(バナー写真=名取市震災メモリアル公園の芽生えの塔)