鋳物の町・高岡:日本三大仏「高岡大仏」と格子造りの家並みが残る「金屋町」
Guideto Japan
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地場産業の象徴・高岡大仏
大仏といえば、奈良の大仏(東大寺)と鎌倉大仏(高徳院)を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。歴史と知名度で2つが抜きんでているので、「日本二大仏」でよさそうだが、日本人はとかく「三大〇〇」と3つ並べたがる。
「日本三大仏」の3枠目の有力候補とされるのが、「高岡大仏」(大仏寺)と「岐阜大仏」(正法寺)。「兵庫大仏」(神戸市・能福寺)や「東京大仏」(板橋区・乗蓮寺)が数えられることもある。歴史や格式、大きさや芸術性など、さまざまな視点があるので議論は尽きないが、各地域においては信仰の対象であり、大切な観光資源でもあるため、町の誇りをかけて「われこそが日本三大仏の一つ」とPRに力を入れている。
特に高岡大仏は、地元の伝統工芸を象徴する存在だ。高岡は江戸時代の初めから鋳物作りが盛んな町で、茶器や花器、仏具などの銅製品「高岡銅器」が有名である。13世紀頃に高岡の北西にある二上山に木製の大仏が造立されたが、加賀藩の藩祖・前田利長(1562-1614)が高岡城を築いた際、城下町へと移転。江戸と明治の大火で2度の焼失を経験し、火事に強い銅像にすることとなった。地場産業である高岡銅器のさらなる発展への願いも込め、職人たちの技術力を結集して1933(昭和8)年に完成した。
台座を含めた高さは15.85メートル。大仏自体の高さは7.43メートルで、奈良の大仏の約15メートルと比較すると約半分。阿弥陀如来の発する光明を表現した「円光背(えんこうはい)」を持つなど精巧な造りが特徴で、なんと言っても “イケメン”なことで知られている。与謝野晶子は鎌倉大仏を「かまくらや御ほとけなれど釈迦牟尼(しゃかむに)は 美男におはす夏木立かな」と歌ったが、その後に高岡を訪れ、完成したばかりの大仏を目にして「鎌倉大仏より一段と美男」とたたえたという。
高岡銅器発祥の地・金屋町
高岡の鋳物作りは、利長が産業振興のために近郷から7人の鋳物師(いもじ)を招き、現在の高岡市金屋町に住ませたことから始まった。当初は鍋や釜などの生活用品や農具が中心だったが、江戸中期頃から茶器や花瓶、仏具に彫金を施す「銅合金鋳物」が盛んに作られるようになる。明治に入り、高岡銅器は海外の博覧会でも高い評価を受けるなど、国内外で人気を確立していく。今では、寺院の梵鐘(ぼんしょう)や銅像といった大きなものから、家庭用の仏具や花瓶、アクセサリーなどの小物まで多彩な製品を扱い、日本の銅器生産の9割以上を占めるという。
現在は鋳物メーカーの多くが高岡銅器団地などに製造拠点を移しているが、発祥の地・金屋町には昔ながらの町並みが残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。工房のギャラリーやショップ、銅器や鉄瓶をそろえる骨董(こっとう)品店、食堂やカフェが点在し、観光客にも人気が高い。金屋町のメインストリート・石畳通りの入り口近くには、地域の歴史や鋳造技術を知ることができる「高岡市鋳物資料館」があるので、立ち寄ってから散策するのがおすすめだ。
石畳通り沿いの「高陵金寿堂」には、高岡大仏の原型となった銅像が置かれている。高岡大仏は地元で寄付金を募って再建したので、彫刻家・中野双三が原型を作り上げた際に、協力者への配布用に同じ銅像を数十体製造したという。その貴重な一体が参考品として展示してあるのだ。
高陵金寿堂には人間国宝に指定された金森映井智、大沢光民の作品をはじめ、新旧の名匠が手掛けた高岡銅器がズラリと並ぶ。店の奥の座敷には、全国から集めた鉄瓶や茶釜などの逸品もそろうので、ぜひのぞいてみてほしい。
鋳物体験ができる金屋町の工房
現在も金屋町で製造を続けているのが「鋳物工房 利三郎」。伝統的技法で手作りした茶釜や花瓶が並ぶ店舗の奥には、鋳物製造を体験できるアトリエがあり、砂型に文字や模様を釘で彫り、溶かしたスズを流し込んで自分だけの小皿や箸置きを持ち帰ることができる。
利三郎の号を継ぐ5代目の神初(じんぱち)宗一郎さんは、60年以上も鋳物作りを続けている。作品には新しさを加えながらも、伝統的な技法を大切にし、金屋町での製造にこだわりを持つ。今でも失敗することは多く、古い文献を調べるなど「勉強の日々」だと言う。そして、いつもたどり着くのが、昔見た先輩職人の姿だそうだ。
「うまく行かないことがあると、先輩たちがやっていた動きを思い出す。まねしてみると、昔は意味が分からなかったのに、経験を積み重ねたことで“こうした方が確かに効率良いな”と今になって気付く」
利三郎ではタイミングが合えば工房の見学も可能。熟練の職人の技術を目の当たりにできる貴重な機会となるので、興味のある人は問い合わせてから訪れよう。
高岡の鋳物はポテンシャルが高い
モダンなショールームを構える四津川製作所では、長年培ってきた高岡銅器の伝統美を押し出した「喜泉堂」と、その伝統に現代風のアレンジを加えたライフスタイルブランド「KISEN」の製品を展示販売している。
近年は、高岡鋳物のシンプルな花瓶やワインクーラー、木と金属を組み合わせたぐいのみなど「KISEN」の売り上げが好調だとしつつ、代表取締役の四津川元将さんは「今の市場でウケるものと、伝統的なものの両方を大切にしなければいけない」と語る。今は全国的に伝統工芸品をモダンにリデザインするのがブームだが、「デジタルとアナログのように、それぞれの良さが評価される時代が来る」と予想するのだ。
そして、職人たちの仕事を守ることもメーカーには大切なことだと言う。
「高岡の鋳物作りは分業制なので、バランスも考えなければならない。例えば磨きの工程が必要ない商品ばかりを作っていたら、磨きの職人さんは減ってしまう。そうすると磨きが重要な商品を作りたいとき、困ることになる。メーカーは職人さんの生活やモチベーションなども考えながら、ラインアップを練り上げねばならない」
完成した商品は、各分野の職人に見せて回っているそうだ。分業制の伝統工芸では、自分が担当する部品や途中経過しか知らず、完成品を見ないままの職人も少なくない。そして、自分の工賃は分かっていても、いくらで販売する商品かを知らない場合も多々ある。問屋から大量の発注があったバブル時代までは、それでも問題なかったが、小ロットの発注が多い今では、そうした地道な努力によって、職人にやりがいを持ってもらう必要があるという。
「高岡の鋳物はポテンシャルが高い。銅に加えて金や銀、チタンなどのいろいろな金属を、銅像のような大きなものから、ジュエリーのように小さなものまで加工でき、彩色や彫金の技術も優れている。職人さん、そして地域と力を合わせ、もっとメジャーなものにしていきたい」
四津川さんは2020年11月、古民家ホテル「金ノ三寸(かねのさんずん)」もオープンした。金屋町に宿泊して、室内に置いてある高岡銅器を実際に使ってもらうことで、町の魅力と伝統工芸をアピールしていく。
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
(バナー写真:「日本三大仏」の文字が掲げられた高岡大仏がある大仏寺の門)