新潟発祥の泳ぐ宝石・錦鯉(後編):日本国内での再評価が課題、「国魚」制定の動きも
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—新潟発祥の泳ぐ宝石・錦鯉(前編)から続く
錦鯉の国内外での宣伝に一役買ったのが、新潟を地盤とした第64・65代首相の田中角栄である。目白の田中邸の庭では200尾もの錦鯉が泳いでいたことはよく知られている。在任中に完成した迎賓館の池に錦鯉を放ち、海外から訪問した貴人・要人たちにも記念品として贈呈するなど「国魚」としてアピール。そうした努力が、今日の輸出好調に貢献したといえる。
息の長い錦鯉ブームによって後継者も育つ
新潟県錦鯉品評会の2日後に、最高賞に輝いた大日養鯉場、そこから独立した業者で組織される「大日OB会」の品評会も視察させてもらった。
こちらは業者しか入札できないため、少数の参加者の中で欧米人の姿が目立ち、中国語が飛び交うのも聞こえてきた。コロナ禍にもかかわらず、わざわざ来日したのかと思ったが、ほとんどが以前から日本に駐在して錦鯉を仕入れている専門のバイヤーだという。このことからも、海外での錦鯉熱を感じざるを得ない。
40年以上養鯉業に携わる大日OB会の野上久人会長は、「昔は海外から鯉を買いに来たり、自分が国外に売りに行ったりする日が来るとは全く想像しなかった。最初の頃は一時的なブームだと思っていたのに、それが20年近くも続いている」と語る。日本の愛好家が高齢化しているのに対し、海外では若い世代の錦鯉ファンも多いというので、ブームはまだまだ続きそうだ。
野上会長が何よりうれしいのが、養鯉業では将来の担い手が豊富なこと。日々の地道な飼育作業に加え、交配には試行錯誤や芸術的センスも必要となる大変な仕事だが、今では世界中を相手にし、成果を出せば大金も稼げる。若者にとっては、魅力的な就職先となっているのだ。
国内での普及が課題
全日本錦鯉振興会新潟地区長の伊佐光徳さんは、輸出が好調なことや後継者が育っていることを喜びつつ、懸念することもあるという。
最近の錦鯉の話題といえば、「海外輸出が好調」「高額で取引されている」といったことばかりに注目が集まり、国内では錦鯉の素晴らしさが忘れられつつあることだ。伊佐さんは「日本ではお金持ちの道楽的なイメージがまだ抜けない。錦鯉は水槽でも育てられ、数百円から買えるので、もっと多くの人に親しんでほしい」と言う。
鯉は飼育環境に合わせて成長するため、養鯉業者は春から秋まで広い野池に放流するのだが、一般家庭の水槽で飼えば小さいまま楽しむこともできる。実際、欧州では数千円のものがよく売れており、子どもが餌やりを担当するなど、家族全員でペットとして育てている場合が多いそうだ。
さらに、優秀な錦鯉が大量に流出していることで、海外の養殖レベルも高くなっている。
「日本のレベルとはまだ差があるが、特に中国の養鯉業者は頑張っていて、将来は強力なライバルになるでしょう。そのうち海外では、“錦鯉は中国発祥”と勘違いする人も増えてくるかもしれない。国魚に指定して日本の宝だとアピールしたり、もっと国内でも普及させたりすることが必要だと感じている」(伊佐さん)
錦鯉の魅力を発信し、観光にも活用
小千谷市の観光施設「錦鯉の里」では、錦鯉の魅力を広く発信している。資料展示室では錦鯉の歴史や品種、飼育方法などを解説し、観賞棟の巨大なプールや日本庭園の池では330尾もの錦鯉が華麗に泳ぐ。
この施設がユニークなのは、館内を泳ぐ錦鯉のうち約250尾にはオーナーがいること。地元・小千谷産の錦鯉を購入してもらい、それを無料で飼育して展示しているのだ。1年間は必ず預けねばならないが、その後は成長具合などに応じて、好きなタイミングで自宅に持ち帰れる。錦鯉の普及に貢献しつつ、一般の入場者には触れ合いの機会を与えるという一石二鳥の運営方法である。餌やり体験もできるので、子どもたちは大量に集まってくる鯉に歓喜の声を上げていた。
養鯉業の繁栄によって、昔ながらの里山が守られ、観光資源にもなっているという。農家の高齢化が進み、作業負担の大きい段々畑は年々使われなくなったが、錦鯉を成長させるための野池として活用することで、懐かしい風景が保存されているのだ。
2017年には「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム」として、新潟中越地方の里山の風景が日本農業遺産に認定された。20年からはライトアップと花火大会を開催する「山古志 棚田・棚池あかりのページェント」も始まっている。
2019年には自民党内で「錦鯉文化産業振興議員連盟」が設立されるなど、正式に国魚に指定しようという動きが活発化している。同年に全日本錦鯉振興会が作成した推進ポスターには、角栄氏が遺した「國魚」の墨書が使用された。
海外での需要が拡大している今だからこそ、国内でも日本の宝として再評価され、関心が高まることが期待される。
取材・文・写真=ニッポンドットコム
(バナー写真:錦鯉の里の日本庭園で、あでやかな着物をまとったような錦鯉が優雅に泳ぐ)