手頃なカキが食べごろ!:コロナ禍で“おうちでカキフライ”は復権するか?

秋から冬に旬を迎える魚介が不漁続きの2020年、カキの水揚げ量は順調だ。近年は家庭での消費量が減少していただけに、カキ生産者や流通業者の中では「巣ごもり需要もあり、転換期になるのでは?」と期待が高まっている。

栄養素をバランスよく含み、「海のミルク」と呼ばれるカキがシーズンまっただ中。主力産地・広島県をはじめ、順調な水揚げが続いており、春先まで比較的安く、おいしいカキが食べられそうだ。

東京・豊洲市場(江東区)の水産卸会社によると、10月から12月中旬まで「広島や岩手県産などのむきカキ(むき身)の入荷は、昨年よりも多く、相場はおおむね2割くらい安い」という。秋・冬に旬を迎える魚介は多いが、「サンマやサケ、イカなどが軒並み不漁で品薄・高値となっただけに、ようやく旬の味が売り込める」と鮮魚専門店のバイヤーは胸をなで下す。

各地おおむね順調な水揚げで昨年より安くなっているカキ PIXTA
各地おおむね順調な水揚げで昨年より安くなっているカキ PIXTA

20年で消費半減

カキの消費量は日本全体で一貫して下がり続けている。総務省のまとめによると、2019年の全国1世帯当たり(2人以上)のカキの購入量は、約420グラムで10年前に比べて3割以上減少。20年ほど前からは半分以下に落ち込んでしまっている。

内外のカキ事情に詳しい「牡蠣の会」の泉祥子代表 写真:本人提供
内外のカキ事情に詳しい牡蠣の会の泉代表 写真:本人提供

なぜ、カキ離れが進んでいるのか。生産から消費に至るまで、その動向に詳しい一般社団法人「牡蠣の会」(東京)の泉祥子代表は日本人のカキ離れの要因について、次のように指摘する。

「かつてノロウイルス食中毒が発生した際、カキが原因とされたことで、警戒感が強まり、消費減につながったことがあった。でも、最大の理由は、家庭でカキフライなどを作って食べる機会が減っていること」とみる。

日本人にとってカキと言えば生食ではなく、加熱用が主流。鍋やシチュー、ソテーといった食べ方もあるが、やはりカキフライがメジャー。飲食店などでも冬場のこの時期にメニューに加わるので、旬の味に「待ってました!」と言いたくなる人は少なくないはずだ。

広島県の郷土料理「土手鍋」もカキが主役 PIXTA
広島県の郷土料理「土手鍋」もカキが主役 PIXTA

カキフライは日本独自の文化

海外のカキ事情にも詳しい泉代表によればこのカキフライ、日本独自の食文化だとか。「海外ではほとんどお目にかかったことがない。どこも生食が主流」と語る。

中華料理では味付けに「オイスターソース」が使われ、カキを炒め料理やスープに入れるのも一般的だが、欧米などではオイスターバーを筆頭に生食することが断然多い。泉代表はオーストラリアやカナダでフリッターを食べたというが、パン粉をつけて揚げ、タルタルソースを添えるのは日本ならでは。訪日観光客の間では、人気の高いトンカツとセットで提供されることも多いため、「和食」として浸透し始めている。

ただ、国内では前述の安全性の懸念に加え、核家族や単身世帯の増加などを背景に、手間の掛かる「揚げ物」を敬遠する傾向が広がっており、自然と家庭の食卓からカキフライが遠ざかっているようだ。

銀座の洋食店「煉瓦亭」で誕生したというカキフライ。トンカツと共に訪日観光客からの人気が高まっているが、日本の家庭では揚げ物を作らなくなっている
銀座の洋食店「煉瓦亭」で誕生したというカキフライ。トンカツと共に訪日観光客からの人気が高まっているが、日本の家庭では揚げ物を作らなくなっている PIXTA

コロナ禍を逆手に

消費が下がる一方では、生産・流通関係者も頭を悩ますしかなかったが、この状況が一変するかもしれないという期待感が高まってきた。コロナ禍により、料理店からの発注が減ったとしても、流通サイドは「巣ごもり消費にあやかれるのではないか」と色めき立つ。これを機に、食卓でカキフライが復権し、生食ブームにも火が付く可能性があるからだ。

豊洲の卸「中央魚類」は今年9月から、大ぶりで衣が薄い「築地社員食堂の大きなまかないカキフライ」という冷凍品を発売。築地市場時代、同社の社員食堂で作っていたカキフライを再現した商品で「通常(重量の)半分くらいを占めている衣を40~45パーセントに抑え、生のカキを素早く商品化しているため、うま味がぎっしり」(同社担当者)とPR。発売以来、既に全国の量販店に販路を広げたという。

大粒のカキを使い薄い衣で仕上げたカキフライ 写真:筆者提供
大粒のカキを使い薄い衣で仕上げたカキフライ 写真:筆者提供

広島・兵庫のカキ業者も大忙し

産地では、取扱量で全国トップクラスという広島県のカキメーカー「クニヒロ」(本社・尾道市)も巣ごもり需要に手応えを感じている。同社の川崎耕平事業開発部長によると、家庭用通販が今秋から好調で「加熱用の冷凍品に加え、殻付きのカキの売り上げが昨年に比べて大幅に伸びている。オイスターバーを再現するかのように、自宅で楽しんでもらっているのではないか」と言う。自宅用のほかギフトとしての注文も伸びており、中国をはじめアジア諸国への輸出も増加傾向で、うれしい悲鳴を上げている。

尾道市に本社を置くクニヒロの川崎部長 写真:筆者提供
尾道市に本社を置くクニヒロの川崎部長 写真:本人提供

「サムライオイスター」をPRする船曳商店の船曳晶子営業広報部長 写真:船曳商店提供
サムライオイスターと船曳晶子部長 写真:船曳商店提供

兵庫県赤穂市の水産卸会社「船曳商店」では、コロナの影響で業務用の販売は振るわないものの、ネット注文が相次ぎ、出荷作業で大忙し。赤穂浪士にちなんでブランド化した「サムライオイスター」は、「ぷりっとして加熱しても身の縮みや臭みが少ない」と同社。リピーターも多く、今秋の一般向けの通販売り上げは昨年の3倍以上という。

12月初めには貝毒が検出され、出荷が規制されていたが、下旬に再開のめどが立ち、再び新鮮なカキを出荷できるようになった。同社の船曳晶子営業広報部長は、「これから来年3月にかけて、カキはますますおいしくなる。料理店で食べる機会が減った分、ぜひ自宅でカキフライや鍋、生食など、いろいろな食べ方で旬の味を楽しんでもらいたい」とアピールする。

通販での自宅用の消費が伸びているというカキ 写真:船曳商店提供
通販での自宅用の消費が伸びているというカキ 写真:船曳商店提供

(バナー写真:タルタルソースを付けたカキフライ PIXTA)

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