絶景とスリルの連続!「黒部峡谷トロッコ電車」で富山の豊かな自然を体感

富山県随一の景勝地として知られる黒部峡谷(黒部市)。その美しい自然の中を走り抜けるトロッコ電車は、沿線に温泉地や見どころが多く、高い人気を誇る。車窓の風景を中心に、主要駅近くの絶景ポイントも紹介する。

窓のないトロッコ電車で大自然を満喫

富山県東部を走る「黒部峡谷トロッコ電車」は、宇奈月から欅平までの20.1キロを片道1時間20分で結ぶ。国の特別天然記念物や特別名勝の指定を受ける黒部峡谷の断崖、高さ60メートルの鉄橋などを走り抜け、トンネルを抜けるたびに絶景が出現する。

富山地方鉄道の「宇奈月温泉」駅に隣接する「宇奈月」駅
富山地方鉄道の「宇奈月温泉」駅から徒歩5分の「宇奈月」駅

車窓から撮影した6つの峰がそそり立つ「出六峰(だしろっぽう)」
車窓から撮影した6つの峰がそそり立つ「出し六峰(だしろっぽう)」

黒部峡谷は、立山や剱岳、薬師岳などの立山連峰と白馬岳を代表とする後立山連峰の山あいを縫う黒部川によって形成された。標高差3000メートルの急流によって浸食されたV字谷で、エメラルドグリーンの川面、山々の緑が雄大な風景を織りなし、清津峡(新潟)と大杉谷(三重)と並び日本三大渓谷に数えられる。

2両の機関車が電車を引っ張り、窓のないオープン型が普通客車で、追加料金が掛かる窓付きのリラックス客車などもある。黒部峡谷鉄道営業部企画広報係の西田義宏さんは、「普通客車は、黒部峡谷の自然を肌で感じることができます。ただ、トンネル内などは寒いので、もう1枚上着を持ってきてくださいね」とアドバイスする。行きはトロッコ電車で風を感じ、帰りはゆったりと窓付き客車と、両方乗るのもおすすめだそうだ。

電車自体がフォトジェニックで、すれ違う時はシャッターチャンス
電車自体がフォトジェニックで、すれ違う時はシャッターチャンス

やはり開放的なトロッコ電車が一番人気
やはり開放的なトロッコ電車が一番人気

寒さの心配がなく、沿線案内放送もよく聞こえるリラックス客車
寒さの心配がなく、転換背もたれのあるリラックス客車

資材運搬用の鉄道が、人気の観光列車に

始発駅の宇奈月駅周辺から絶景ポイントが多い。駅近くのやまびこ遊歩道にある「山彦橋」は歩いて渡れ、隣に並ぶ「新山彦橋」を通過するトロッコ電車を眺めることができる。駅駐車場の奥にある「やまびこ展望台」は、新山彦橋を見下ろす絶好の撮影スポット。トンネルから抜け出て来る電車をフレームに収めよう。

駅構内にはフードコートや喫茶コーナー、土産物がそろう売店などがある。2階には黒部峡谷鉄道の歴史を紹介するコーナーもあるのでのぞいてみてほしい。

山彦橋から新山彦橋を通過する電車に手を振る女性たち
山彦橋から新山彦橋を通過する電車に手を振る女性たち

やまびこ展望台からの夕景
やまびこ展望台から撮影したトロッコ電車の夕景

売店ではトロッコ電車のオリジナルグッズも販売
売店ではトロッコ電車のオリジナルグッズも販売

宇奈月駅2階の歴史コーナー。鉄道ファンにはたまらないお宝も展示してある
宇奈月駅2階の歴史コーナー。鉄道ファンにはたまらないお宝も展示してある

黒部峡谷トロッコ電車は、発電所建設の資材運搬用に造られた鉄道だったが、沿線の絶景が話題を呼び、観光列車に生まれ変わったという。

黒部川流域の発電施設は、黒部ダム(1956年着工)を代表格に、古くから数多く造られている。トロッコ電車が走るのは黒部ダムよりもだいぶ下流部で、1926(大正15)年から一部区間で運行を開始。現在の宇奈月-欅平間が開通したのは1937(昭和12)年のことである。

宇奈月駅を発車してすぐの宇奈月ダムとうなづき湖。沿線には発電施設が数多くある
宇奈月駅を発車してすぐの宇奈月ダムとうなづき湖。沿線には発電施設が点在する

開通当初から地元民を無料で便乗させていたところ、「黒部峡谷の素晴らしい景色を眺められる」とうわさが広がり、登山者や温泉に向かう人なども乗り込むようになった。一般客が増加する中、1929(昭和4)年に便乗料金を徴収することが認可されたが、あくまでも資材運搬用の列車である。当時の「便乗證(しょう)」には、「便乘ノ安全ニ付テハ一切保證致シマセン」と記載されていた。

戦後、黒部川流域の発電施設が関西電力の管轄になると、1953(昭和28)年に「黒部鉄道」として営業運転を開始。1971(昭和46)年には子会社「黒部峡谷鉄道」を設立し、現在は「トロッコ電車」の愛称で親しまれている。

「便乘ノ安全ニ付テハ一切保證致シマセン」と書かれた1951(昭和26)年の便乗證
「便乘ノ安全ニ付テハ一切保證致シマセン」と書かれた1951(昭和26)年の便乗證

うなづき湖の新柳河原発電所は、湖上に浮かぶ城のよう。1993(平成5)年稼働と比較的新しい施設
うなづき湖の新柳河原発電所は、湖上に浮かぶ城のよう。1993(平成5)年稼働と比較的新しい施設

旅路はシャッターチャンスの連続

往路は鐘釣駅まで右に黒部川を見て、左には山が迫る区間が長いので、客車がすいていたら右側に座るのがおすすめ。絶景ポイントは車内放送で案内してくれるので、見逃さないように耳を傾けよう。宇奈月駅から黒薙駅に向かう途中には猿専用のつり橋が掛かり、運が良ければトロッコ電車の中から猿が渡る様子を見ることができる。

黒薙駅とつながる後曳橋(あとびきばし)は、沿線の中で最も高い地上60メートルにある青い鉄橋だ。あまりの恐ろしさに後ずさりしてしまうことから名付けられたというが、橋の上から見えるクラシカルな水路橋と険しい谷のコラボは絶景である。

専用のつり橋によって猿は対岸と行き来ができるという
猿が向こう岸を行き来できるように専用橋を架けている

黒薙駅から後曳橋へ向かう列車
黒薙駅から後曳橋へ向かうトロッコ電車

新柳河原発電所まで水を送るための橋。後曳橋の上から撮影
新柳河原発電所まで水を送るための橋。後曳橋の上から撮影

黒薙駅から鐘釣駅までの区間は、出し六峰や「ねずみ返し」の岩壁など個性的な山容が続き、黒部川の水辺やダムと美しい情景を生み出す。

全国的に珍しいスイッチバックが行われる鐘釣駅は、鉄道ファンに人気の駅。河原まで下りて水遊びが楽しめ、夏場には親子連れでにぎわう。しかも、河原には温泉がわき出していて、岩で囲って露天風呂を作ることもできる。

出し平ダムの横を通過するトロッコ電車
出し平ダムの横を通過するトロッコ電車

黒部第二発電所の赤い鉄橋の奥に見える岩肌が、高さ200メートルもある「ねずみ返しの岩壁」
黒部第二発電所の赤い鉄橋の奥に見える岩肌が、高さ200メートルもある「ねずみ返しの岩壁」

黒部鉄道のスイッチバックは、狭い場所ですれ違うために、本線から引き込み線に入って一度停車。発車する際に少しバックし、改めて本線に入って出発する
鐘釣駅のスイッチバックは、狭い場所ですれ違うために、本線から引き込み線に入って一度停車。発車する際に少しバックし、改めて本線に入って出発する

川面から湯気が上がる鐘釣河原。足湯が簡単に楽しめる
川面から湯気が上がる鐘釣河原。足湯が簡単に楽しめる

途中下車を楽しむのがトロッコ電車の醍醐味

終点の欅平駅周辺には温泉宿が点在し、魅力的なスポットもたくさんある。高さ34メートルの奥鐘橋からの景色は抜群で、渡った先の人喰岩も迫力満点。

片道約1時間半と旅路はけっこう長いが、河原展望台には無料の足湯が設置してあり、黒部峡谷の自然や開発の歴史を紹介するビジターセンターでも休憩できる。

屋上に展望台がある欅平駅
屋上に展望台がある欅平駅

祖母谷温泉方面に向かう奥鐘橋は、緑の中に朱色が映える。右手奥には黒部川第三発電所がある
祖母谷温泉方面に向かう奥鐘橋は、緑の中に朱色が映える。右手奥には黒部川第三発電所がある

岸壁がせり出したような人喰岩の下を歩ける。駅からは徒歩5分ほど
岸壁がせり出したような人喰岩の下を歩ける。駅からは徒歩10分ほど

奥鐘橋や周囲の山々を見上げることができる河原展望台。足湯は大人気!
奥鐘橋や周囲の山々を見上げることができる河原展望台。無料の足湯は大人気!

黒部峡谷トロッコ電車は、例年積雪の多い12月から4月中旬までは運休となり、宇奈月-笹平間で運行を開始して、5月から11月末まで全区間運行となる。おすすめの季節を西田さんに聞くと、「春は山にまだ雪が残る中、新緑も美しい。夏は河原で水遊びができますし、秋は紅葉が見事です。いつ来ても、何度乗っても、トロッコ電車は楽しめるので、途中下車をしながらゆっくりと巡っていただきたいです」と答えてくれた。

10月末の取材時にも、雪を頂く山が望めた
10月末の取材時にも、雪を頂く山が望めた

黒部峡谷トロッコ電車

  • 宇奈月駅:富山県黒部市黒部峡谷口11
  • 運行期間:宇奈月-欅平区間=5月1日~11月30日、※4月20日~30日は宇奈月-笹平区間を運行
  • 運賃:宇奈月-欅平(往復)=大人3960円、子ども1980円、リラックス車両券=530円、特別客車券=370円
  • 時刻表:公式ホームページで確認

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
(バナー写真:新山彦橋を通過するトロッコ電車)

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