都心のど真ん中にある修行の場「増上寺」:東京タワーとのコラボで人気の徳川将軍家菩提寺

歴史

東京の中心地で徳川将軍家の墓を守り続ける増上寺。浄土宗の大本山という修業の場でありながら、境内の背後に東京タワーがそびえるインスタ映えスポットとしても注目されている。

三つ葉葵を探して境内散策

境内を散策するとさまざまな出会い、発見があり、時間を忘れてしまう。まず手水(ちょうず)をとり、心身を清める「水盤舎」から、家光の三男で甲府藩主だった綱重の「清揚院霊廟」の一部なのだ。その向かいにある鐘楼堂には、1673 (延宝元)年の鋳造で東日本最大級を誇る大梵鐘がつるされている。

戦災を逃れた建造物は、他にも慶安年間(1648-52)建造の「黒門」、1613(慶長18)年創建で1799(寛政11)年に改築された「経蔵」などがある。

水盤舎は、将軍家の霊廟建築様式を伝える貴重な遺構
水盤舎は、将軍家の霊廟建築様式を伝える貴重な遺構

江戸三大名鐘の一つに数えられた大梵鐘
江戸三大名鐘の一つに数えられた大梵鐘

3代家光が寄進した黒門は、三解脱門の南側に建つ
3代家光が寄進した黒門は、三解脱門の南側に建つ

こちらも徳川家寄贈の経蔵。都指定の有形文化財
こちらも徳川家寄贈の経蔵。都指定の有形文化財

大殿と共にお参りしてほしいのが、家康の院殿号「安国院殿」から名を取った「安国殿」。堂内中央には秘仏「黒本尊」が祀られている。家康が日々拝んでいた念持仏で、浄土教の基礎を築いた恵心僧都(源信、942-1017)の作と伝わる。

安国殿の瓦、徳川将軍家墓所の鋳抜門(いぬきもん)などには「三つ葉葵(あおい)」が刻まれている。将軍家の紋をあしらった飾りは菩提寺ならではで、それらを探して歩くだけでも楽しい。

法要や各種祈願の際に利用される安国殿では、お守りや札の販売している
法要や各種祈願の際に利用される安国殿では、お守りやお札を販売している

写真は、黒本尊の御前立。秘仏の黒本尊は、1月と5月、9月の各15日の年3回だけ御開帳される
写真は、黒本尊の御前立(おまえだち)。秘仏の黒本尊は、1月と5月、9月の各15日の年3回だけ御開帳される

鬼瓦の下に葵の御紋が並ぶ安国殿の屋根
鬼瓦の下に葵の御紋が並ぶ安国殿の屋根

徳川将軍家墓所の青銅製の鋳抜門は旧国宝。6代家宣の「文昭院殿霊廟」内にあったもの移築した
徳川将軍家墓所の青銅製の鋳抜門。6代家宣の「文昭院霊廟」内にあったものを移築した

往時の増上寺をしのべる宝物展示室

境内には多くの仏塔や石碑が並び、和宮ゆかりの茶室や熊野(ゆや)神社、町火消し「め組」の殉職者たちを弔う供養碑もあり、歴史好きならば興味は尽きない。

松永さんが「海外からの参拝客に人気」という「千躰子育地蔵尊(せんたいこそだてじぞうそん)」は、子どもの健やかな成長や水子供養の願いが込められた約1300体のお地蔵さんがズラリと並ぶ。

増上寺の鬼門を守る熊野神社は、1624(現和10)年の創建
増上寺の鬼門を守る熊野神社は、1624(元和10)年の創建

1716(享保元)年建立の「め組供養碑」。力士との乱闘事件が芝居や講談の題材にもなった「め組」は、いろは組町火消しの中でも特に有名だった
1716(享保元)年建立の「め組供養碑」。力士との乱闘事件が芝居や講談の題材にもなった「め組」は、いろは組町火消しの中でも特に有名だった

1975(昭和50)年から奉安が始まり、すでに1300体にも及んだ子育地蔵尊。風が吹くと風車が一斉に回り、壮観だ
1975(昭和50)年から奉安が始まった子育地蔵尊。風が吹くと風車が一斉に回り、壮観だ

増上寺の歴史をさらに深く知りたくなったら、大殿の地下1階にある「宝物展示室」へ。寺宝の数々が並ぶ展示室中央には、10分の1スケールの「台徳院殿霊廟模型」が置かれる。

東京美術学校(現・東京藝術大学)が制作し、1910(明治43)年の日英博覧会に出展されたもので、英国王室コレクションの倉庫に約100年間保管してあったという。家康の没後400年に当たる2015(平成27)年、宝物展示室オープンに合わせて公開が始まった。日光東照宮の原型ともいわれる台徳院霊廟を見事に再現しており、往時の増上寺の風景も思い浮かべることができる。

宝物展示室のエントランスでは、柳田泰雲の書や篠田桃紅の作品も観賞できる
宝物展示室のエントランスでは、柳田泰雲の書や篠田桃紅の作品も観賞できる

全100幅もある狩野一信の「五百羅漢図」を順次入れ替えて展示している
全100幅もある狩野一信の「五百羅漢図」を順次入れ替えて展示している

昔も今も変わらぬ修行の場

魅力あふれる増上寺境内だけに観光誘致にもっと力を入れたらとも感じるが、松永さんは「浄土宗大本山としての大切な役割があります」と言う。

増上寺は古くから、関東以北の18教区をまとめる大本山としての機能を持つ。京都の総本山・知恩院と並ぶ修行の場で、見習い僧は2つの寺のどちらかで最終の行を3週間積まねば、浄土宗の正式な僧侶にはなれない。現在も毎年約100人が、増上寺での修行を経て、各寺へと巣立っている。

境内では浄土宗開宗850年慶讃事業として、大殿の瓦のふきかえが始まり、三解脱門の解体大修理も予定している。

「大本山の役割をしっかりと守りながら、なるべく多くの方に参拝いただけるように努力しています。特に開宗850年の2025年に向け、より多くの方に浄土宗の教えに触れていただきたいです。東京タワーのライトアップは日々変わりますので、増上寺は何度足を運んでも楽しめますよ」(松永さん)

大殿の左にある光摂殿(こうしょうでん)には、修行のための道場や講堂が入る
大殿の左にある光摂殿(こうしょうでん)には、修行のための道場や講堂が入る

東京タワーのライトアップによって、日々趣が変わる夜の増上寺
東京タワーのライトアップによって、日々趣が変わる夜の増上寺

三縁山広度院 増上寺

  • 住所:東京都港区芝公園4-7-35
  • 参拝時間:大殿 午前6時~午後5時30分、安国殿 午前9時~午後5時
  • 徳川将軍家墓所: 平日=午前11時~午後3時、土日祝=午前10時~午後4時、定休日=火曜日(祝日の場合は公開)、拝観料=大人500円
  • 宝物展示室:平日=午前11時~午後3時、土日祝=10時~午後4時、休館日=火曜日(祝日の場合は開館)、入館料=一般700円
  • アクセス:都営地下鉄三田線「御成門」駅、「芝公園」からから徒歩3分。都営地下鉄浅草線・大江戸線「大門」駅から徒歩5分。JR線・東京モノレール「浜松町」駅から徒歩10分

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

この記事につけられたキーワード

観光 東京 神社仏閣 関東 港区 宗教 東京タワー 江戸時代 仏教 文化財 仏像 徳川家康

このシリーズの他の記事