“透けるトイレ”で話題の「THE TOKYO TOILET」:快適な公共空間が、多様性を尊重する社会を育む
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透けるトイレは“安心”“安全”
東京・渋谷の公園にガラス張りのトイレが8月上旬に出現し、SNSで写真が拡散されるなど国内外で話題となっている。斬新過ぎる見た目に驚きの声が多いが、ドアをロックすればガラスが不透明に変化する仕組みで、使用することを敬遠する人が多い公衆トイレにおいては、実は理にかなった設計である。
国土交通省が2016年に実施したアンケート調査によると、公園などの公衆トイレを「よく利用する」と答えたのはたったの1.2パーセント。「利用しない」は51.7パーセントで、「ほとんど利用しない」人と合わせると約9割がネガティブな回答だった。その理由として、「清潔感がない(68.1%)」「清掃が行き届いていない(54.6%)」「トイレ内や周辺の環境により、安心して使用できない(51.4%)」が、不満や不安を感じる点のトップ3に挙げられている。
内部の設備や清掃状況が一目瞭然の透けるトイレは、「誰か隠れていないか…」と心配する必要もなく、公衆トイレに対する不安を解消してくれる優れたデザインなのだ。
快適なトイレを整備・維持して、社会を変える
この透けるトイレは、2014年に「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞に輝いた坂茂(ばん・しげる)氏の設計。性別や年齢、障害の有無を問わず、誰でもが快適に利用できる公共トイレを設置しようと、日本財団が渋谷区と連携して進める「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの一つだ。
同プロジェクトには、安藤忠雄氏や伊東豊雄氏、隈(くま)研吾氏ら日本建築界の重鎮も参加しており、計16人で17カ所のトイレをデザインする。「ちがいをちからに変える街」をスローガンに掲げる文化発信拠点・渋谷から、個性豊かなデザインと優れたクリエーティブの力で、多様性を尊重する社会のあり方を提案することが目的だという。
現在完成したトイレは7カ所で、残り10カ所を2021年内に整備する。
デザイン性に加え、利便性や快適さも追求しており、機器選定やレイアウトの提案はTOTO、設計施工には大和ハウス工業が協力。トイレの案内板やピクトグラムは、アートディレクターの佐藤可士和氏が担当する。
日本財団の笹川順平理事は「この事業は、トイレの完成で(達成率は)50パーセント。これから、いかに利用してもらうかが重要だ」とし、清掃員が着用するユニホームの監修をファッションデザイナーのNIGO氏に依頼するなど、渋谷区や渋谷区観光協会と一緒にメンテナンスにも取り組んでいく。「快適なトイレを、次の人のためにきれいに使おう」といった他人を思いやる気持ちを育み、「おもしろいトイレがあるから、あの公園に行こう」となることを目指すという。
■坂 茂
「はるのおがわコミュニティパーク」(代々木5-68-1)
「代々木深町小公園」(富ヶ谷1-54-1)
富士山世界遺産センターなどの大型施設の設計に加え、「紙の建築」でも知られる坂氏。近年は、紙管と布を使った間仕切りシステムを考案し、被災地の避難所で活用されたことでも注目を集めた。その柔軟な発想力を生かした「透けるトイレ」は、代々木公園の西側に面した2つの公園に設置。清潔さと安全さを確認できる画期的なトイレと、海外でも話題を呼んでいる。昼間は遊具となじむカラフルな色彩で、夜は行燈(あんどん)のように公園を照らす。
■片山 正通/ワンダーウォール
「恵比寿公園」(恵比寿西 1-19-1)
ニューヨークやパリ、銀座などのユニクロ基幹店を手掛けたインテリアデザイナー・片山正道氏。樹木や遊具、ベンチのように公園になじむオブジェクトを意識し、建物の設計に挑戦した。15枚のコンクリートの壁を組み合わせたスタイリッシュな意匠であり、「迷路のようで、子どもが喜びそう」(笹川理事)なワクワク感も併せ待つ。
■田村 奈穂
「東三丁目公衆トイレ」(東3-27-1)
ニューヨークを拠点に活躍するプロダクトデザイナー・田村奈穂氏は、線路と歩道の間にある三角の狭い土地を担当。プライバシーと安全を重視してデザインしたというトイレは、折り紙のようなシンプルさと遊び心を感じさせる。3つの空間を効率よく並べたことで、内部は意外と広く、快適に利用できるだろう。
■槇 文彦
「恵比寿東公園」(恵比寿 1-2-16)
東京体育館や幕張メッセ、代官山ヒルサイドテラスなど、有名建築物を多数手掛ける槇文彦氏。休憩所を備えた公園内のパビリオンをコンセプトに、男性と女性、誰でもトイレを分散して配置して、中央にシンボルツリーを植えたパティオを設け、壁面にはベンチも備え付けている。その空間を、イカの耳のような屋根で統合。「タコ公園」と呼ばれる恵比寿東公園に「イカのトイレ」を誕生させた。
■坂倉竹之助
「西原一丁目公園」(西原1-29-1)
利用頻度が極めて少なかったという西原一丁目公園のトイレに挑んだのは、「東京ミッドタウン」の住居棟などで知られる建築家・坂倉竹之助氏。公園は幡ヶ谷駅近くにあるため、通勤・通学途中に気軽に「利用したくなる」デザインと仕組みで、夜は公園を明るく照らすよう工夫されている。
■安藤忠雄
「神宮通公園」(神宮前6-22-8)
プリツカー賞の受賞者で日本を代表する建築家の安藤忠雄氏は、自らデザインした「神宮通公園」のトイレを「あまやどり」と命名。渋谷と原宿を結ぶ明治通りに面しているだけに、大きな庇(ひさし)の下は雨天時の休憩場所として活用されそうだ。円形の外壁を縦格子にすることで光を取り込み、内側の通路を明るく安全な空間としている。
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部