芦ノ湖の絶景を優雅に楽しむ箱根海賊船:水戸岡デザインの豪華船も話題に

箱根でも指折りの景勝地「芦ノ湖」。その水面を進む「箱根海賊船」は、おとぎ話に登場しそうな豪華船の甲板から雄大な自然が望める。2019年春には水戸岡鋭治氏デザインの「クイーン芦ノ湖」が登場し、大人も子どもも楽しめる観光船として人気を呼んでいる。

神奈川県最大の湖・芦ノ湖畔は、駒ケ岳、神山など箱根の山々と共に、晴天の日には富士山も望める人気スポットだ。海からは遠く離れた山の中だが、芦ノ湖のシンボルとしてすっかりおなじみとなっているのが全長35メートル、幅10メートルの巨大な「箱根海賊船」だ。近年は、漫画『ONE PIECE(ワンピース)』や映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の影響による海賊ブームも手伝って、乗船した子どもたちは大はしゃぎ。船内は大人も存分に楽しめる遊び心がいっぱいだ。

芦ノ湖上を進む最新の海賊船「クイーン芦ノ湖」。晴天の日には、雄大な富士山を船上から拝める 写真提供:小田急エージェンシー
芦ノ湖上を進む最新の海賊船「クイーン芦ノ湖」。晴天の日には、雄大な富士山を船上から拝める 写真提供:小田急エージェンシー

歴史ある芦ノ湖畔の名所をゆったりと巡る

険しい箱根路にある水辺のため、芦ノ湖畔は古くからにぎわった。奈良時代創建の箱根神社は関東の鎮守として源頼朝はじめ多くの武将に崇敬され、東海道の要・箱根関所は江戸を出入りする人々を厳しく取り締まり、同時に宿場町を形成した。明治以後は避暑地、温泉地として箱根の人気が高まったことで、現在は多くの観光施設や飲食店、土産物屋が湖畔に並ぶ。

箱根海賊船の発着港は3つで、箱根関所近くには「箱根町港」がある。正月の風物詩・箱根駅伝の往路ゴール、復路スタート地点が目の前で、2005年には箱根駅伝ミュージアムも開設された。朝の始発船はこの港を出て、箱根神社や箱根恩賜公園が徒歩圏の「元箱根港」へと向かう。両港は南北に長い芦ノ湖の南側にあるため、乗船時間は10分程度の距離だ。

箱根町港に停泊する海賊船に乗り込む観光客。左がロワイヤルⅡ、右がクイーン芦ノ湖
箱根町港に停泊する海賊船に乗り込む観光客。左がロワイヤルⅡ、右がクイーン芦ノ湖

湖に突き出すように立てられた箱根神社の「平和の鳥居」。人気の撮影スポットで、長蛇の列ができている
湖に突き出すように立てられた箱根神社の「平和の鳥居」。人気の撮影スポットで、長蛇の列ができている

南側の「元箱根港」から、北側の「桃源台港」までは約25分。港に直結している駅からロープウェイに乗れば、今も噴煙を噴き上げる箱根の名所・大涌谷まで約16分。さらに、ロープウェイの終点の早雲山駅からケーブルカー、強羅から箱根登山鉄道へと乗り継げば、箱根を満喫する観光プランを立てることができる。

噴煙を上げる大涌谷を通過する箱根ロープウェイ
噴煙を上げる大涌谷を通過する箱根ロープウェイ

ビクトリーのデッキから桃源台港とロワイヤルⅡを撮影
ビクトリーのデッキから桃源台港とロワイヤルⅡを撮影

桃源台港から箱根港までも25分ほど。箱根町→元箱根→桃源台と、芦ノ湖上を反時計回りに巡るのが基本の周回航路で、停泊時間を含めて一周の所要時間は約70分。往復チケットを購入すれば、どの港から乗っても同じ港に戻れるので、途中下船して名所を巡ったり、違う船に乗り換えたりすることが可能。港近くには無料駐車場もあるので、車での観光でも利用しやすい。

箱根港の無料駐車場前にある箱根駅伝ミュージアム。その横には、「箱根駅伝」の往路ゴール地点の石碑が立つ
箱根港の無料駐車場前にある箱根駅伝ミュージアム。その横には、「箱根駅伝」の往路ゴール地点の石碑が立つ

子どもは大喜び、大人はうっとりの新型船登場

現在運航する海賊船は3隻で、一番古株の「ビクトリー」(2007年就航)はトラファルガーの海戦(1805)などで活躍した英国の戦艦ビクトリーがモデル。船内には、大砲や宝箱が置いてあるなど海賊気分を満喫できる。

2013年就航の「ロワイヤルⅡ」のモデルは、18世紀に活躍した仏国の第一級戦艦ロワイヤル・ルイでゴージャスな雰囲気。デッキなどに出現する海賊像に加え、船内の廊下には3Dアートも描かれるなど、インスタ映えスポットが盛りだくさんだ。

桃源台港に到着する黒が基調のビクトリー
桃源台港に到着する黒が基調のビクトリー

ロワイヤルⅡの展望デッキには、海賊の舵取りと見張り番がいる
ロワイヤルⅡの展望デッキには、海賊の舵取りと見張り番がいる

ロワイヤルⅡの通路に描かれた3Dアート。海賊に襲われたような写真が撮影できる
ロワイヤルⅡの通路に描かれた3Dアート。海賊に襲われたような写真が撮影できる

今、一番の注目を集めるのが、19年春に就航した新型船「クイーン芦ノ湖」。九州新幹線や豪華寝台列車「ななつ星in九州」などの斬新な列車デザインで知られる、水戸岡鋭治氏がデザインを担当した。

クイーン芦ノ湖はゴールドを基調にし、船首には女神像を配した優美な姿。深紅を印象的に使ったデッキには、王冠のエンブレムがあしらわれている。箱根観光船で営業企画を担当する柴山奈那子さんは「クイーン芦ノ湖は“心ときめくクルーズ”をコンセプトに、従来の子どもに愛されてきた海賊船の雰囲気に、親世代や年配の方にも満喫してもらえる上質感をプラスした」と説明する。

クイーン芦ノ湖を導くのは、勝利をもたらす女神ニケ
クイーン芦ノ湖を導くのは、勝利をもたらす女神ニケ

展望デッキにも水戸岡テイストがあふれている
展望デッキにも水戸岡テイストがあふれている

船室内も細部に至るまで水戸岡テイストがあふれる。箱根の寄木細工をモチーフにした床材や、福岡県の大川組子を建具に取り入れるなど、伝統工芸の技と美しさを西洋風の豪華な装飾と調和させている。船内の細部にみとれているうちに、デッキに上がる前に目的地に着いてしまうので要注意なほどだ。

一般船室でも豪華で快適。椅子の背面や天井にまで、デザインが施される
普通船室でも豪華で快適。椅子の背面や天井にまで、デザインが施される

天井の装飾や格子が美しい。窓の上に飾られるのは、水戸岡氏のデザイン画
壁や天井の装飾、組子が美しい。窓の上に飾られるのは、水戸岡氏のデザイン画

特別船室で海賊船を満喫

おすすめの楽しみ方を聞くと、柴山さんは「特別船室は、追加料金をご負担いただくだけの価値があります」と胸を張る。定員制なので、一段と豪華な調度に囲まれてゆったりとくつろいだ時間を過ごすことができる。特別船室と専用の展望デッキは船首側にあり、眺望も格別。女神の翼越しに箱根神社の「平和の鳥居」の写真を撮れるのは特別船室の特権である。

クイーン芦ノ湖の特別船室
クイーン芦ノ湖の特別船室。寄木風の床

女神越しの風景は特別船室でしか見られない
特別船室の専用デッキからしか見られない女神と鳥居の共演

「もっと多くの方にクイーン芦ノ湖の魅力を知ってもらいたい」と、柴山さんは言う。19年4月末の就航直後の5月、大涌谷の火山活動が活発化し、箱根ロープウェイが運休。警戒レベルが下がった10月には台風被害が発生し、今度は箱根登山電車が走れなくなった。箱根海賊船は、箱根登山電車とケーブルカー、箱根ロープウェイ、箱根登山バスを利用する観光ルート「箱根ゴールデンコース」で、芦ノ湖の水上交通を担っている。どこかの区間が途切れると、客足に影響が出てしまう上に、そこにコロナ流行まで重なった。そのため、クイーン芦ノ湖の魅力はまだまだ浸透していない。

「7月下旬に箱根登山電車が全線運転再開し、箱根に少し活気が戻って来ました。コロナ流行は続きますが、久々に復活したゴールデンコースは今年秋に60周年を迎えます。さまざまなイベントを仕掛ける予定なので、ぜひ箱根にいらしてください」(柴山さん)

コロナウイルス感染拡大の影響で、減便する場合があるので時刻表は公式ホームページなどで要確認
芦ノ湖上を優雅に進むロワイヤルⅡ。コロナウイルス感染拡大の影響で、減便する場合があるので時刻表は公式ホームページなどで要確認

箱根海賊船

  • 箱根町港:神奈川県箱根町箱根161
  • 元箱根港:神奈川県箱根町元箱根6-40
  • 桃源台港:神奈川県箱根町元箱根164
  • 運賃:往復運賃…大人1930円 ・子ども940円(特別船室追加料金…大人770円・子ども400円)、片道運賃…大人1050円 ・子ども520円(特別船室追加料金…点大人500円・子ども250円) ※その他に「海賊船・ロープウェイ1日きっぷ」など有り

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:平和の鳥居前を通過するクイーン芦ノ湖

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