箱根登山電車が全線運転再開:台風被害を乗り越え、箱根ゴールデンコースも復旧
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9カ月半ぶりに箱根登山電車が戻って来た。2019年10月中旬に日本列島を襲った台風19号により、沿線で土砂崩れや倒木などが多数発生し、一部線路が流出。甚大な被害を受けた箱根湯本駅-強羅(ごうら)駅間は、運休を余儀なくされた。あまりの惨状に、地元民からは「廃線になってしまうのでは……」との声も上がったという。
当初目標の20年秋の運転再開すら高いハードルに思われたが、昼夜を問わぬ修復工事と整備作業によって夏休みに間に合わせた。区間ごとに進めていた試運転も、7月9日から全線を通して可能になり、強羅駅の駅員は「久々に通る場所があるので、運転手たちもワクワク感と良い緊張感があるようです。以前から安全運転を心掛けていましたが、より一層慎重に皆さまをお迎えしたいと思います」と、うれしそうに語ってくれた。
東京五輪の開会式まで1年となる7月23日の「海の日」に、箱根登山電車は全線で運転も再開する。
車窓からの風景も箱根観光の名物
小田原駅から強羅駅までの15キロを結ぶ箱根登山電車は、強羅駅-早雲山駅を結ぶ箱根ケーブルカーと共に箱根登山鉄道株式会社が運営する。2006年から小田原-箱根湯本間はロマンスカーを含む小田急電鉄の車両が乗り入れているので、箱根登山電車の車両を利用するのは箱根湯本-強羅間のみ。沿線には温泉旅館とホテル、美術館やアミューズメント施設などが集まり、箱根観光においては欠かせない足でなる。
険しい箱根の山を上り下りし、1キロ走行する間に80メートルも登る区間もあることから日本国内で最急勾配を誇る鉄道だ。車窓からの四季折々の風景自体が観光の目玉の一つ。緑豊かな自然の中を走り抜け、紅葉の秋や雪化粧をした冬も人気だが、特に知られるのは紫陽花(あじさい)が沿線を彩る梅雨時期の光景だ。期間限定で「あじさい電車」と銘打ち、従業員らが手入れした色とりどりの紫陽花の中を通過し、夜のライトアップも好評を博している。
60周年を迎える箱根ゴールデンコース
箱根登山電車とケーブルカーを乗り継ぎ、箱根ロープウェイで早雲山から大涌谷を経由して桃源台へ。桃源台港から芦ノ湖の水上を箱根海賊船で箱根町港まで行き、箱根登山バスで箱根湯本へと戻る巡回ルートを「箱根ゴールデンコース」と呼ぶ。
箱根登山電車の運休中は、バスによる代替輸送が行われていたが、登山電車が走らない箱根の風景はどこか寂しく、そこにコロナ禍が重なったことで箱根は閑散とした状況が続いていた。
箱根海賊船「クイーン芦ノ湖」も、箱根登山電車の運転再開を待ちわびていた。2019年4月下旬から運航を開始した期待の新型船で、「心ときめくクルーズ」をコンセプトに、九州新幹線などを手掛けた水戸岡鋭治氏がデザインを担当。子どもたちが喜ぶ従来の海賊船の雰囲気に、大人も満喫できる上質感をプラスしている。
「就航すぐの5月に大涌谷の火山活動が活発化し、立ち入り規制が出ました。警戒レベルが下がった10月に台風被害が発生し、今度は箱根登山電車が運休となったのです。海賊船の乗客の約半数は箱根フリーパスの利用者なので。ゴールデンコースに空白ができると大きな影響を受けます」
箱根観光船で営業企画を担当する柴山奈那子さんは、「そこにコロナ流行も重なってしまった」と残念そうに語る。ゴールデンコースを中心とする箱根の交通手段が乗り放題の「箱根フリーパス」は、沿線の美術館やアミューズメント施設、温泉の利用料金も割り引きとなるお得なチケット。新宿や町田からの小田急線の切符ともセットにできるため、電車を利用して箱根を訪れる観光客の多くが利用する。
大涌谷の立ち入り規制で、箱根ロープウェイが5月中旬から10月末まで一部区間で運休し、海賊船の客足も減った。ロープウェイと入れ替わりに箱根登山電車が運休となったことで深刻な打撃を受け、そこにコロナ禍が加わり、4・5月の売り上げは例年の7~8割減だという。
「そんな中でも、水戸岡先生のファンの方などがクイーン芦ノ湖に乗りに来てくださり、とても好評をいただいています。今年はゴールデンコースが開通して60周年。登山電車の運転再開で箱根が盛り上がれば、クイーン芦ノ湖の魅力も広まると期待しています」
乗り継ぎだけではもったいない! 箱根の新スポット
箱根登山電車の運転再開によって話題となりそうなのが、7月9日に早雲山駅内にオープンした「cu-mo箱根(クーモハコネ)」。
早雲山駅はケーブルカーとロープウェイをつなぐ、箱根観光の主要駅の一つ。駅舎自体がリニューアルされ、木目を基調とする温かみのある空間となり、多目的トイレや授乳室などバリアフリー設備も充実。大涌谷周辺の火山の噴石対策も施され、一時避難所として約300人を収容できる。
リニューアルの目玉は、2階にあるcu-mo箱根の足湯付きの展望デッキとセレクトショップだ。標高757メートルにある展望デッキからは、正面に箱根大文字焼きで知られる明星ケ岳が見え、晴れた日には相模湾までが望めるという。ビール片手に足湯につかり、山の緑を楽しむのも一興だ。
ショップ店長の田中梨菜さんは、「梅雨時期のオープンということもあって客足はまだまだですが、晴れた日曜日にはお客さんが途切れませんでした。登山電車が動けば、ケーブルカーで上ってくる人がたくさん訪れてくれると期待しています」と笑顔で言う。
cu-moには、ここでしか手に入らない特製グッズやフードなど約250の商品がそろう。オリジナル切⼿とポストカードを購入した人専用に設置された「ノッポなポスト」は高さ約4.5メートルもあり、インスタ映えスポットとして人気を呼びそうだ。田中店長おすすめは、雲をイメージして綿アメをのせたスムージー「ニューベル」。冷たいスムージーを飲みながら温かい足湯につかれば、乗り継ぎを忘れ、長時間滞在してしまうだろう。
3月末で中断となった「エヴァンゲリオン×箱根 2020」も、7月初めから9月30日までを2期目として延長。ゴールデンコースの各所でエヴァンゲリオンの世界観にどっぷり浸ることができる。箱根登山電車の運転再開によって、再び箱根がにぎわうことは間違いなさそうだ。
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:塔ノ沢駅-大平台駅間にある早川渓谷の出山鉄橋を試運転する箱根登山電車(2020年5月11日、時事)