福島第1原発「廃炉資料館」:事故を記録し、“今”を伝える
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福島第1原子力発電所(福島県大熊町・双葉町)から南へ約10キロの富岡町にある「東京電力廃炉資料館」。東日本大震災の津波によって発生した原発事故の経緯と対応を振り返り、廃炉作業の計画と進捗を発信するために2018年11月30日にオープンした。来館者数の目標は年間2万人だったが、開館1年時点で5万人を超え、20年2月末時点で5万8000人、海外からも1400人が訪れている。
多くの原発は、地元自治体や住民に受け入れてもらおうと、原発のメリットや安全性をPRするための施設を設置している。廃炉資料館も、かつては福島第2原発(楢葉町、富岡町)のPR施設として、近隣住民でにぎわっていた。図らずも東日本大震災で原発安全神話が砂上の楼閣であったことが明らかになり、おごりと過信をいましめるための場として生まれ変わった。
対策の不備と過信をさらけ出した展示
エントランスの壁には、「私たちは、事故の反省と教訓を決して忘れることなく後世に残し、廃炉と復興をやり通す覚悟をもって『東京電力廃炉資料館』を運営してまいります」と、小早川智明東電社長の言葉が刻まれている。
そこから階段を上がった2階フロアは「記録と記憶・反省と教訓」ゾーンで、「3.11・時のオブジェ」で地震が発生した瞬間に引き戻される。「シアターホール」では、地震と津波が原発事故を引き起こすまでの経過や現場の対応を当時の新聞報道なども織り交ぜながら振り返る映像が流れる。
シアターを出ると、1~4号機それぞれの事故の詳細や、同じく外部電源を喪失しながら事故を免れた福島第2の地震後の対応などが、オブジェと映像を組み合わせて分かりやすく展示している。
「その時、中央制御室では」のコーナーでは、最前線の様子を忠実に再現した映像が流れる。福島第2原発の訓練施設を使い、東電社員が演じて映像化したものだという。「あの日、3.11から今」は、実際に事故対応にあたった所員らが、当時の状況を振り返り、事故から年月を経た現在の心境を語る。
廃炉作業完了までの長く険しい道のり
1階の「廃炉現場の姿」ゾーンには、現在の福島第1の状況、作業の進捗を伝える展示が並ぶ。フロア中央に設置された高さ4.6メートル、幅6.5メートルの「エフ・キューブ<F・CUBE>」内部では、大型モニター3面をコの字型に配し、作業員の目線から見た、構内の作業風景や、林立する処理水のタンク群などを映し出している。
「燃料取り出し・燃料デブリ取り出し」コーナーには、1号機の原子炉格納容器内部を調査したロボット「ピーモルフ」の予備機が展示してあり、その作業動作もCGで床面に投影。「技術開発と研究施設の紹介」では原子炉建屋内の様子を3D映像で疑似体験できるなど、最新の技術を駆使して廃炉作業を解説する。
「労働環境改善」コーナーでは、福島第1構内の96パーセントのエリアは一般の作業着のみで働けるレベルまで放射線量が下がり、労働環境は大きく改善していることが分かる。ただ、「福島第一・中長期ロードマップ」では、廃炉がまだまだ遠く長い道のりであることを痛感させられる。国と東電は「廃炉完了まで最長で40年」としているが、既に核燃料の取り出しには大幅な遅れが生じており、増加を続ける汚染水の処理も大きな課題となっている。
廃炉資料館は、あくまでも事故を起こした「東京電力」の視点からの記録であり、廃炉に向けた取り組みの説明である。原発事故で被災した人や、いまだ、避難生活を強いられている人にとっては、原発事故は全く違って見えているだろう。
しかし、原発から遠い場所に身を置き、9年前の事故の記憶が薄れつつある多くの人にとっては、「あの日、何があったか」「あの時、電気のユーザーとして何を考えたか」に立ち返るために、一度、訪れる価値のある場所ではないだろうか。将来は、東日本大震災や福島第1原発事故を知らない世代も廃炉作業を担うことを考えれば、当時の状況、反省と教訓を伝えることは、今後ますます重要になるだろう。
東京電力 廃炉資料館
- 住所:福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央378
- 開館時間:午前9時30分~午後4時30分
- 休館日:毎月第3日曜日、年末年始
- 入館料:無料 ※駐車場も無料
- アクセス:JR常磐線「富岡」駅から徒歩15分、タクシー利用で約5分
※ 新型コロナウイルスの感染予防のため、スタッフが案内する60分のツアーに参加する形での見学。入場人数に制限があり、事前予約者が優先される。予約電話番号は0120-502-957(フリーダイヤル)
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:エフ・キューブ内に映し出された福島第1原発の1号機