東京五輪・聖火リレーの出発点「Jヴィレッジ」:廃炉作業の拠点から、再びサッカーの聖地へ
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※3月24日に発表された東京五輪の開催延期を受け、大会組織委員会は26日の国内聖火リレーの出発を中止し、日程などの再調整をすることを表明した
2020年東京五輪・パラリンピックは、東日本大震災からの復興を後押しすると共に、力強く再生しつつある姿を世界に伝える「復興五輪」の理念を掲げている。その象徴の一つとして、聖火リレーのスタート地点に選ばれたのが、福島の「ナショナルトレーニングセンターJヴィレッジ」だ。
サッカー日本代表が合宿を張ることなどで知られたJヴィレッジは、2011年3月11日に発生した東日本大震災後、福島第1原発事故の収束に向けた最前線基地となった。ピッチの整備やリニューアル工事が完了し、“新生Jヴィレッジ”として19年4月に全面的に営業を再開したばかり。
聖火リレーは3月26日午前10時にJヴィレッジを出発し、震災に加え、風評被害も含めて原発事故による影響が大きかった福島県内を3日間かけて回る。そこから全国を巡った後、7月24日に東京・国立競技場に到着し、五輪の開幕を告げる火をともす。
サッカーの聖地が事故対応の最前線に
日本初のサッカー・ナショナルトレーニングセンターとして、1997年に開設したJヴィレッジは、福島県の太平洋沿岸「浜通り」にある楢葉町と広野町にまたがる。東北地方にしては温暖で、冬も降雪が少なく、スポーツに適した土地だ。浜通りの海岸線に多くの発電所を有する東京電力が、地域の振興事業として整備費を負担。完成後、福島県に寄贈した。
震災前は「サムライ・ブルー」「なでしこジャパン」に加え、海外の代表チームやJリーグの人気クラブが合宿を張り、全国少年サッカー大会や日本クラブユースサッカー選手権(U-15、U-18)大会、全日本女子ユースサッカー選手権(U-15)大会などの試合会場にもなった。プロ選手を夢見る少年少女にとってサッカーの聖地となり、年間利用者は約50万人、2011年までの累計は680万人を記録していた。
海抜50メートル地点にあるJヴィレッジは、直接的な津波被害はなかったが、直後に敷地内の景色が一変した。
事故が起きた福島第1原発からの直線距離は、南へちょうど20キロ。警戒区域の境界線が敷地内を走り、東京電力とも関係が深い大型トレーニング施設は、事故収束へ向けた最前線基地となった。緊急対応のために、消防車や自衛隊の特殊車両も待機した。自慢だった天然芝のピッチはヘリポートや駐車場、資材置き場となり、使用済みの防護服などの廃棄物が積まれ、スタジアムにも仮設住宅のプレハブが建ち並んだ。
原発構内の状態が安定し始めてからも、廃炉作業の中継基地としての役割を担った。周辺都市で寝泊まりする作業員は、Jヴィレッジまで車でやって来て、防護服に身を包み、バスに乗り合って福島第1へと向かう。13年元旦には、東京電力の福島復興本社が設置され、賠償や除染、復興推進業務を行った。
天然芝は全て張り替えが必要になるなど再建は困難に思えたが、13年9月に東京が20年の五輪開催地に決定したことが復興を後押しする。Jヴィレッジを強化合宿などに活用するため、19年4月の全面営業再開を目指すことになった。
震災前よりも魅力が増したJヴィレッジ
Jヴィレッジは18年7月の一部営業再開を経て、予定通りの19年4月20日にグランドオープンした。
「2002年のサッカーW杯日韓大会では優勝候補だったアルゼンチン代表が、Jヴィレッジでキャンプを行ってくれました。その縁もあって、19年秋のラグビーW杯日本大会前もアルゼンチン代表が合宿を張ってくれたのです。そこに間に合い、彼らを迎え入れることができて、『本当に再生できた』と実感しました」
株式会社Jヴィレッジ事業運営部の高名祐介さんは言う。新生Jヴィレッジは49ヘクタール(東京ドーム10個分)の敷地に、5000人が収容可能なスタジアムを含めて天然芝8面、人工芝3面のピッチが並ぶ。建物内にはフィットネスジムやアリーナ、プールなどがそろう。そして、リニューアルの目玉は全天候型練習場と宿泊棟の新設、そして新駅の誕生だ。
全天候型練習場は、日光を透過する屋根の下に人工芝のピッチ一面を備える。「天井の高さは最大22メートルあるため、ラグビーの高いキックにも対応可能」(高名さん)という。総工費22億円の3分の2はスポーツ振興くじ(toto)の助成金を受けたが、残りは全国から寄付金を募集した。
これまでも屋根付きハーフコートの雨天練習場があったが、この練習場によって季節や天候、風にも左右されずに練習に集中できる環境が確保される。
ビジネスユースにおいてもJヴィレッジの存在感が高まった。新館の「アネックス」によって、既存のホテル棟と合わせて総客室数は200に増え、1階の「Jヴィレッジホール」ではイベントやセミナーなどが開催できる。
18年に臨時駅として開業したJR常磐線の「Jヴィレッジ」駅が、20年3月14日の常磐線全線開通に伴って常設化されるのも大きい。浜通りでのビジネス拠点として利用しやすく、イベントなどでアクセスもスムーズになる。
現在も、利用者からは放射線量を心配する声があるという。Jヴィレッジの発表では、ホテル棟正面玄関で毎時0.111マイクロシーベルト、参考値として東日本大震災前に計測した東京都新宿区の0.079、山口県山口市の0.128(文部科学省の全国環境放射能 水準調査結果)などを上げている。
「4月には2日間、ももいろクローバーZの単独ライブを開催します。Jヴィレッジとしては初の試みです。今後、スポーツはもちろん、浜通りの文化やビジネスの発信拠点にもなれればと思っています」(高名さん)
聖火リレーは、全天候型練習場前にある「No.9ピッチ」からスタートする。第1走者を務めるのは、震災前のJヴィレッジで何度も合宿を行い、震災直後の2011年サッカー女子W杯ドイツ大会で優勝して日本中に元気を与えた「なでしこジャパン」のメンバー。3月26日、この場所から「新生Jヴィレッジ」と「新生ふくしま」を世界に向けて発信する。
ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ
- 住所:福島県双葉郡楢葉町山田岡美シ森8
- 公式ホームページ:https://j-village.jp/
- ホテルサイト:https://www.j-villagehotel.jp/
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
(バナー写真:Jヴィレッジ自慢の天然芝ピッチ)
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