東北生まれの伝統工芸品「こけし」:第3次ブームで、こけし飛行機まで登場!
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「こけし飛行機」など、変わり種も人気に
「こけし」が誕生したのは、江戸時代後期の東北の温泉地。ろくろを使用して椀(わん)や盆などを削り出す木地職人が、余材を利用して子どものおもちゃを作ったのが始まりとされる。当初は幼児でも握れる小ぶりなものだったというが、土産物として湯治客に販売して人気が出ると、各温泉地でさまざまな形やサイズ、模様のものが登場した。
日本初のこけし専門書が発行された昭和初期に、伝統工芸品、美術品としての評価が高まったことで「こけしブーム」が起きたという。高度経済成長期の1960年後半には東北の温泉地がにぎわい、土産物のこけしも飛ぶように売れて第2次ブームが到来した。
2010年頃から始まった第3次こけしブームは、若い女性を中心に巻き起こった。「こけし女子(こけ女)」とも呼ばれる女性マニアたちは、東北の「伝統こけし」だけでなく、戦後に全国で作られるようになった「創作こけし」も収集する。髪の毛が立体的なおかっぱ頭のこけしが代表的だが、動物をかたどったものや人気キャラクターとのコラボも数多く登場している。
近年強烈なインパクトを残したのが、2015年に登場した「こけし飛行機」だ。「キモかわいい!」と話題になった宮城県観光課の公認キャラクターで、航空5社のポスターなど大規模なキャンペーンに何度も起用された。
訪日観光客の増加により、海外でもこけし人気が高まっている。特に欧州では、シンプルかつ日本らしい姿が愛され、「Kokeshi Doll」コレクターも増えているという。
実は縁起物! 12系統のこけしを紹介
伝統こけしは元来、縁起物としての一面を持っていた。
江戸時代後期に東北の温泉地を訪れたのは、疲労を癒やすのが目的の農閑期の農民らであった。木地職人は彼らと接することで需要を知り、彩色を施すようになったという。赤色を多く用いるのは、古くから魔よけの色とされ、天然痘などの病気よけにも効果があると伝わるからだ。湯治客は心身回復と五穀豊穣(ほうじょう)の縁起物として村に持ち帰り、玩具として子どもに与える場合は健やかな成長を願った。
「こげす」「きぼこ」「でこ」など、産地ごとに違った呼び名で、語源にも諸説ある。1940(昭和15)年に開催された収集家とこけし工人などの集いで、ひらがな3文字の「こけし」で名称を統一しようと決定し、それが定着していった。
産地は東北地方に分散し、特に鳴子(宮城県大崎市)、遠刈田(とおがった、宮城県蔵王町)、土湯(福島県福島市)は「日本三大こけし」といわれる名産地。種類は10~12系統に分類され、産地ごとに受け継がれる形や模様、技法など、それぞれの特徴を持つ。
1,津軽系(青森)
青森県津軽地方の温湯(ぬるゆ)温泉や大鰐温泉を中心に作られ、1本の木から頭と胴を彫り出す。おかっぱ頭が多く、胴はくびれ、足元はスカートのように広がる。描かれる模様はダルマや津軽藩の家紋・ボタンの花など多彩。
2,南部系(岩手)
ゆるく固定された頭部が揺れ、その様子を音で表現した「キナキナ」と呼ばれる。木肌を生かした無彩色から始まり、後に鳴子系や遠刈田系の影響を受けて絵付けされるようになった。主な産地は岩手県花巻市と盛岡市。
3,木地山系(秋田)
頭と胴が1本の木で作られ、頭は小さめでやや細長く、おかっぱ頭で頭頂部には赤いリボンのような飾りが描かれている。木地山系の川連こけしは、しま模様の着物が特徴。着物の模様のほか、菊や梅の花を描いたものもある
4,鳴子系(宮城)
鳴子系は頭部を胴にはめ込んでいて、首を回すと「キィー、キィー」と音が鳴るのが特徴。中央がややくびれた胴に描かれた華やかな菊やカエデなどの模様が、愛らしい表情を引き立てる。
5,作並系(宮城)
子どもが握って遊べるほっそりとした胴は、木地玩具としての面影を残す。肩と裾にはろくろを使用して線を引き、胴部分にはカニのような菊模様「カニ菊」をあしらうことが多い。現在の作並地区には、「平賀こけし店」が唯一残る。
6,遠刈田系(宮城)
細めの直胴に対して大きめな頭の上部には、赤い髪飾りが放射状に描かれる。胴には菊や梅、桜の模様が多く見られ、その華やかさは12系統の中でも随一。三日月型で切れ長の目は優しくほほ笑んでいるよう。
7,弥治郎系(宮城)
胴に比べて頭は大きめで、ろくろ線が頭頂部に重なり、ベレー帽をかぶっているようにも見える。胴の中ほどにくびれがあり、色鮮やかな着物に襟や裾を描いているのが独特だ。
8,肘折系(山形)
鳴子系や遠刈田系の影響を残しつつ、にこやかな三日月の目など独特の味わいがある。肩に段がある太めの直胴型で、模様は黄色をベースに菊の花を重ねたものが主流。大型のこけしには、頭に小豆が入っていて音が鳴るものもある。
9,山形系(山形)
珍しく温泉地ではなく、山形市の中心部で作られてきたこけし。作並で修業した木地職人が伝えたといわれ、頭が小さく胴が細め。梅の花や桜、菊のほか、県花の紅花などが描かれる。
10,蔵王高湯系(山形)
遠刈田系の影響を受けて発達し、蔵王温泉以外に、山形市や米沢市、天童市でも作られる。くびれのある胴はどっしりと太くボリューム感があり、菊の花を重ねた模様や桜、ぼたんなどが描かれる。頭頂部には赤い放射状の髪飾り「手絡(てがら)」を描く。
11,土湯系(福島)
頭が小さく胴は細め。頭頂部にはろくろを使って黒い蛇の目模様を入れ、前髪との間には赤い髪飾り「カセ」を描く。たれた鼻におちょぼ口と、表情は愛嬌(あいきょう)たっぷり。胴にも細いろくろ線を色彩豊かに重ね、変化を加えるために逆回転させる「返しろくろ線」も特徴的だ。
12,中ノ沢系(福島)
会津磐梯山の麓にある中ノ沢温泉で作られる。赤い縁取りがある大きく見開いた目や、横に広い鼻が目を引き、胴には桜やぼたんが華やかに咲く。「たこ坊主」という愛称で呼ばれるが、基本的には女の子。こけしでは珍しく男の子をモデルにした「青坊主」もある。
取材・文・写真=シュープレス
(バナー写真=福島県福島市「原郷のこけし群 西田記念館」のこけし 写真:福島県観光復興推進委員会)