カツオの旬が年3回に?:冬の日本海産「迷いガツオ」に超高値

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春の「初ガツオ」、秋の「戻りガツオ」と、1年に旬を2回迎えることで知られるカツオ。2019年12月から東京・豊洲市場(江東区)などで注目されたのが、季節外れの冬に日本海で獲れる「迷いガツオ」だ。年末には本マグロと肩を並べるほどの高値が付き、すし店などでは知る人ぞ知る高級魚として人気を呼んでいる。

なじみのカツオ、漁獲は日本第4位

日本ではかなり古くから食べてきたカツオ。江戸時代には「勝男」という響きから縁起物とされ、特に「初ガツオ」は、例えは悪いが「女房子供を質に出してでも食え」と言われるほど人気があった。俳人・山口素堂(1642-1716)が初夏の江戸名物を詠った「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という名句も、この時代に生まれている。

年が明けるとカツオのまとまった群れが、南西諸島周辺海域から太平洋をゆっくりと北上し、日本近海へ近付いてくる。この群れとは別ルートからやって来るカツオも含め、2月ごろから九州や四国、千葉などで水揚げが始まると、初ガツオのシーズン入り。地域差もあって、北海道のサンマのように「初物」の時期がはっきりしていないため、初ガツオは「春ガツオのはしり」といった意味で使われる。

カツオは太平洋を北上しながら成長し、脂を蓄えていく。秋にはUターンして、太平洋を南下し始める。この時期に三陸や千葉などで水揚げされるものが「戻りガツオ」と呼ばれる。それまでの魚と明確な違いはないため、秋に獲れる脂が乗ったカツオを指すことが多い。春のカツオがあっさりしているのに対し、秋は赤身にもうま味があると言われる。

日本で獲れるカツオは、年間およそ25万トン(2018年、農林水産省調べ)。イワシ、サバ、ホタテに次いで、わが国4位の水揚げ量を誇る。カツオは「土佐の一本釣り」で知られる豪快な釣り漁のほか、魚群を一網打尽にする巻き網漁で漁獲されることが多く、どちらの漁法も遠い漁場で操業する大型船は、船上で速やかに冷凍し、陸揚げ後は大型冷凍庫で保管。大半がカツオ節や「ツナ缶」の原料となっている。

左は目井津港(宮崎県日南市)に接岸するカツオ一本釣り漁船。右は同港で水揚げを行うカツオ一本釣り漁船の漁師ら 時事
左は目井津港(宮崎県日南市)に接岸するカツオ一本釣り漁船。右は同港で水揚げを行うカツオ一本釣り漁船の漁師ら 時事

多くは荒節、Tuna缶に

和食の土台ともいえる「だし」を取るのに、カツオ節は欠かせない。鹿児島県の枕崎港や、静岡県の焼津港で陸揚げされた大型のものがカツオ節に使われる。刺し身用なら脂が乗っていた方が良いが、「節にする場合、脂が乗り過ぎていては保存に向かない」(産地関係者)のだとか。

かつてはカツオを煮ていぶして、何度も「カビ付け」した「本節」が盛んに作られ、料理店や家庭で削り器で薄く削ってから料理に使用した。今では、カビ付けせずに短期間で製造できる「荒節」を削り節にし、パック詰めした商品が一般化している。

右上が本節で、左が厚削り、右下が「花かつお」と呼ばれる平削り 写真:Pixta
右上が本節で、左が厚削り、右下が「花かつお」と呼ばれる平削り 写真:Pixta

一方、「Tuna」は世界的に人気のある食材だ。カツオは英語で「Skipjack Tuna」で、海外のツナ缶では定番。「ツナ缶=マグロ」と思い込んでいる人も多い日本でも、キハダマグロやビンナガマグロのほか、実はカツオもツナ缶の原材料として欠かせない。加工食品が主流のため、刺し身やたたきなどで消費するカツオは、日本の総漁獲量のごく一部なのだ。

生カツオの表面を炙った「カツオのたたき」。高知名物だが、今では全国のスーパーなどで売られる 時事
生カツオの表面を炙った「カツオのたたき」。高知名物だが、今では全国のスーパーなどで売られる 時事

日本海へ迷い込み、大間のマグロ並みの高値に

初ガツオや戻りガツオとして食べているのは、高知や静岡、千葉、宮城をはじめ、ほぼ太平洋産。これに対し、季節外れの冬のカツオが、日本海沿岸の新潟や富山などで水揚げされている。

なぜ太平洋を北上しないのか。これについて研究機関は「九州よりはるか南の南西諸島海域で、太平洋を北上する途中で一部の群れが日本海へ向かっているとみられる」という。理由は定かではないようだが、主流からはぐれて日本海へ回遊するため、豊洲市場などでは「迷いガツオ」と呼んでいる。

迷いガツオは、11月後半からブリを狙う定置網に掛かる。漁獲量はごくわずかで、富山県の氷見港では「カツオが獲れないことも少なくない」(漁港関係者)らしく、2019年12月にはブランド魚「氷見寒ぶり」よりも高値が付くと話していた。新潟県の佐渡港でも「高価なため、水揚げ後には神経抜きなど鮮度を維持するための処理をして、大切に出荷している」と同港関係者。

早朝の豊洲市場の卸売場でも、迷いガツオはいち早く買われて仲卸へと運ばれていく。移転前の旧築地市場時代から、少量が入荷していたが、人気はじわり浸透し、値段もじり高。19年12月上旬には、卸値が1キロ当たり7000円を上回るなど、青森県大間産のマグロ並みの高値で取引される日も珍しくなかった。

初ガツオや戻りガツオの値の5倍以上。季節外れの魚になぜ、これほど高値が付くのか。

豊洲市場に入荷した高値の日本海産・迷いガツオ(2019年12月) 写真:筆者提供
豊洲市場に入荷した高値の日本海産・迷いガツオ(2019年12月) 写真:筆者提供

高級すし店、鮮魚店で争奪戦

その答えが、都内の高級すし店や鮮魚店にあった。豊洲の仲卸を通じて取材先を探し、たどりついたのはまずは港区・南青山の高級すし店「鮨龍次郎」。店主の中村龍次郎さんによると、店では2万5000円以上の「お任せコース」で、迷いガツオを提供。「皮目にしっかり脂が乗っており、濃厚な味で甘みが強い」と言う。

迷いガツオの刺し身を絶賛する「鮨龍次郎」の中村さん 写真:筆者提供
迷いガツオの刺し身を絶賛する「鮨龍次郎」の中村さん 写真:筆者提供

中央区・銀座の高級すし店でも、3万円のコースで迷いガツオをラインナップ。冬の目玉商品で「最近は迷いガツオを知るお客さんが増えてきた。マグロのトロやウニなどと同様に、冬場のレギュラーとなっている」(銀座すし店関係者)と話す。

大間のマグロをはじめ、最高級の魚介が店頭を埋め尽くす、文京区の高級鮮魚店「根津松本」でも迷いガツオは人気商品。店主の松本秀樹さんは「冬のカツオは特別なおいしさ。店の品ぞろえに欠かせないから、(豊洲)市場に入荷すれば、必ず仕入れる」と話す。お造りは、6切れ3000円前後(2019年12月時点)で販売されていた。

太平洋よりも比較的水温が低い「冬の日本海」で鍛えられた迷いガツオ。年明け以降も少量だが、豊洲へ入荷し、知る人ぞ知る高級魚として流通している。魚好きなら、ぜひ一度、味わってみてはどうか。

「根津松本」の店頭で、6切れ3000円ほどで販売された「迷いガツオ」のお造り(2019年12月) 写真:筆者提供
「根津松本」の店頭で、6切れ3000円ほどで販売された「迷いガツオ」のお造り(2019年12月) 写真:筆者提供

バナー写真:2019年、宮城県の気仙沼漁港では「戻りガツオ」が豊漁だった 時事

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