大阪の繁華街「キタ」「ミナミ」とは?:万博で「ニシ」も話題に
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梅田駅の名称変更にみる大阪のこだわり
関西地区を走る大手私鉄の阪急と阪神は「梅田」駅を、2019年10月から「大阪梅田」駅に名称変更する。地元民には説明するまでもないが、訪日外国人観光客が急増する中で、「梅田=大阪の中心部のターミナル駅」と分かりやすく伝えるのが狙いだという。
阪急と阪神の「梅田」は、JR4路線が乗り入れる「大阪」駅と隣接し、地下道でつながっている。1日あたりの乗降客数は阪急51万人、阪神17万人、JR大阪駅が87万人で、西日本最大のターミナル圏を築いている。にもかかわらず、駅名が違うために、関西エリア外からの観光客、特に外国人は2つが「ほぼ同じ駅」であることが理解できず、右往左往することも。JR線を降りて駅前からタクシーに乗り込み、「梅田駅まで」と言って運転手を怒らせるという笑い話はあまりにも有名だ。
さらに大阪メトロ(旧大阪市営地下鉄)には、1日に44万人が乗り降りする御堂筋線「梅田」駅に加え、谷町線「東梅田」駅と四つ橋線「西梅田」駅がある。全てが大阪駅から徒歩圏なのでますます分かりづらいが、あえて「梅田」の地名にこだわる大阪人の地元愛なのかもしれない。
大阪でもう一つ、観光客を混乱させているのが「キタ」と「ミナミ」だ。大阪市の条例や公式文書でも使われているので地元ではかなり定着している言葉だが、どこからがキタで、どこまでがミナミと明確な範囲が決められているわけではない。ましてや、そんな住所も駅もない。関西圏以外の人でも、キタは梅田・大阪駅周辺や北新地、ミナミは道頓堀や難波駅周辺の繁華街を指すことはなんとなく知っているが、発信する機関や媒体、使う人によって、含まれる駅やスポットはまちまちなのだ。
江戸時代にルーツを持つキタとミナミ
「キタ」も「ミナミ」もさかのぼれば江戸時代の花街。キタの始まりは、江戸時代前期ににぎわった堂島新地の遊郭であった。1730年に堂島に米市場が開設され、商都・大阪の中心地として発展すると、遊郭は曽根崎川を挟んだ北岸の曽根崎新地に移転。豪商たちの遊興地として大いに繁盛した。堂島、曽根崎ともに大阪城下の北端に位置したことから、「北の遊里」「北の新地」と呼ばれたという。
1874年、官営の大阪駅が梅田に開業すると、繁華街も拡張して一帯を「北陽」や、単に「キタ」と呼ぶようになったようだ。曽根崎新地は今も町名として残り、高級クラブや料亭などが集まるワンランク上の大人の遊び場「北新地」となっている。
ミナミのルーツは「南地(なんち)五花街」。1615年に完成した道頓堀の南側に芝居小屋が立ち並ぶようになると、見物客を相手にする花街が次々と誕生。宗右衛門町、九郎衛門町、櫓町、坂町、難波新地の南地五花街は、次第に「南地」「ミナミ」と略して呼ばれるようになったという。
諸藩の蔵屋敷が立ち並んだ中之島・堂島から武家の客もやって来たキタに対し、ミナミは職人などの町人衆でにぎわったらしい。今も変わらず、キタは洗練された都市空間で大人が好む高級飲食店が多く、ミナミが若者文化の発信地でコテコテな大衆の町という印象なのはおもしろい。
観光客なら、「キタ」は梅田を中心に北新地、堂島、中之島、西天満あたり、「ミナミ」は道頓堀、心斎橋を中心に、南は難波駅周辺、東は黒門市場がある日本橋、西は古着屋や人気カフェが集まる堀江辺りまでとざっくりと考えておけばいい。無理に会話に織り込んだりする必要はなく、普通に「道頓堀でおいしいランチを食べられる店は?」と地名で聞けば、親切な大阪のおばちゃんがミナミのB級グルメを紹介してくれるはずだ。
湾岸エリア「ニシ」は定着するか
最近注目されている「ニシ」は、2025年の大阪万博の会場、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の候補地となっている夢洲(ゆめしま)を中心とする湾岸エリア。大阪メトロは24年までに、中央線を夢洲まで延伸し、超高層の「夢洲駅タワービル(仮称)」を建設する計画だ。
夢洲、その北東にある舞洲(まいしま)、G20大阪サミット開催地となった咲洲(さきしま)の3つの人工島は、大阪の新しい都市をつくる「テクノポート大阪」構想の中心となるはずだったが、バブル崩壊や五輪招致の失敗によって開発は頓挫。しかし、万博開催とIR誘致によって息を吹き返しつつある。湾岸エリアには「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」や世界最大級の水族館「海遊館」など訪日観光客にも人気のスポットがあることから、以前よりホテルや商業施設の需要も見込めるだろう。
「キタ」「ミナミ」と並ぶにぎわいスポットにしようと、行政やデベロッパーはしきりと「ニシ」の呼び名を広めようとしているが、お上の押し付けが嫌いな大阪人に受け入れられるかは微妙なところ。江戸時代からの歴史をつなぐ「キタ」「ミナミ」とは違う、新しい町の魅力を発信できるのか。「ニシ」にとって勝負はこれからだ。
取材・文=藤井 和幸(96BOX)
写真=黒岩 正和、藤井 和幸(96BOX)
(バナー写真=咲洲上空から大阪市街地を望む)