「水の都・松江」の魅力が詰まった国宝・松江城と堀川めぐり
Guideto Japan
旅- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
城造りの名人が誕生させた美しい水辺の町
江戸時代から城下町として発展した松江は、湖としては国内5番目の大きさの中海(なかうみ)、7番目の大きさの宍道湖(しんじこ)に挟まれている。2つの湖を結ぶ大橋川が街の中心を流れ、国宝・松江城の堀から広がる水路「松江堀川(通称:堀川)」が縦横に走る「水の都」には、年間1000万人の観光客が訪れる。
「松江開府の祖」と呼ばれるのは、豊臣秀吉、徳川家康と2人の天下人に仕えた戦国武将の堀尾吉晴。関ヶ原の合戦(1600年)の軍功で出雲・隠岐両国を拝領した息子の忠氏(ただうじ)と共に、難攻不落の要塞城として知られた月山富田城(島根県安来市)に入った。しかし、山城の月山富田よりも、水に恵まれた松江の将来性に着目し、忠氏の早世後は、孫・忠晴の後見人として松江城と城下町を建設し、現在の町の礎を築いた。
堀尾家は忠晴の代で途絶えたが、その後、京極家1代、松平家10代にわたり、18万6000石の城下町として発展した。京都、金沢と並ぶ「茶どころ、菓子どころ」として茶の湯文化や和菓子文化が花開く。ホーランエンヤなど独自の祭りも誕生した。
65年ぶりに国宝へ復帰した松江城
松江城は、日本に現存する12天守の一つで、山陰地方では唯一。入母屋破風(いりもやはふ)と呼ばれる、千鳥が羽を広げたような屋根の造形が特徴的で、「千鳥城」の愛称でも親しまれてきた。
それに加え、黒く塗った雨覆板(下見板張り)で壁の大部分が覆われるなど、桃山時代の築城様式を今に伝えている。
松江城が国宝指定されたのは、2015年のこと。実は、戦後1950年に施行された文化財保護法によって、松江城は「国宝から重要文化財に格下げ」された不本意な過去がある。築城時期が特定できなかったことなどが理由だ。松江市は国に陳情したり、懸賞金を出して市民に証拠の品の発見を呼び掛けたりして長年、国宝返り咲きの努力を重ねていた。
2012年に城内の神社を調査している際に、「慶長十六年(1611年)」と墨書きされた天守創建に関わる2枚の祈祷札が発見され、天守地階にある2本の柱の札跡にピタリとはまった。創建時期が特定されたことで、悲願の国宝再指定が実現した。
天守の地階中央部には、籠城に備え、飲み水を確保するために造られた井戸がある。天守内部に井戸を備えるのは現存12天守で唯一。さらに地階は、塩をはじめとする食糧庫の役割を果たしており、松江城が実戦を想定した城であることを物語っている。
2階から4階までは、矢狭間(やざま)や石落としなど城ならではの造作の解説や、鎧兜(よろいかぶと)や火縄銃などの資料、ドローンで撮影した映像が流れるデジタルサイネージなどを展示している。
5階の天守閣も古式にのっとった望楼式で、室内に壁は一切なく360度が見渡せる。条例によって松江城の周りには高い建物がないので、眺望も素晴らしい。松江観光の際には、まず天守に登って地形を把握しておくとより楽しめるだろう。
櫓(やぐら)などは、明治期に売却されて取り壊されたが、2001年に3つの櫓が復元されている。城山公園内には、大正天皇が皇太子時代に宿泊した興雲閣、国宝返り咲きのカギとなった祈祷札が見付かった松江神社、城の裏手には城山稲荷神社など由緒ある建物が多い。春には約360本の桜が城内を彩り、「さくら名所100選」にも選ばれている。
国宝・松江城
- 住所:松江市殿町城山1-5
- 本丸開放時間:4月~9月=午前7時から午後7時30分、10月~3月=午前8時30分から午後5時 ※年中無休
- 登閣時間:4月~9月=午前8時30分から午後6時30分、10月~3月=午前8時30分から午後5時(最終入場は30分前まで)
- 登閣料:大人670円、小中学生280円、外国人330円(小中学生140円) ※団体割引、障害者割引、共通券有り
水面から風情ある松江を満喫する「堀川めぐり」
水の都・松江を体感できるのが、「ぐるっと松江 堀川めぐり」だ。水運で栄えた往時の松江をしのび、一段低いところから見上げるように街並みを眺めると、また旅情が深まるだろう。
乗船場所は松江堀川ふれあい広場(黒田町)、大手前広場(殿町)、カラコロ広場(京店)の3カ所。遊覧コースは約50分。
「平成の大合併前の旧松江市内だけで、橋の数は600以上あると言われていて、イタリアのベネチアを上回る数。松江は、まさに『水の都』といえるでしょう」——そんな、船頭さんの名調子に耳を傾けながら、江戸の面影を残す石垣や橋を間近に眺めていると、あっという間に時間が過ぎていく。
一番のお楽しみは、低い橋をくぐる時に「下がる屋根」だ。船頭さんの声掛けにあわせて、客は低く頭を下げたり、船の上で寝転がったりする。それでも、「屋根が橋げたに当たるかも」というギリギリのスリルを味わい、ちょっとしたアトラクション気分で盛り上がる。
乗船券は1日何度でも乗り降りできるので、観光だけでなく、市内の移動の足としても便利。
船頭さんは、「桜越しの松江城も、新緑の季節もそれぞれの良さがあるので、何度でも松江にいらっしゃい。冬の風物詩でもある船上のコタツで暖を取りながら、雪化粧の松江城を眺めるのは外国人の観光客に人気」と語ってくれた。英語、中国語、韓国語の船内ガイドテープも用意しているという(フランス語も追加予定)。
ぐるっと松江 堀川めぐり
- 乗船所:松江堀川ふれあい広場=松江市黒田町507-1、大手前広場=島根県松江市殿町城山(松江城大手前駐車場の奥)、カラコロ広場=松江市末次本町97
- 1日乗船券:中学生以上1500円(800円)、外国人1200円(600円) ()内は小学生の料金、団体、障害者割引あり
- 運航時間:午前9時から20分間隔(12月~2月のみ30分間隔)。最終便の出発時間は季節によって異なる。貸切船、年間パスポートもあり
●周辺情報
武家屋敷
松江城を観光した後は、殿様に仕えた武士たちの生活に思いをはせてみてはどうだろう。城の北側の堀川沿いには、松江藩中老・塩見小兵衛にちなんで名付けられた「塩見縄手(しおみなわて)」という通りがあり、武家屋敷風の建物が並ぶ。そこには塩見も暮らしたという屋敷が残り、江戸中期の生活を伝える施設「武家屋敷」として公開されている。主屋(しゅおく)を中心に風情ある日本庭園が広がり、門の周りには中間小屋やうまやなどが置かれている。近くには小泉八雲記念館や小泉八雲(ヘルン)旧居、向かいの堀川のほとりには縁結びの効力があるとされる「ハートのくぐり松」もある。
- 住所:島根県松江市北堀町塩見縄手305
- 開館時間:4月~9月=午前8時30分から午後6時30分(入館受付は午後6時まで)、10月~3月=午前8時30分から午後5時(入館受付は午後4時30分まで)、年中無休
- 入館料:大人300円、小中学生150円、外国人150円(小中高生80円) ※団体割引、障害者割引、共通券有り
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部
(バナー写真=堀川めぐりの遊覧船から松江城を望む)