カッパや座敷わらしの伝説が息づく民話の里:岩手・遠野を旅する
Guideto Japan
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岩手県中部の遠野市は、北上高地最大の盆地にある自然豊かな町。険しい山々に囲まれた隔絶された環境によって、古くからの生活習慣や民族的信仰が守られてきた。そのため、「日本のふるさと」「日本の原風景」と呼ばれることもある。地元で受け継がれてきた昔話や言い伝えは数多く、それを集めた柳田國男の『遠野物語』(1910年刊)は日本民俗学の礎を築いた。その中に登場するカッパや座敷わらしなどは、小説や漫画、アニメで描かれる日本の妖怪たちの原型といわれ、今も遠野は、昔話の世界に触れることができる「民話の里」として人気の観光地となっている。
「とおの物語の館」で民話の世界を体験
旅のスタートは、「とおの物語の館」で民話の世界への想像力をふくらませてはいかがだろう。JR遠野駅から歩いて5分ほどの場所にある、昔話を感覚的に楽しめる施設だ。造り酒屋の蔵を改築した「昔話蔵」では、座敷わらしや雪女など、遠野地方に古くから伝わる逸話を切り絵やイラスト、映像で紹介している。
館内では、バサバサという羽音とともにてんぐの影が目の前を横切ったり、背後から子どもの笑い声が聞こえたり、さまざまな仕掛けに驚かされる。この笑い声は、家に住みついて真夜中にいたずらをする子どもの妖怪・座敷わらしがモチーフ。大人は見ることができない存在だが、気配のする家には幸福が訪れ、逆にいなくなると没落するとされる。家に住んでほしい妖怪という、なんとも不思議な愛されるキャラクターなのだ。
別の蔵は、語り部が昔話を聞かせてくれる劇場空間「遠野座」になっている。方言による語りは独特の調子と豊かな表情があり、時に温かく時に恐ろしく、物語の世界へとぐんぐん引き込まれていく。遠野座では7~8月の土曜日、午後8時から「夜神楽」公演を開催。市内各地に伝わる神楽舞が無料で鑑賞できる。
敷地内には「柳田國男展示館」もある。『遠野物語』執筆時に滞在した高善旅館と晩年を過ごした東京都世田谷区の屋敷が移築され、建物内では生前の愛用品や趣ある書斎などを公開。映像シアターでは、「民俗学の父」といわれる柳田の生涯と功績を動画で分かりやすく紹介している。
【DATA】
- 住所:岩手県遠野市中央通り2-11
- アクセス:JR遠野駅から徒歩5分
- TEL:0198-62-7887
- 営業時間:午前9時~午後5時(入館受付は午後4時30分まで)
- 定休日:無休(2月中旬にメンテナンス休館あり)
- 料金:一般500円、高校生以下200円
- 多言語化対応:パンフレット=英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語/台湾語
カッパが住んでいた「カッパ淵」と常堅寺のカッパ狛犬
日本で最も大衆的な妖怪の一つが、水辺に住むカッパ。日本各地に言い伝えが残るので外見にもさまざまな説があるが、肌の色は緑や青が多く、頭の上にぬれた皿と背中に亀のような甲羅、手には水かきというのが定番の姿だ。頭の皿が乾いたり、割れたりすると力を失って死に至り、いたずらは好きだがひどい悪事はしないとされる。「カッパ巻き」の名前の由来は、カッパの好物がキュウリだったからといわれる。
遠野駅から車で10分ほどの常堅寺(じょうけんじ)の裏手には、カッパが住んでいたと伝わる「カッパ淵」がある。小川の周囲には緑豊かな風景が広がり、今にもいたずら好きのカッパが出てきそうな雰囲気だ。遠野のカッパは赤い顔をしているという説が多いので、目を凝らして探してみよう。
ここでは、キュウリをエサにしたカッパ釣り体験が人気。釣りをするには、観光案内所や道の駅で販売する「カッパ捕獲許可証」(税込み210円)が必要で、裏面の「カッパ捕獲7ヶ条」をしっかりと読んでから挑戦してほしい。ちなみに、これまでに捕獲に成功した人はまだいないとか。
常堅寺にも、カッパにまつわるものがある。頭の上が水をためておく皿の形をしている狛犬(こまいぬ)が、境内を守っているのだ。寺が火災に遭った際、カッパが頭の皿から水を噴き出して消火を手伝ってくれたので、この狛犬をつくって設置したと伝わる。そのため、常堅寺は「カッパ狛犬の寺」として親しまれている。寺の隅には乳神を祀(まつ)る祠(ほこら)もあり、祈願すれば母乳がよく出るようになるという。
【DATA】
- 住所:岩手県遠野市土淵町土淵7-50
- アクセス:JR遠野駅から車で約10分
- TEL:0198-62-1333(遠野市観光協会)
- 営業時間:見学自由
- 定休日:無休
- 料金:なし
- 多言語化対応:HP(遠野市観光協会)=英語/イタリア語、パンフレット=英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語/フランス語/ポルトガル語、施設内案内表示=英語
オシラサマ1000体を祀る「伝承園」
「伝承園」は、遠野地方の農家の暮らしを再現する施設。1750年頃の建物で国の重要文化財に指定されている「旧菊池家住宅」では、青森県東部から岩手県にまたがる地域を治めた南部藩独特の「南部曲り家(なんぶまがりや)」の内部を見学できる。南部藩では馬は家族同然で、母屋と馬小屋をL字型に合体させた建築様式を用いたという。
旧菊池家住宅と廊下でつながる「御蚕神堂(オシラ堂)」には、神秘的な雰囲気が漂う。薄暗いお堂の中央に御神木が立ち、壁一面にオシラサマが約1000体安置されている。
オシラサマは、馬や蚕(かいこ)、農業の神様として東北地方で信仰されてきた家の神。『遠野物語』では、農家の娘と馬との悲恋の話として「オシラサマ伝説」を紹介している。娘が飼い馬に恋をしたことに激怒した父親が、桑の木につるして馬を殺してしまった。娘がすがりついて泣きやまないので、死んでいる馬の首をはねると、娘はその首にまたがって一緒に天に昇ってオシラサマとなった——という話だ。残された父親は夢枕に立った娘の言葉に従い、馬をつるした桑の木の葉を虫(蚕)に食べさせた。すると、繭から絹がとれるようになり、遠野では養蚕が盛んになったと伝わる。馬と共存する南部曲り家がある地方らしい言い伝えだ。
オシラサマは2体で一対となり、30センチ程度の桑の木に娘と馬の顔を彫って着物に包み、最後に願いごとを記した布をかぶせたもの。伝承園では、願いを込めた布をオシラサマに着せる貴重な体験もできる。
【DATA】
- 住所:岩手県遠野市土淵町6-5-1
- アクセス:JR遠野駅から車で約15分
- TEL:0198-62-8655
- 営業時間:午前9時~午後5時(入館受付は午後4時30分)
- 定休日:無休(メンテナンスのため臨時休館あり)
- 料金:一般320円、小・中・高校生220円
- 多言語化対応:HP=英語、パンフレット=英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語、施設内案内表示=英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語/フランス語/ロシア語/スペイン語、スタッフによる案内=英語
●周辺情報
遠野ふるさと村
JR遠野駅からバスで25分ほどの場所にある「遠野ふるさと村」は、昔ながらの山里を再現した施設。農村風景の中にかやぶき屋根の曲がり家が点在し、時代劇や大河ドラマのロケ地として使われることも多い。村内にある「肝煎り(きもいり)の家」では白馬を飼っていて、座敷わらしが住んでいるといううわさもある。7月初めから8月末には「座敷わらし仮装コンテスト」が開催され、座敷わらしの扮装(ふんそう)で訪れれば入村が無料となる。
【DATA】
- 住所:岩手県遠野市附馬牛町上附馬牛5-89-1
- アクセス:JR遠野駅から早池峰バス附馬牛線・坂の下方面行きで約25分、「ふるさと村」下車すぐ
- TEL:0198-64-2300
- 営業時間:村内は午前9時~午後5時(11~2月は~午後4時)
- 定休日:無休
- 料金:一般540円、小・中・高校生320円(10月以降は大人550円、小・中・高校生330円)
- 多言語対応:HP=日本語/英語/中国語(繁体)
取材・文・写真=シュープレス
(バナー写真=JR遠野駅前に立つカッパのモニュメント)