イスラム教徒に評判の日本食レストラン
Guideto Japan
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まだ少ないイスラム教徒向けのレストラン
2020年の東京五輪・パラリンピックの開催に向けて、日本は今、世界からの観光客に安全で楽しく日本を楽しんでもらおうと官民挙げてさまざまな取り組みを進めている。18年7月に訪日した外国人観光客は合計283万2040人。このうち近隣のアジア諸国からは実に243万752人が訪れている(日本政府観光局統計より)。
こうした中にはイスラム教を国教とするマレーシアや、世界最大のモスリム人口を擁するインドネシアなどからのイスラム教徒の観光客が含まれている。彼らが安心して観光できるように、受け入れ側の日本には「モスリム・フレンドリー」な環境を整備することが求められている。
訪日する彼らにとって最大の関心事であり、同時に心配事でもあるのが「食事」。宗教的禁忌として豚肉やアルコール類などを口にすることができないため、こうした教義に配慮した「ハラル(イスラム教徒が食べられるもの)」であることを宗教機関などが認証する制度がある。
日本では20機関(最も多い時期)ほどがこのハラル認証を発行しており、その認証マークを店頭やメニュー、ホームページで明示することでモスリムの観光客に「安心できる食事」を保証している。しかし、藤田観光の「和食 折紙 浅草」や精進料理を味わえる高野山総持院の宿坊などが「ハラル認証」を取得したことがニュースになるほど、まだ日本ではその認知度は高くない。
一方、ハラル認証を受けたレストランではないが、モスリム・フレンドリーな飲食店も増えているようだ。「元祖 鉄板焼きステーキみその 神戸本店」は「ハラル認証レストランではない」ときちんと断った上で、「ハラル専用調理道具、食器の使用」「他の肉と接触しない保管場所」「日本ハラール協会のハラル管理者講習修了者の雇用」などが明示し、ハラル神戸牛を提供している。
安心して食事が楽しめるレストラン情報も
公益財団法人東京観光財団が編集した小冊子「TOKYO MUSLIM Travelers’ Guide 2018-2019」には、東京都内でイスラム教徒が安心して食事のできる「ハラルの店」「モスリム・フレンドリーな店」など93店がリストアップされている。これを食のガイドブックとして活用すれば、食事場所の選択が少しは楽になりそうだ。
日本橋(東京都中央区)のたもとにある「日本橋案内所」でハラル料理が可能な飲食店を尋ねると、案内の女性が心得たようにパソコンでモスリム・フレンドリーな飲食店をリストアップし、プリントアウトしてくれた。リストには日本橋、日本橋小網町、日本橋箱崎町、八丁堀、神田にあるマレーシア料理、アラブ料理、インド料理などの店が列挙され、道順も示されている。
同様のサービスは、外国人観光客のメッカともいうべき浅草(東京都台東区)にもある。浅草寺雷門の向かいにある「浅草文化観光センター」では、英語の「TOKYO MAP for MUSLIMS」(ムスリムおもてなしマップ in 台東区)というパンフレットを用意して、イスラム教徒観光客からの問い合わせ、照会に応じている。この地図には、浅草と上野周辺のハラル認証を受けた21の飲食店が写真入りで紹介されており、簡単に食事場所を探すことができる。
浅草の西参道商店街には、同マップにも掲載された「Halal麺亭 成田屋」というラーメン店がある。豚肉、豚骨スープ、アルコール成分などを一切不使用で、店頭には日本イスラーム文化センターによるハラル認証マークが掲示されている。
成田屋の2階には祈祷(きとう)スペースと体を水で清める設備があり、天井には祈りをささげるメッカの方向を示す「キブラット」という矢印も描かれているなどイスラム教徒には至れり尽くせりだ。それもそのはずで、成田屋はマレーシアのジョホールバルが発祥の地。その後、日本に移転してきたため、イスラム教徒への対応は完璧といえる。
同店で食事をしていたマレーシアからの観光客たちは、「日本で一番苦労するのは、ハラルレストランを見つけること。この店は偶然前を通り、ハラルマークがあったので入った」「どうしてもハラルの店がない時は、コンビニでサーモンのおにぎりを食べている」と話していた。成田屋は浅草の他、京都祇園と大阪ミナミにも店を構えている。
雷門で記念撮影をしていたイスラム教徒のインドネシア人女性たちは、「日本の食事はどれもとてもおいしい。その料理がハラルかどうかは店の人に聞いて注文するので不自由はしない」と話す。インドネシアのモスリムの中にはあまり厳格ではない人もおり、「豚肉を提供しているレストランでも自分が食べなければ大丈夫」という基準で考えている。そのため、あまり店の選択にはこだわらないというが、もっとも「豚骨ラーメン店」や「トンカツ店」には足を踏み入れないそうだ。
豚肉を使わない和食の店が人気
東京都内で、イスラム教徒が安心して食べられる伝統的な日本料理の店としては、「東京 芝 とうふ屋うかい」(東京都港区)が人気だ。東京タワー近くというロケーションでとうふ料理を満喫できる同店には、「鴨(かも)ロース」と「ローストビーフ」はあるものの、そもそも豚肉を置いていない。外国人観光客が多いことから英語が通じる上に、イスラム教徒の対応も心得ている。
京都で、インドネシアのイスラム教徒の富裕層や政府要人、企業幹部などに人気なのが「京都祇園 天ぷら八坂圓堂」。特に、比較的予約が取りやすい岡崎店は穴場と言われている。同店では季節の魚介類や野菜を天ぷらに揚げるため、豚肉や豚エキスなどの食材、食事が出てくる可能性はない。「英語を話す料理人とカウンター席で会話を楽しみながら、旬の食材を味わえる」と好評だ。
さらに、関西を中心にいまや全国に展開する「かに道楽」もインドネシア人に人気が高い。かには東南アジアでは一般的ではなく、食べるとしても丸ごと揚げるのがせいぜい。かに鍋、かに天ぷら、かに刺し身、ゆでかになどの「かに食べ尽し」が手ごろな価格で味わえると評判なのだ。
寿司(すし)は東南アジアからの観光客の間で一番人気。それも目の前を握り寿司の載った皿が移動していく「回転寿司」は、「本場の日本に行ったら1度は挑戦したい」とされ、店内で撮影した写真がよくネットにアップされている。
マレーシア、インドネシアにある回転寿司店で、特にイスラム教徒が大好きなのは「サーモン」と「とびっこ」。日本に来ても、正体不明のに握り寿司には手を出さず、その2種類だけを食べている姿がよく見られる。東南アジアでもシンガポール人、タイ人、フィリピン人は寿司ネタを何でも食べる傾向があり、食べているネタで国と宗教が垣間見えてくる。
2020年には、イスラム教徒の訪日観光客が年間140万人になると日本政府は見込んでいる。東京五輪・パラリンピックに向けて、食の分野でも日本の「おもてなし」がさらにバージョンアップすることが求められている。
ハラル認証を受けたレストランでは、食器や食材の保管、調理道具を完全にイスラム教徒用とそうではない客用に峻別(しゅんべつ)し、豚肉、豚肉由来の食品、アルコール類を含む調味料を一切使用しない。さらに、厳密にハラルを順守する場合は調理人がイスラム教徒でなければならないというが、日本では難しいだろう。
それでも、モスリム・フレンドリーな飲食店では、飲酒客とは可能な限り席を遠ざけるなど、さまざまな配慮をしている。そうした心遣いも日本の魅力としてアピールできるように心掛けたいものである。
(バナー写真=浅草観光にやってきたイスラム教徒の観光客 写真提供:筆者)