神様が家々を訪れる:東北の「来訪神 仮面・仮装の神々」
Guideto Japan
文化・「男鹿のナマハゲ」が実際に体験できる祭りや施設
・東北地方に伝わる来訪神の「スネカ」「水かぶり」「アマハゲ」
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「男鹿のナマハゲ」などの来訪神がユネスコ無形文化遺産に
2018年11月、ユネスコの政府間委員会は、秋田県男鹿市の「男鹿のナマハゲ」をはじめとする日本の「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録することを決定した。
「来訪神」とは、毎年決まった時期に人間の世界に来訪し、豊作や幸福をもたらす神々のこと。独特の仮装をして来訪神に扮(ふん)した人が、地域の家々を訪れる行事はどれも迫力満点だ。
今回登録された来訪神は沖縄県の「宮古島のパーントゥ」や石川県の「能登のアマメハギ」など。09年に先行登録された鹿児島県の「甑島(こしきじま)のトシドン」と合わせ計8県10件となる。いずれも、異形の姿で神に扮した人が集落を訪ねて幸福をもたらすという行事だ。
東北地方からは男鹿のナマハゲ、岩手県大船渡市の「吉浜(よしはま)のスネカ」、宮城県登米市の「米川の水かぶり」、山形県遊佐町の「遊佐の小正月行事」の4つが選ばれた。
地域に根付く「男鹿のナマハゲ」を体験(秋田県男鹿市)
大みそかの夜、「泣く子はいないか、親の言うことを聞かない子はいないか」と叫びながら家々を訪れるナマハゲ。恐ろしい面とわらみのをまとい、包丁を手に暴れ回る姿に、子どもたちは「もう悪いことはしません」と泣きながら訴える。最後は家の主人に酒や料理を振る舞われたナマハゲが、機嫌よく去っていくのが一連の流れだ。
本来、ナマハゲは大みそかの地域行事だが、毎年2月第2金曜日から日曜に行われる「なまはげ柴灯(せど)まつり」では観光客も体験することができる。
この祭りでは、ナマハゲ発祥の地と伝わる真山(しんざん)神社の境内でたかれる柴灯の下、おはらいを受けた面を授かった若者たちがナマハゲに扮して山へ戻る「なまはげ入魂」が行われる。雪景色の中、松明(たいまつ)をかざして歩くナマハゲたちの姿は幻想的。男鹿のナマハゲの再現や、勇壮な「なまはげ太鼓」なども見応えがある。
真山神社の近くにある「なまはげ館」では、ナマハゲに関する展示や大みそかのナマハゲ行事の様子を大スクリーンで上映するコーナーが人気だ。隣接する「男鹿真山伝承館」では、伝統的な家屋の中で、忠実に再現されるナマハゲ行事を体験することもできる。
ナマハゲという呼び名は、長時間火に当たるとできる赤い斑点「ナモミ」を剥いで、怠け心を戒めることに由来するといわれている。人々に1年の行いを反省させて新たな年の幸福を願う。恐ろしいけれども温かい、ユーモラスな神様なのだ。
わらみのに貝殻を付けた「吉浜のスネカ」(岩手県大船渡市)
岩手県大船渡市に伝わる「吉浜のスネカ」は、犬のような鬼の面がひときわ不気味な来訪神だ。例年小正月(1月15日)の晩に、スネカが家々を訪れ、怠け者や子どもたちを戒める。
スネカは、火に当たって赤くなった怠け者の脛(すね)の皮を剥ぎ取る「脛皮たくり」が語源といわれる。衣装のわらみのには、海沿いの地域らしく地元で取れたアワビの貝殻が付けられ、歩くたびに鳴るガラガラという音が子どもたちの恐怖をかき立てる。
家々を火事から守る「米川の水かぶり」(宮城県登米市)
「米川の水かぶり」は、宮城県登米市の五日町地区に伝わる火難よけを祈る奇祭だ。寒さ厳しい2月、裸の男たちが顔にすすを塗り、わらの衣装としめ縄姿で家々の屋根に水をかけながら町中を走り回る。
「五日町地区以外の人が参加すると火事が起きる」という言い伝えがあるので、地域外の人は見学のみが可能。衣装のわらは火事よけのお守りになるといわれ、見学に訪れた人たちは争ってわらを引き抜き、家の屋根に上げて火伏せのお守りにする。
アマハゲが家々を回る「遊佐の小正月行事」(山形県遊佐町)
「遊佐の小正月行事」は、山形県遊佐町の3つの集落に伝わる正月の伝統行事だ。男鹿のナマハゲとよく似ているが、集落ごとに特徴がある。言葉は話さず甲高い奇声を上げるところもあれば、一切無言で家々を訪れるところもあり、異様な姿が子どもたちの恐怖を誘う。
若者たちが鬼や翁(おきな)の面を着け、「ケンダン」と呼ばれるわらを何重にも重ねた衣装をまとってアマハゲになり、各集落の家々で五穀豊穣(ほうじょう)や無病息災を祈願する。
最後に、来訪神の多くは地域の伝統行事であり、一般家庭を舞台として行われる。集落での巡行などを見学すれば雰囲気を感じ取れるが、来訪神は神様であり、絶対に神事の邪魔をしないことを心掛けてほしい。
取材・文=シュープレス
(バナー写真=雪の中を歩いて家々を訪れるナマハゲ 写真提供:男鹿市観光課)