バックパッカー体験から生まれた個性的なゲストハウスたち:Backpackers’ Japan

かつてバックパッカーだった4人の若者たちが、旅の経験を生かして起業したBackpackers’ Japan。運営するゲストハウスは4軒に増え、それぞれが個性的な魅力によって外国人旅行者を引き付けると同時に、地域コミュニティーに根付いている。代表の本間貴裕さんへのインタビューから、その魅力をひも解く。

4人のバックパッカーの理念がゲストハウスに結実

築90年以上の古民家、玩具問屋の倉庫用ビル、照明会社の店舗兼倉庫、古いオフィスビル。交通の便が良く、古いながらも独特の個性を放つ建物が、次々に魅力的なゲストハウスに生まれ変わっている。

鮮やかな再生劇を演出しているのは株式会社「Backpackers’ Japan(バックパッカーズジャパン)」。2010年、20代の若者4人で設立したベンチャー企業だ。

「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念を掲げ、運営する4軒のゲストハウス(東京の入谷、蔵前、東日本橋、京都の河原町)は全てラウンジに力を入れている。温かみのあるインテリア、笑顔の絶えないスタッフ、ほっとくつろげる雰囲気を備えたラウンジでは、宿泊者同士の交流が活発だ。そして、地元住民との接点としても機能している。

京都河原町にある「Len」のラウンジ

かといって、「交流」を強制するような空気はみじんもない。一人でいたい時には部屋にこもり、誰かと話したければコミュニケーションを求めてラウンジに出る。一人一人の自由が保証され、それでいて他者とのフランクな会話が楽しめる空間は、同社の代表取締役である本間貴裕さんの個人的経験から生み出された。

「20歳の時にバックパッカーとしてオーストラリアを一周しました。ゲストハウスやホステルに初めて泊まったんですが、これが非常に楽しかった。欧米人、アジア人、地元のオーストラリア人が国籍に関係なく交じり合って、みんながビールを片手に盛り上がっていたんです。国籍や人種を越えた交流ってとても楽しいんだなと実感しました」

オーストラリアを1年間旅した時の体験が起業のきっかけとなったと語る本間さん

お仕着せではないシンプルで自発的な交流の楽しさに加えて、本間さんはオーストラリア旅行中に現地で知り合った人たちと路上で音楽を演奏し、自分でお金を稼ぐことの魅力を知る。1年の旅を終えて帰国した頃には、「大学を卒業したら高校の先生になりたい」という気持ちは消えていた。新たに「旅に関わるような事業をやりたい」という目標が生まれたのだ。

読書やインターネットが楽しめる蔵前「Nui」のコモンルーム

シンプルで居心地の良い東日本橋「CITAN」の客室。写真はツインルーム

職人集団の力を借りて個性的な宿づくり

Backapckers’ Japanを設立した2010年の10月、築90年以上の古民家をリノベーションした1号店「ゲストハウスtoco.」を入谷で開業。以後、12年に蔵前「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」、15年に京都「Len」、17年には東日本橋「CITAN」をオープンした。

東日本橋の「CITAN」は7階建てで、地下のラウンジでは通常営業時間の木曜日から土曜日にDJが選曲した音楽が流れ、ライブも頻繁に開催される

1軒ごとに雰囲気が異なるゲストハウスの工事を請け負っているのは、プロジェクトベースで集められた職人集団だ。社内でおおよそのレイアウトを決めたら、あとはツリーハウスビルダーの大工、鉄職人、革職人などさまざまなジャンルの職人に依頼して、1つのゲストハウスを造り上げていく。設計事務所に頼んだ後は工務店に丸投げするのではなく、主体的に関わってプロの力を借りる方式を採っている。

本間さんによれば、物件を選ぶ基準は空港や駅、観光地へのアクセスなどの立地条件はもちろんだが、「第一印象が非常に大事」だと言う。

「Len」のエントランス。鴨川に近く、滞在中はのんびりと街歩きが楽しめる

居心地の良さを生むのはスタッフの温かい存在感

どのゲストハウスも稼働率は好調で、利用者の8割は外国人観光客。日本滞在中に4軒を渡り歩く、Backpackers’ Japanファンも少なくない。彼らを引き付ける魅力はどこにあるのか。

築90年以上の古民家を改装した入谷「toco.」の庭

「『toco.』の場合は日本家屋の雰囲気、『CITAN』では質のいい音楽を楽しめる点が受けていますが、共通して好評なのは居心地の良さ。それにはスタッフの存在が一番大きいですね。スタッフの採用には特にマニュアルはありませんが、英語ができることを前提として、“この人と一緒にご飯を食べたいかどうか”を何より重視しています。それから自分が働く宿が好きであることでしょうか」

取材で訪れた「toco.」のスタッフの印象を一言で語ると「温かい」。一緒に食事をしたら、気兼ねなく楽しめそうな雰囲気を誰もが醸し出していた。スタッフの自然にこぼれる笑顔と、訪れる客を優しく迎える接客が集客の最大の原動力のようだ。

居心地の良さはスタッフの温かい人柄から生まれると語る本間さん

ゲストハウスは地域にも根を下ろし、スタッフと地元住民と仲良くなるケースも多いという。

「ゲストハウス内のカフェやバーに来店される方は、約7割が宿泊者ではない地元の人たちです。私たちが目指しているのはその土地に根付き、人や社会に貢献できる宿。スタッフに積極的に地域の人との交流を働きかけているわけではありませんが、地域の中で長く愛される存在になりたいと思っています」(本間さん)

おいしい料理とコーヒー、厳選したクラフトビールなどが楽しめる「Nui」のラウンジ

【DATA】

toco. 

>古民家ゲストハウスtoco.: 懐かしいぬくもりが ある東京の“別世界”

Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE

  • 住所:東京都台東区蔵前2-14-13
  • Tel:03-6240-9854/ +81-3-6240-9854
  • アクセス:都営浅草線、都営大江戸線「蔵前駅」から徒歩5分
  • 料金:1泊 3000円~
  • 公式ホームページ:https://backpackersjapan.co.jp/nuihostel/

Len

  • 住所:京都府京都市下京区植松町709-3
  • Tel:075-361-1177/ +81-75-361-1177
  • アクセス:阪急京都本線「河原町駅」から徒歩7分、河原町松原バス停から徒歩1分
  • 料金:1泊 3000円前後~
  • 公式ホームページ:https://backpackersjapan.co.jp/kyotohostel/

CITAN

  • 住所:東京都中央区日本橋大伝馬町15-2
  • Tel:03-6661-7559/ +81-3-6661-7559
  • アクセス:都営浅草線「東日本橋」、都営新宿線「馬喰横山」から徒歩5分
  • 料金:1泊 3000円~
  • 公式ホームページ:https://backpackersjapan.co.jp/citan/

取材・文=三田村 蕗子
写真=コデラケイ(本間さん)
写真提供=Backpackers’ Japan(バナー写真=Nuiのラウンジ)

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