鵜戸神宮の亀石:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(5)
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母の愛を伝える聖なる洞窟
最高神アマテラスの孫ホオリ(通称・山幸彦)の伝承に彩られた宮崎県・青島から日南海岸沿いに南へ40分ほど車で走ると、物語のその後が伝わる鵜戸崎(うどざき)に至る。巨大な奇岩がいくつも海岸に並ぶ荒々しい大自然の景観は、古くから祈りの対象となってきた。その断崖に鵜戸神宮はある。
本殿は断崖にえぐられた洞窟の中に立つ。主祭神は、ホオリと海神の娘トヨタマヒメとの間に生まれた御子ウガヤフキアエズである。洞窟に入ると暗がりの中に極彩色の絵や彫刻に彩られた本殿が現れた。
洞窟の天井には丸みを帯びた隆起がある。トヨタマヒメが生まれたばかりの御子と別れて海神の宮へと去ってゆく時、成長を願って両乳房を残したという伝説が残る。近づくと玉のようなしずくが音もなくゆるやかに滴っていた。
願いを受け止める亀石
薄暗い洞窟から出ると、外は南国のまばゆい光が差して海も明るく輝いていた。海岸には奇岩が並んでいる。その中でも亀石という巨岩は、トヨタマヒメがお産のために海神の宮から乗ってきた大亀だったと伝えられている。
亀石の背中には升形のくぼみがあり、周りをしめ縄で囲われている。崖の上から男は左手、女は右手で素焼きの「運玉」を投げ、くぼみに入れば願い事がかなうという。この運玉は地元の小中学生の手づくりで、運玉投げの初穂料は学費などに還元され、子どもたちの成長を支えている。
神話の続きでは、ウガヤフキアエズは無事に成長し、後に伝説上の初代天皇となるカムヤマトイワレビコ(神武天皇)ら4人の御子の父になる。埋葬地は諸説あるが、鵜戸崎において古代から祈りの対象だった吾平山(あひらやま)にも陵墓が残っている。
鵜戸神宮
- 主祭神:日子波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)
- 住所:宮崎県日南市大字宮浦3232
創祀は不祥だが、鵜戸崎全体が古来の聖地。782(延暦元)年に桓武天皇から「鵜戸山大権現吾平山仁王護国寺」の寺号を賜り、神仏習合の霊場となる。明治初期の神仏分離で現社名に。2017年、境内を含む一帯が国指定名勝に指定された。
取材・文・編集=北崎 二郎
バナー写真:鵜戸神宮の亀石 撮影=大坂 寛