
急な訃報に慌てない「葬式」の心得:逝去後の流れから服装、香典、禁句まで
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江戸時代の慣習から9割が仏教式
普段は信仰を意識しない現代人でも、葬式だけは話が別。日本では約9割が仏教式で、信奉する宗派や地域によって唱えるお経などに違いはあれど、おおよその流れは同じ。読経や焼香で故人を供養した後、遺体を火葬して魂を天に送り、遺骨を墓地に埋葬する。神道式やキリスト教式、宗教儀式を伴わない自由葬もあるが、合わせても1割ほどである。
江戸初期までの葬儀は、故人の家で親族や集落の者が営む民間儀礼だった。現在の戸籍のような寺請制度が整備されてから、寺が葬儀に関与するようになる。誕生と同時に地域の寺の帳簿に登録され、檀家(だんか)として一生を過ごし、亡くなれば仏界に入った証し「戒名(法名・法号とも)」を授かった。
戒名は故人の来歴や人柄を元に僧侶が授け、墓石や位牌(いはい=写真中央上)に刻まれる PIXTA
明治初期の廃仏毀釈(きしゃく)以降、仏教の影響力が弱まっても、寺が葬送儀礼を執り行う慣習は残り続ける。戦後には「寺の世話になるのは葬式や法事だけ」という人が増え、「葬式仏教」と呼ばれるように形骸化した。世界に類を見ない形式であり、しきたりや作法の独自性が強い。訃報は突然やってくるので、一般的な流れと最低限の作法を心得ておこう。
逝去から火葬までは約3日
人が亡くなると、通夜・葬儀・告別式という3部制の葬式を経て火葬する。遺体が傷まないうちにと、火葬まではおおむね3日と短い。ただ、火葬場の順番待ちのため、葬式まで時間を要するケースも少なくない。また、六曜暦法で「友引」は「友を死に引き込む」としてほとんどの火葬場が休場するため、この日を避けて葬式の日程が組まれる。
火葬前日の通夜は元来、故人に悪霊がつかないよう交代で線香をともし続け、最後の夜を過ごす儀式だった。昭和後期に葬式の場が自宅から斎場に移ると、時間を区切って半通夜を営むのが一般的になった。一夜明け、葬儀では身内が集まって故人の冥福を祈り、告別式では縁者が別れを告げ、最後に近親者で出棺する。
案内が届いたら、通夜か告別式のどちらかに参列するのが一般的。故人との関係が深ければ両方に参列したり、通夜より前に遺族に駆けつけてお悔やみの気持ちを伝えたりすることもある。
なお仏式葬では古くは、逝去から7日おきに49日目まで7度の法要を営む。閻魔(えんま)大王による審判が7日サイクルで、最終審の四十九日(しじゅうくにち)に天上界へ旅立てるよう弁護するのだ。昨今は葬儀当日に初七日の法要も済ませることが多い。
やむを得ず葬式を欠席する場合は、弔電やお悔やみの連絡を入れる。その上で、納骨する四十九日までに弔問したい。
服装はTPOに合わせて
通夜に喪服は「死を待って準備していた」と感じさせるタブーであり、平服で向かうのが正しいとされる。しかし、現実には喪服の参列者も多い。仕事帰りならビジネススーツに黒ネクタイを合わせるので構わず、暗い色味のスーツでシャツの色は白が望ましい。華美な服装はもちろん、動物柄の小物や毛皮は不適切なので注意したい。
告別式は喪服着用だが、故人との関係に応じて装いが変わるのが原則。モーニングなどの正礼装は親族が着用するもので、一般会葬者は準礼装のブラックフォーマル、若い人ならダークスーツなどの略礼装で十分だ。女性の場合、スーツやパンツルックは略礼装の扱いとなる。もっとも現代では喪主も略礼装が少なくない。
香典の表書きは「御霊前」が無難
身一つで向かう葬式だが、香典を忘れてはいけない。お香の代金を意味するが、実質的には物入りな遺族への心遣いである。
香典袋は文具店やコンビニで買えるが、表書きで悩むかもしれない。「御香典」「御仏前」など宗派によって呼び名は変わり、神道式の「御玉串料」やキリスト教式の「御花料」というレアケースもあるが、「御霊前」はオールマイティーだ。なお、霊から仏になる四十九日の後に弔問する場合は「御仏前」とする。
金額は親族以外なら5000円が相場。未使用の紙幣(新札)は「不幸に備えていた」と感じさせるので避け、使うにしても折り目を付ける。紙幣は裏向け、つまり肖像の面を表書きと反対側に入れる慣習もあるが、実際は受け取る側も気にしないだろう。
葬式といえば数珠を思い浮かべる人もいるだろう。厳密に言えば、宗派ごとにデザインや持ち方が違うもの。欠かせないものでもないので、あわてて買う必要はない。
会場で遺族と会ったら「このたびは誠にご愁傷さまでございます」とお悔やみを述べる。「ますます」「くれぐれも」といった重ね言葉は、“不幸が重なる”とされるので要注意。また、「死んだ」など直接的な表現を慎むこと。遺族は忙しいので長話はせず、「突然のご逝去に驚きました。ご生前は大変お世話になりましたので、本当に残念です」という風に手短なあいさつにとどめる。
故人を見送り、遺族をなぐさめる儀式
通夜や告別式では遺影を前に僧侶が読経し、参列者が順番に焼香する。薫香で心身を清めて故人の冥福を祈る儀式だ。
香を眉間の前にもってくる所作は「押しいだく」といい、敬意を表すもの。押しいだく回数など作法は宗派ごとに異なるので、僧侶か、最初に焼香する喪主にならうのが確実だ。
【焼香の手順の一例】
- 順番が来たら立ち上がり、遺族や僧侶に礼をしながら香炉の前に進んで遺影に礼
- 右手の親指と人さし指と中指で抹香をつまみ上げる(1)
- 左の手のひらで下から受けるようにしながら、目の高さまで差し上げ、手は動かさずに頭を下げて抹香を押しいだく(2)
- 抹香を香炉に落とし(3)、合掌して礼拝(4)
- 一歩下がって、遺族に再び礼をして席に戻る
宗教上の理由で仏式の焼香ができない場合は、受付を介して喪主に相談しておこう。「作法は問わないので、故人を見送ってください」と言われたなら、自身の信仰にかなう所作で、心を込めて冥福を祈ればよい。
焼香の後、「お清め」といって喪家が弔問客の会食の場を設けることもある。「最後の晩餐で故人をしのんでほしい」という趣旨なので、むげに断らず一口だけでも手を付けるのがマナーだ。故人と無関係な話題や、酔うほど長居するのは慎むように。
通夜の後が一般的だが、近年は告別式で食事を用意することも PIXTA
会葬後と欠席した時の心得
帰り際には塩袋を渡される。塩はケガレを家に持ち込まないため、玄関口で体にふりかける古来のお清め道具だ。また、一緒に「会葬御礼」の手土産を渡されることもある。
「不幸を後に残さない」意味から茶菓や乾物、消耗品など消え物が一般的 PIXTA
後日「香典返し」として立派な品が届いても、返信はお礼ではなく「恐縮です」という言葉にとどめ、ねぎらいの言葉をメインに。もっとも、遺族の負担をおもんぱかるなら、あらかじめ香典に「お返しは不要」の旨を添えておくといい。
年末に喪中はがきで知人の不幸を知るケースもある。喪中の家には年賀状を送らない慣例もあるが、正式なマナーではない。喪中はがき自体は、「故人を悼んで祝い事を避けているため、当家からの年始のあいさつは自粛する」旨を伝えるもの。年賀状の代わりに年始見舞いや寒中見舞いとして、励ましの言葉を贈るとよい。
親族が遠方にいる家庭が増え、お金や労力のかかる葬式は縮小傾向にある。コロナ禍を経て近親者のみの家族葬も増えてきた。「遺族の心のケア」という本質を大事にすれば、形式は二の次でいいのかもしれない。
監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。
文=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:PIXTA