エライ人はどの席?「上座・下座」の常識:新郎新婦の立ち位置は皇室に由来
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和室では床の間と出入り口が基準になる
洋の東西を問わず「エライ人は上座(かみざ/じょうざ)、下っ端は下座(しもざ/げざ)」が席次のマナー。特に年功序列が根付いた日本では、席次を気にする人が少なくない。「え? どうしてあなたがそこに?」という気まずい雰囲気にならないように上座・下座を心得ておきたい。
和室・洋室に関わらず部屋の一番奥が上座、出入り口に近いのが下座。茶菓を運んだり、ビジネスシーンであれば資料のコピーを取りに行ったりと、出入りするのは下っ端の役目。飲食店では店員を呼び止めて注文しやすい。
伝統的な日本家屋では「床の間」が上座の目印になる。中近世の武家住宅では応接間に床の間をしつらえ、格上の客はその前に座らせて、格下相手なら家のあるじがそこに座った。主従関係が制度化されたこの時代、ポジショニングで身分の差をはっきりさせる上座・下座の作法が確立したのだ。
床の間は掛け軸や花を飾ることも多いが、一説によると元々は仏像や仏具の安置場所。神聖なスペースなので、その前が上席になったとされる。
なお複数人が列席する場合、座り順は「左上位」が原則。つまり上座から見て左隣が次席で右隣がその次となる。
原則とは異なるが、接待ではゲストグループは上座側に、ホストは下座側に一列に並ぶ対面形式が自然だ。最上位の者同士が真ん中に座っても構わない。
席次はテーブルの形やサイズ、座席の間隔などにも左右される。場の状況に応じて割り当て、一同に不快や窮屈を感じさせないことが何より大切だ。
皇室にならって左上位が右上位に?
「左上位」は平安時代までさかのぼる。朝廷の官職では最高位が「左大臣」、その次が「右大臣」だった。これは、不動の北極星に例えられる天皇が南を向いて民を見守るとの政治思想に由来する。日が昇る縁起の良い方角である東は天皇の左手側なので、格上の大臣は左に立つのがならわしになった。
この思想から平安京自体も北辺の宮殿を基準にした設計。現在の京都市を地図で見ると、右に「左京区」、左に「右京区」があってあべこべに思えるのは、南を向いた天皇から見た左右に由来するからだ。
しかし近代以降の皇室は、西洋式の「右上位」を採用。洋装での公式行事では、天皇・皇太子が皇后・皇太子妃を左隣に伴うようになった。ひな人形にも影響が見られ、京都伝統の「京びな」は古式ゆかしく男びなの右に女びなが座るものの、全国的には左右逆のパターンが一般的に。さらに庶民の間でも、ウエディングでは新郎の左に新婦が並ぶようになった。
洋室は装飾の位置もポイント
西欧の伝統では、上座は室内で最も暖かく快適なマントルピースの前。上の棚に美術品や写真を並べて装飾する家具であることから、マントルピースがなければ飾り棚の前が上座になる。
オフィスの応接室で壁に絵画が掛かっていれば、美しい物でおもてなしするために対面する席が来客用となる。眺めのいい窓がある場合も同様だ。
応接室に1人掛け2脚と長椅子がある場合、ゲスト側が長椅子に座る。自分1人で大きなソファに座るのは心苦しいと思ってしまうが、「広々とおくつろぎください」という心遣いをありがたく受け取るのもマナー。
訪問相手を待つ場合はソファに浅く腰掛けて、入室して来たら立ち上がってあいさつしよう。立ったまま待つのは短い時間にとどめ、相手を恐縮させないように。
エレベーターやタクシーでは右上位が原則
エレベーターにも上座・下座がある。近代に西洋からもたらされたため、マナーも西洋にならった右上位。籠の出入り口を向いて奥の右側が最上位で、その次が左奥となる。右上位に従うと下座は出入り口前の左だが、「来客や上司に行き先階ボタンを押してもらうのは申し訳ない」という気持ちがあれば、おのずと立ち位置は決まってくる。
乗る人数が多いと原則通りにも行かないので、「上座は右奥、下座は操作盤の前」とだけ覚えておけば十分だろう。
最後に自動車の席次も紹介したい。こちらも近代に西洋から持ち込まれたため、原則は右上位。
タクシーやハイヤーでは後部座席の右側が最上位の席。以下、後列左、助手席の順。自分が真っ先に乗り込むのではなく、お客様や上司に先に乗ってもらえば自然と正しい席次になる。後列に3人で座る場合は座りづらい中央が末席となる。
左側通行の日本では、左側のドアから乗り込んで尻をずらしながら奥まで詰めなければならない。高齢者や和装の人、けがをしている人などには左側を勧める方が親切だ。
最も大切なことは「安全・快適にお過ごしください」という心遣い。型にはめるよりも、相手の立場を思いやることが重要なのは言うまでもない。臨機応変に対処すれば、円滑な人間関係を築けるだろう。
監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。
文=ニッポンドットコム編集部
イラスト=PIXTA(編集部で加工)
バナー写真:PIXTA