観光列車で“のんびり旅”

「のと里山里海号」で晩秋&冬の奥能登へ

地域

のと鉄道(石川県)は、JR七尾線七尾駅と奥能登の穴水駅を結ぶローカル線。全長33.1キロに駅は8つ。昔ながらの田園と風光明媚な七尾湾を眺めながら、「のと里山里海号」は普通列車よりも時間をかけて走る。晩秋から春にかけては沿線各地で名物の焼き牡蠣(がき)が味わえる。穴水駅からバスで40分ほどの輪島市にある棚田「白米千枚田(しろよねせんまいだ)」の景色も素晴らしい。

日本列島のほぼ真ん中に位置し、日本海に向かって、曲げた左親指のように突き出した能登半島。西岸と東岸では景観が異なり、奇岩・絶壁が連続する西岸とは対照的に、内浦の東岸は穏やかな海岸線が続く。

のと里山里海号はそんな東岸の中でも、沖合に浮かぶ能登島が“ふた”となって湖のように波静かな七尾湾に沿ってのんびり走る。七尾駅から穴水駅までの所要時間は約1時間。各駅停車の普通列車より20分ほど時間をかけて進む。

のと鉄道マップ
【七尾駅までのアクセス】東京駅から北陸新幹線2時間30分の金沢駅でIRいしかわ鉄道~七尾線直通列車に乗り換え1時間30分

外観は日本海の深い青色をイメージしているが、車内にも“能登らしさ”が漂う。例えば座席の間仕切り。七尾市田鶴浜(たつるはま)町に江戸時代初期から伝わる、田鶴浜建具の組子細工でできており、輪島塗のパネルが組み込まれている。

車内には伝統工芸品の展示スペースもあり、まさに“走るギャラリー”
車内には伝統工芸品の展示スペースもあり、まさに“走るギャラリー”

和倉温泉の名店「能登すしの庄 信寿し」が手掛ける「寿司御膳プラン」も人気(乗車券+3050円、要予約)。他に「スイーツプラン」(乗車券+2030円、要予約)も用意
和倉温泉の名店「能登すしの庄 信寿し」が手掛ける「寿司御膳プラン」も人気(乗車券+3050円、要予約)。他に「スイーツプラン」(乗車券+2030円、要予約)も用意

列車は能登中島駅で15分ほど停車する。保線車両の引き込み線には、1986年まで現役で活躍していた鉄道郵便車「オユ10」が保存されており、のと里山里海号の乗客は自由に車内を見学できる。

「走る郵便局」と呼ばれた「オユ10」。この車両を含め、現存するのは全国で2台のみ
「走る郵便局」と呼ばれた「オユ10」。この車両を含め、現存するのは全国で2台のみ

郵便物の仕分け作業を再現した車内。赤ポストが設置され、はがきに切手を貼って投函すると、特別消印を押して届けてくれる
郵便物の仕分け作業を再現した車内。赤ポストが設置され、はがきに切手を貼って投函すると、特別消印を押して届けてくれる

能登中島駅を出て里山を抜けると、車窓一面に七尾湾が広がった。ここから穴水駅まで海景色が続き、途中3カ所の“絶景ポイント”で一時停車する。

4人掛けのボックス席のほか、海側に向いた席もある
4人掛けのボックス席のほか、海側に向いた席もある

柔らかな日を浴びて入り江にたたずむ深浦漁港
柔らかな日を浴びて入り江にたたずむ深浦漁港

鏡のような海面に立つ「ボラ待ちやぐら」。ボラが網に入るのをやぐらの上で待ち続ける伝統漁法だ
鏡のような海面に立つ「ボラ待ちやぐら」。ボラが網に入るのをやぐらの上で待ち続ける伝統漁法だ

七尾湾沿いに広がる湿地帯では、越冬のため飛来した白鳥の群れを観察できる
七尾湾沿いに広がる湿地帯では、越冬のため飛来した白鳥の群れを観察できる

こうしてのどかな車窓を眺めながらウトウトしかけたところで終点の穴水駅に到着する。

同駅の“冬の名物”は、構内にある牡蠣食堂「あつあつ亭」。のと鉄道の直営で、鉄道会社らしく、ホーム横とプラットホームをつなぐ「跨線橋(こせんきょう)」上にある。その名の通り、炭火で焼いたアツアツの牡蠣をお得に味わえると評判だ。

養殖牡蠣は通常、収穫まで2~3年かかるが、エサとなるプランクトンが豊富な七尾湾の牡蠣は成長が早く1年で出荷される。2年もの、3年ものに比べると小粒だが、その分、肉厚で甘みがあるという。

毎年、1月中頃~3月中頃の週末・祝日限定でオープン。テーブル席は1階席26、跨線橋席24。のと里山里海号の利用客に限り予約可。※新型コロナの影響により営業時期や時間、内容が変更・中止になる場合あり
毎年、1月中頃~3月中頃の週末・祝日限定でオープン。テーブル席は1階席26、跨線橋席24。のと里山里海号の利用客に限り予約可。※新型コロナの影響により営業時期や時間、内容が変更・中止になる場合あり

旅程としては例えば、七尾駅や和倉温泉から穴水駅まで観光列車で行き、穴水駅からバスで輪島に向かい1泊、翌日バスで穴水に戻り、七尾駅まで普通列車に揺られて帰る―といったプランがお勧め。のと鉄道、奥能登路線バス2日間乗り降り自由の「奥能登まるごとフリーきっぷ」(3000円)が便利だ。

輪島市は輪島塗や朝市で知られるが、輪島駅前から路線バスで20分ほどの「白米千枚田」にもぜひ足を運びたい。

日本海になだれ込むように小さな田が重なり、黄金色の稲穂が揺れる秋、雪模様に覆われる冬と、四季ごとの景観が楽しめる。幾何学模様を描く絶景は、2011年、日本で初めて世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」のシンボル的存在だ。

海に面した約4ヘクタールの斜面に1004枚もの小さな田が連なる。最小は50センチ四方ほど。農業機械が入れないため、今も田植え・稲刈りは手作業だ PIXTA
海に面した約4ヘクタールの斜面に1004枚もの小さな田が連なる。最小は50センチ四方ほど。農業機械が入れないため、今も田植え・稲刈りは手作業だ PIXTA

毎年10月下旬~3月上旬には、2万5000個のソーラーLEDが彩るイルミネーションイベント「あぜのきらめき」が開催される
毎年10月下旬~3月上旬には、2万5000個のソーラーLEDが彩るイルミネーションイベント「あぜのきらめき」が開催される

輪島からの帰途、夕暮れの七尾湾を見たくなり、七尾駅の一つ手前の和倉温泉駅で下車。温泉街に向かって20分ほど歩くと、海辺の公園「湯っ足りパーク」内に無料の足湯「 妻恋舟の湯」がある。松林の先に横たわる能戸島、茜色に染まる温泉街をただぼんやり眺めて過ごす。旅の疲れも癒される至福のひと時だ。

帰りは各駅停車の普通列車で。秋冬の夕暮れの情景も旅情を誘う
帰りは各駅停車の普通列車で。秋冬の夕暮れの情景も旅情を誘う

のと里山里海号は新型コロナ対策として、当面の間は土・日曜、祝日のみの運行。七尾駅発は8時55分、12時30分、15時32分。穴水駅発は11時と14時15分。全席指定・予約制(当日空席があれば予約なしでも乗車可)。七尾ー穴水の乗車料金は大人1350円(運賃+乗車整理券)。問い合わせは、のと鉄道観光列車予約センター、Tel:0768・52・2300
のと里山里海号は新型コロナ対策として、当面の間は土・日曜、祝日のみの運行。七尾駅発は8時55分、12時30分、15時32分。穴水駅発は11時と14時15分。全席指定・予約制(当日空席があれば予約なしでも乗車可)。七尾ー穴水の乗車料金は大人1350円(運賃+乗車整理券)。問い合わせは、のと鉄道観光列車予約センター、Tel:0768・52・2300

バナー写真:日本の原風景が広がる奥能登を走る観光列車「のと里山里海号」。濃紺の外観は日本海の深い青を表現し、能登地方に伝わる黒瓦(能登瓦)のように美しく輝く鏡面仕上げ

画像提供:のと鉄道

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