【至福の酒肴セット】そば処丸南本店 ライカ北紀行 ―函館― 第76回

函館駅前のそば屋、丸南(まるみなみ)本店。甘く香ばしいそば味噌と冷酒で夏に一杯やれば、憂さも暑さも何処へやら。どんどん盃はすすむ。

初代大山マキが東京・神田の店をたたんで北へ向かい、港町の函館で1891(明治24)年開業して130年あまりとなる。大波小波をのりこえ、いま五代目の若き大山紘生が、のれんを守る。

丸南本店の店構え(2012)
丸南本店の店構え(2012)

時を重ねてきたこのそば屋には、さまざまな書が所蔵されている。架け替えられるたびに、何と読み、何と解釈するのか、頭をひねる楽しさ、否、難儀がある。いっそ、テレビ「開運!なんでも鑑定団」に出品したらと思うときもある。

明治42年4月刊「函館新繁華」に掲載された丸南本店(旧称・丸南大山本店)の広告が複写印刷された同店の行燈(あんどん)の画像。函館駅前青函連絡船・鉄道駅前の食事処であったことを今に伝える
明治42年4月刊「函館新繁華」に掲載された丸南本店(旧称・丸南大山本店)の広告が複写印刷された同店の行燈(あんどん)の画像。函館駅前青函連絡船・鉄道駅前の食事処であったことを今に伝える

いっとき、山岡鉄舟の書「一日無事」が掲げられていた。

幕末の幕臣、山岡鉄舟は、勝海舟と西郷隆盛の会談にさきがけ、東海道を急ぎ東上する官軍の敵陣に薩摩人ひとり連れて乗りこんだ。隆盛と直談判し江戸城の無血開城の条件をつめ、隆盛をして「無我無私で肝っ玉が太い」といわしめた。

この書は、鉄舟の明日をも知れぬ日々の思いを現わしたのか。

いつも小上がりに座って、まずは酒肴セット。増毛町(ましけちょう)にある最北の酒蔵・国稀(くにまれ)の冷酒をそばを食べる前にぐいっとやりながら、焼き海苔、出し巻き玉子焼きなどをいただき、〆にそばせいろをたぐる。

そば屋で一杯やる、これぞ粋(いき)と思っているわが輩は、「一日無事」を酔眼でながめていたら、鉄舟から天下泰平かと一喝された気分になったことがある。

丸南本店の酒肴セット。増毛の国稀を冷酒でいただく(2020)
丸南本店の酒肴セット。増毛の国稀を冷酒でいただく(2020)

●道案内
丸南本店 市電「函館駅前」下車、徒歩2分(地図へ

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