【一銭けれ】姥神大神宮渡御祭 ライカ北紀行 ―江差―第66回
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力まかせに叩く太鼓、哀調をおびた笛、汗だくになった祭り半纏(はんてん)を脱ぎすてた若者が山車のうえで狂ったように飛びはねる。そばで見ていて、背筋にぞくぞくっと興奮が走った。夜もふけた10時すぎ、祭りはクライマックス。13台の山車がずらりと並び、祭りばやしの競演が始まった。
江差・姥神大神宮渡御祭(うばがみだいじんぐうとぎょさい)。370年ほどまえ、鰊(にしん)の大漁を神に報告、感謝したのが祭りのはじまりで、「江差の五月は江戸にもない」と鰊漁と北前船(きたまえぶね)でにぎわった昔の栄華を今にしのばせる。
毎年8月、祭りのころ、人口7000人ほどの街が、観光客や里帰りの人がおしよせ数倍にもふくれあがる。まわりでは、一升瓶をまわし飲み、声をからし、汗まみれで踊りまくっている。そのそばで、少女がひとり、もの悲しく横笛を吹く。まさに静と動がいっしょくた。
「一銭けれ(くれ)、一銭けれ。一銭もらって何するの……」
町内へもどっていく山車の祭りばやし歌「帰り山」が遠のいていく。宿の床のなかで、その音色を耳にし、華やかなころの江差に思いをはせ、深い眠りに落ちていった。
●道案内
檜山郡江差町いにしえ街道 函館から車で90分(地図へ)