【気のいいケーキ屋さん】 ライカ北紀行 —函館— 第52回

西野 鷹志 【Profile】

うーん、これ絶品、エクセレント、三つ星、しあわせ。こんな美味いものが、世にあるのか。パリはシャンゼリゼ大通りのカフェで出会ったタルトタタン。

ポットごと添えられた生クリームをどんどんタルトのうえに流して口に運ぶと、熱々の林檎に冷たい生クリームがぶつかり、そこへパリパリのパイ皮が分け入ってくる。舌のうえで、熱さと冷たさ、酸っぱさと甘さがひびきあい、タルトタタンのシンフォニーが高らかに鳴りわたった。

パティシエ大桐幸介。北イタリア・ミラノで修行し、今は函館で菓子作り30年あまり。イタリア菓子店「チッチョ・パスティッチョ」を切り盛りしている。帰国のとき、ふる里で店を持つと告げると、同僚が、“気のいいケーキ屋さん”を意味するイタリア語の店名をプレゼントしてくれた。

チッチョ・パスティッチョ
チッチョ・パスティッチョ

パティシエ大桐幸介
パティシエ大桐幸介

秋、紅葉のころになると、函館近郊・七飯の林檎・紅玉をつかったタルトタタンに挑戦してもらっている。こちらのためにだけ、歓喜の思いをいだかせる一台を焼いてくれるのだ。これぞ、豊かさの極みなり。

たった一台のタルトタタン(2019)
たった一台のタルトタタン(2019)

●道案内
チッチョ・パスティッチョ 函館バス「昭和ターミナル」より徒歩7分(地図へ

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    西野 鷹志NISHINO Takashi経歴・執筆一覧を見る

    1941年東京生まれ。エッセイスト・写真家。函館中部高校を経て慶応義塾大学経済学部卒。30代半ばで郷里に戻り、函館山ロープウェイを経営する傍ら、日本初のコミュニティFM放送「FMいるか」を創設。北海道教育委員や女子高の理事長、函館のタウン誌「街」の発行人もつとめるなどその活躍は多彩。愛用のカメラ、ライカを肩に北の港街をモノクロで撮り続けて30年。『ウイスキー・ボンボン』『風のcafé 函館の時間』など多くの著書がある。

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