【ごゆるりとワインを一杯】コム・シェ・ヴー ライカ北紀行 —函館— 第44回
Guideto Japan
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函館山のふもと、大正ロマンの香りがわずかにただよう銀座通りの一角、ワインバー「コム・シェ・ヴー(Comme chez vous)」。フランス語の店名は“ごゆるりと”の意で、開店のときから足を運んで10年となる。
函館近郊の漁師町・福島生まれのオーナーシェフ加藤秀一さん。鎌倉でのフレンチ経験を生かし、ワインにあう洒落た小皿料理でもてなしてくれる。ワイン好き、若い女性がつどう知る人ぞ知る店だ。
シェフのふる里でとれたカレイの“カルパッチョ”、辛口の白ワインにぴったり。“11種の野菜のポタージュ”も地元育ちの野菜を煮こんだスープで、美味いの一言がこぼれる。ヘルシーで免疫力がつく。“トスカーナ風フライドポテト”を前にすると、イモ好きはわくわくする。
我ら仲間3人が持ちよったボトルとシェフお任せの小皿料理で、ワイン会を楽しんでいる。赤か白かは前もって決めるが、ソムリエ風のしたり顔も居らず、産地、等級、さらにヴィンテージ(年)もバラバラ。ときには銘酒と村ワインが鉢合わせて、これが面白い。村が銘酒に勝つことも。
20年ほど昔、フランスはブルゴーニュのぶどう畑をめぐって、ワインを飲む喜びにひたったことがある。
ロマネ・コンティのぶどう畑から歩いて10分ほどの小屋で、地酒を飲みくらべた。銘酒リシュブール6年物とヴォーヌ・ロマネ13年物の村ワイン。銘酒は若すぎて蕾(つぼみ)のままでかたく、村ワインは飲みごろが過ぎても、はるかに美味しい。この1本3000円の村ワインと出会って、4000軒ほどのブルゴーニュの作り手のなかから、高価な銘酒をとばして安い旨酒をさがす、“隙間ワイン”を楽しんでいる。外れもあるが、たまに当たると望外の喜びとなる。
作家・開高健の名言がある。「一本のワインには二人の女が入っている。一人は栓をあけたばかりの処女、もう一人は、それが熟女になった姿である」。だが、すてきな熟女か、ひどい熟女か。これだけは、飲まなければ分からない。
ワインは奥がふかく、呑み助の命がのびることをねがう日々。
●道案内
コム・シェ・ヴー 市電 「宝来町」下車、徒歩3分(地図へ)