【朝イカ】漁火通り ライカ北紀行 —函館— 第28回

西野 鷹志 【Profile】

「ちっこいけど、けるよ」

浜言葉を分かりやすく訳せば、“小さいが、あげるから持っていけ”。

早朝、函館山の麓の漁港。漁から戻ってきたばかりの船の生け簀から、漁師のおかみさんが、イカをどっさりとポリ袋に入れてくれた。そのなかでキュキュと鳴き、ドンドンと暴れた。

街なか イカの生干し(2000)
街なか イカの生干し(2000)

とつぜん現れた朝イカにびっくり顔の女房が、小さくて皮をむくのが面倒だわ、とつぶやきながら、刺身にさばいた。あめ色にすきとおりこりこり感がたまらない。しょうが、うす醤油、ほかほかの白いご飯をおともに、しあわせの一言につきる。

イカ漁が解禁する6月初めからしばらくは、姿は小さく身もうすい。そのあと大きく厚く育ち、イカ刺しの旬は7月なかごろまで。魚は小ぶりがおいしい、大柄ほど大味とは、勝手な思いだが。

イカ釣り いざ出陣(2005)
イカ釣り いざ出陣(2005)

日本海側の松前冲あたりにいるイカの群れは、やがて津軽海峡のまんなかに移ってくる。海峡が漁火で輝くころ、イカやイワシを本マグロが追って来る。旬の味わいも変わりゆく。

漁火(2018)
漁火(2018)

●道案内
漁火通り 函館バス「啄木小公園前」下車すぐ(地図へ

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    西野 鷹志NISHINO Takashi経歴・執筆一覧を見る

    1941年東京生まれ。エッセイスト・写真家。函館中部高校を経て慶応義塾大学経済学部卒。30代半ばで郷里に戻り、函館山ロープウェイを経営する傍ら、日本初のコミュニティFM放送「FMいるか」を創設。北海道教育委員や女子高の理事長、函館のタウン誌「街」の発行人もつとめるなどその活躍は多彩。愛用のカメラ、ライカを肩に北の港街をモノクロで撮り続けて30年。『ウイスキー・ボンボン』『風のcafé 函館の時間』など多くの著書がある。

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