【粋な大将】鮨処 木はら ライカ北紀行 —函館— 第19回
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目のまえの津軽海峡の海中を高速で突っ走る本まぐろを目玉に、函館ならではの地物にこだわった鮨が味わえる「鮨処 木はら」。湯の川温泉街、海峡の波打ち際にある立地にほれこんで開業、20年となる。
一歩足をふみいれると、すがすがしく凛とした空気につつまれている。青森ヒバの一枚板にこだわったカウンター、その背後にはこれもこだわりのヒノキでつくられた小型の冷蔵庫が壁面にうめこまれている。大窓からは海峡をのぞみ、晴れていれば本まぐろで名をはせる対岸の大間がみえる。
大将、木原茂信。函館市街地から1時間ほどの漁師町・南茅部の昆布採りの三男坊。ここで採れる真昆布は「上浜もの」として、遠く北前船の時代から、関西、北陸へ出荷され、塩昆布やおぼろ昆布に加工されている。兄2人は昆布漁師となったが、彼は中学卒業後、寿司屋の下働き5年をへて江戸前を学び、34歳で独立、鮨職人一筋で勝負して45年となる。
木はらから東へ20分ほどの戸井の浜。昔々、獲れも獲れたり、一晩でまぐろ2500本が揚がった。網元一つでこれだけの大漁。明治31年のことである。古老の話によれば、まぐろの大群が戸井沖に押し寄せ、なぎさ近くまで突っこんだ。売っても、くれても、食っても始末がつかず、ほとんどが鰯釜で煮て、肥料や飼料になってしまった。こんな大漁が、明治と大正にそれぞれ2回あり、貯蔵・輸送手段が進んだ大正時代には、一晩でまぐろ成り金となった網元もいたとか。一本釣りとか延縄(はえなわ)でまぐろ1匹を追いかける今とは隔世の感がある。
木はらのカウンターに座れば、大将がにぎる鮨に心が躍る。まずは、地物であふれているネタ箱から次々と。海峡の本まぐろ中トロ、海老、平目、帆立……。そのあとは、ヤリイカに辛味大根、大将の古里・南茅部の昆布塩をふりかけた雲丹、僕の好きな芽ネギ。さらに、もう一つ芽ネギ。
●道案内
市電「湯の川温泉」下車、徒歩10分(地図へ)