【鴨せいろ】蕎麦蔵 ライカ北紀行 —函館— 第14回

西野 鷹志 【Profile】

なめらかな艶とコシがあって美味い。喉ごしもいい。これが会津のそば粉を使った十割手打そば。「蕎麦蔵」、函館山の麓、港をのぞむ高台にある。

ご主人の小林さんが会社員のころ、転勤先で出会った会津地粉十割手打そば。このそばに魅せられ、調理学校の先生の経験もある奥さまが、農家のおばあちゃんの下に通い、そば打ちを教わったという。

蕎麦蔵(2019)
蕎麦蔵(2019)

明治28年築、120年あまりの時をきざんだ自宅を改装したそば屋の片隅に、一枚の屏風絵がある。択捉(エトロフ)島で鮭鱒の漁場を営んでいた曾祖父が、みずから干支を描いた日本画。まさに漁家絵描き。鮭鱒で栄えた時代の函館の奥深さを感じる。

蔵(2019)
蔵(2019)

じつは、そばの写真を撮ろうと通うも、美味そうに撮れない。しかもモノクロ。時間をかけるほど、そばは乾いてくる。えい、とシャッターを切ったのが、この店お薦めの鴨せいろ、背景に屏風絵。つけ汁には、鴨と葱が浮かんでいた。そば屋に三度も足をはこんだ我こそが、葱を背負った鴨なのだ。

鴨せいろと屏風(2019)
鴨せいろと屏風(2019)

●道案内
蕎麦蔵 市電「函館どつく」前下車、徒歩5分(地図

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    1941年東京生まれ。エッセイスト・写真家。函館中部高校を経て慶応義塾大学経済学部卒。30代半ばで郷里に戻り、函館山ロープウェイを経営する傍ら、日本初のコミュニティFM放送「FMいるか」を創設。北海道教育委員や女子高の理事長、函館のタウン誌「街」の発行人もつとめるなどその活躍は多彩。愛用のカメラ、ライカを肩に北の港街をモノクロで撮り続けて30年。『ウイスキー・ボンボン』『風のcafé 函館の時間』など多くの著書がある。

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