北見けんいち『楽園』:大徳寺真珠庵「襖絵プロジェクト」絵師紹介(4)
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釣りバカ日誌のキャラも登場
「今日の夜は、肉まん付きだな」
北見さんが真珠庵にやって来る日は、居候の書生たちが昼間から盛り上がる。2019年で連載40周年を迎える長寿漫画「釣りバカ日誌」の作画で知られる漫画界の大御所であるにも関わらず、若い書生にまで気を使って、毎回、肉まんを差し入れてくれる。
真珠庵・山田宗正住職とは古くからの友人。襖絵プロジェクトを始めるに当たって、住職が真っ先に相談したのが北見さんだった。6人の絵師の中では最年長の77歳にして、「釣りバカ日誌」を含めて3本の連載を抱える超多忙な身だ。そのスケジュールの合間を縫って何度も真珠庵に通い、方丈(本堂)の中心にある部屋の東、北、西の計16面に大作「楽園」を描いている。
北見さんは、学生時代に旅行で訪れた与論島(鹿児島県)が気に入り、その後、50年にわたって何度も繰り返し訪れ、ついには別荘まで構えてしまった。「楽園」は与論島を訪れるたびに開かれる宴会の様子を題材にしたという。400人近い登場人物の中には、「釣りバカ日誌」のメインキャストである「ハマちゃん」「スーさん」の姿もあれば、北見さんの師匠で、2008年に亡くなった漫画家の赤塚不二夫さん、仮ごしらえのステージでマイクを握り熱唱する住職もいる。酒を酌み交わし、語らい、踊る島の住民。北見さんの人生に関わる人たちが、皆、幸せそうな笑顔を浮かべている。
「漫画はもともと笑うためにあったんだよ」と、「楽園」を眺めながら北見さんは言う。
大切な人たちとの思い出が詰まった楽園
部屋の東側の一番手前の襖には、他の人物よりも、一段高い位置に描かれた女性がいる。長年連れ添い、既に、故人となっている北見さんの妻の姿だ。
「俺にとっては、仏さまと同じ位置にいる人だからね。でも、彼女が見たら『もっとかわいく描いてよ』と文句を言われそうだなあ~」と、寂しそうに笑う。
正面の右端の襖いっぱいに描かれているのは、ガジュマルの巨木。幹が分岐し、絡まり合いながら上へ上へと伸びていくガジュマルを、自身が人生を通して出会い、支えてくれた人々との思い出と重ね合わせている。そして、北見さんはしみじみとこう語る。
「人は一人では生きていけないからねえ」
「楽園」の中では、今、生きている人も、故人となった人も、漫画の登場人物も混然一体となり、宴を繰り広げる。生きていれば、思うに任せないこともあれば、愛する人との別れもある。それでも、友と酒を飲み、胸の内をさらけ出して語らい、歌い、踊れば、悲しみや苦しみから解放されて笑顔になれる。
襖絵の正面中央には、刻々と地平線へ沈みゆく鮮やな夕日が見える。ひとり宴会の騒がしさから離れ、夕日の前で静かにたたずむ人がいる。きっと住職だろう。何を祈っているのだろうか。宴会が終わることは当分なさそうだ。
楽園の宴会に仲間入り
「楽園」は、未完成のまま特別公開を迎えることになっている。真珠庵の寺宝である曽我蛇足と長谷川等伯の襖絵の修復の費用を捻出するため、北見さんをはじめとする現代絵師6人の作品の特別公開の入場料収入に加えて、クラウドファンディングで支援金を募っている。「一休さん」にちなんで、193万円の支援をしてくれた人へのリターン(返礼)として、未完の「楽園」に登場する権利を用意しているのだ。
全く、しゃれにならない金額ではある。それでも、自らが死した何十年か、何百年か後に、真珠庵にやってきた人を「楽園」へと誘う役割を担うために投資するというのは、一休さんなら面白がってくれそうな最高のぜいたくかもしれない。
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撮影:黒岩 正和
(バナー写真=襖絵「楽園」の前に座る北見さん)
大徳寺真珠庵 特別公開
- 住所:京都府京都市北区紫野大徳寺町52
- 拝観期間:2018年9月1日~12月16日 ※10月19日~21日は休止日
- 拝観時間:午前9時30分~午後4時(受付終了)
- 拝観料:大人1200円、中高生600円、小学生以下無料(保護者同伴) ※未就学児は書院「通僊院」と茶室「庭玉軒」の見学は不可
- アクセス:「京都駅」から地下鉄烏丸線に乗り、「北大路」で下車。「北大路バスターミナル」から市バス1・101・102・204・205・206系統で「大徳寺前」下車し、徒歩約7分。(所要時間:約35分)
- 「大徳寺真珠庵 特別公開」公式ホームページ
- 京都真珠庵クラウドファンディング