日本のトイレマークは世界に通じる!?:マリトモの「ニッポンのトイレ」【4】
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独自に浸透した日本のトイレマーク
初めて訪れる場所で、まず押さえておきたいのがトイレの場所だ。日本人に何を頼りにトイレを探すのかと聞けば、「お手洗い」「Toilet」といった文字ではなく、赤と青の人の形が並んだピクトグラム(案内用図記号)と答える人が多いのではないだろうか。
上の東京国際空港(羽田空港)のトイレ標識は、日本工業規格(JIS)のものが使われている。アメリカ・グラフィック・アーツ協会(AIGA)や国際標準化機構(ISO)の推奨するピクトグラムも大きな違いはなく、男性が青でズボン、女性が赤でスカートというデザイン。つまり、事実上の世界標準(デファクトスタンダード)といえるのだが、このマークが全世界に深く浸透しているわけではない。単色で使われる場合も多く、色分けでは男女を認識できないという外国人もいるのだ。
トイレのマークを含むピクトグラムが日本で利用されるようになったのは、1964年に開催された東京五輪がきっかけといわれる。日本語という独自言語を用いる国ということもあり、海外からの観戦も多い大イベントを機に、言語表示なしで施設や場所などを案内できる方法として採用したのだ。トイレマークを分かりやすくするのには苦労したようで、さらに色分けも施された。
70年の大阪万博の会場でも積極的に活用されたことで、日本国民に広く浸透し、海外にも伝わっていった。現在は、ほとんどの日本人がピクトグラムと色分けだけでトイレの場所を認識できるようになり、商業施設や飲食店などでは独自にアレンジしたトイレマークを表示している。
日本はある意味で、ピクトグラムと色分けが浸透し過ぎているともいえる。施設や店では「Toilet」「Men」「Women」などの文字表示がなく、色付きのマークを小さく表示しているだけのトイレが少なくない。日本人は特に、ピクトグラムよりも色分けでトイレを認識する傾向が強いようだ。ドアや壁の色を青と赤にすることだけで、男女それぞれのトイレであることを表現している飲食店まである。
訪日観光客が増加する今、日本独自にアレンジされたマークではトイレと認識できない外国人がいることや、色分けの意味が分からない場合があることを理解しておく必要があるだろう。そして、困っている人を見かけたら、すぐに案内してあげたい。
統一化が進み、誰でも入りやすいトイレへ
2020年東京五輪・パラリンピックを目前に控え、25年には大阪万博の開催も決定した。50年以上をかけて日本独自に根付いたトイレのマークも改善が求められている。近年は、色分けの意図が分からない外国人や、色覚障害者への配慮といったバリアフリーの観点から、単色のピクトグラムと文字情報を合わせて表示する施設が増えているように感じる。
さらにジェンダーフリーを推進するため、誰でも入りやすいトイレマークを考案しようという動きもある。同性カップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ証明」を日本で初めて発行した渋谷区では、役所の仮庁舎にある「だれでもトイレ」のピクトグラムをLGBT(性的少数者)運動の象徴・レインボーフラッグのように虹色で表現した。また同じ渋谷にあるMEGAドン・キホーテや、訪日観光客が多い京都のホテルのトイレでは、片側がズボンで反対がスカートのピクトグラムを採用している。
日本では多機能トイレの進歩が著しく、機能表示も独自に複雑化してきた。あらゆるトイレを見てきた私でも、たまに「流す」ボタンがどれか分からずに焦るほどだった。それが、17年以降に生産された製品からは、「トイレ操作パネルの標準ピクトグラム」に統一されている。訪日観光客にも周知されれば、日本が誇る温水洗浄便座を快適に使ってもらえることになるだろう。
トイレのマークが統一され、誰にでも優しいトイレになるのは素晴らしいこと。しかしながら、変わり種トイレを愛するトイレハンターの私としては、個性的なマークに出会える機会が減るため、少し寂しい状況なのだ。
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取材・文・写真:マリトモ