消えゆく和式トイレ:マリトモの「ニッポンのトイレ」【2】
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和式トイレの歴史
歴史ある和式トイレというと、私がまず一番に連想するのが“昭和の竜宮城”と言われる「ホテル雅叙園東京」(旧目黒雅叙園)のトイレだ。イベント時のみ公開される旧館「百段階段」にあるトイレは、今から80年以上前につくれたもので、4畳半(約7.4平方メートル)の広さにポツンと便器が設置されている。ホテルのスタッフに話を聞く、裾が長い花嫁衣装を持ち上げるお付きの人と一緒に利用していたのではないかとのこと。結婚式場としても古くから名高い、雅叙園ならではのトイレといえる。
世界各国に存在するトイレは、日本では洋式と言われる「腰掛け式」と、和式を含む「しゃがみこみ式」に大きく分けられる。米国や欧州などキリスト教の文化圏は腰掛け式がほとんどで、アフリカやアラブ諸国、アジアではしゃがみ込み式が多い。和式トイレの大きな特徴は、前方に半円形や台形の「金隠し」が設けられているところだろう。
しゃがみ込み式の和式トイレの原型は、平安時代に普及し始めた「樋箱(ひばこ)」というおまるのようなポータブルトイレである。「金隠し」は樋箱の後方にあった「衣(きぬ)かけ」が変化したもの。元々は着物が汚れないように、便器の後ろ側にある鳥居のような「衣かけ」に裾をかけていた。
明治半ばにブームとなったのが、白い陶磁器に青色で絵付けされた染付便器。下の染付便器の写真からは、「衣かけ」が「金隠し」へと変化していく過程が感じとれる。日本人が着物から洋服を着るようになると衣かけは必要なくなり、半円状にして前方へ移動することで陰部を隠し、小便の飛び散りを防止する役割に変わっていったのだろう。染付便器の繊細な絵柄からは、後に高機能トイレなどを生み出す、日本人のトイレへのこだわりも感じられる。現在も使用されている衛生陶器の和式トイレは、1900年代に入ってから作られるようになったそうだ。
絶滅寸前の和式トイレ—その意外なメリットとは?
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、和式トイレはどんどん減少していく予定だ。東京都では同年までに、都営地下鉄の駅の9割と公立小中学校の8割のトイレを洋式化する計画を進めている。
これは、訪日観光客向けだけの施策ではない。現在、日本の家庭では洋式トイレが主流で、和式トイレの使い方を知らない子どもが増えている。さらに、高齢化が進む日本では、弱った足腰に負担が掛かることなどから、和式を敬遠する高齢者も増えているという。実際、トイレ待ちの時に、年配の方から「私は和式が使えないから」と順番を譲られたことが何度かある。
やがて消えゆく運命に思える和式トイレだが、決して短所ばかりではない。垂直に腰をかける洋式と違い、足を開いて前かがみにしゃがみこむ和式では、腸や肛門に負荷をかけることなく、しっかりと短時間で排出することができる。また、その姿勢の違いから洋式よりも使用時間が短く、公共トイレでの回転率が良いという。その上、体に直接触れる部分がないため、知らない人が腰掛けた便座に座りたくないという潔癖性の人からは支持されている。
こうした利点も考え、公共施設などではあらゆる人に対応できるように、和式トイレを完全に無くすのではなく、設置場所や洋式との比率を考えて残すことも検討しているようだ。
トイレハンターの私としても、和式トイレが無くなってしまうのは悲しい。以前の記事でも紹介した福井県越前市にあるレストラン『レスト有情』のトイレは、日本の風情が感じられる庭園仕様。松や竹が植えられ、灯籠が置かれている庭園トイレは洋式含めて7室あるが、やはり和式便器の方が趣深い。
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写真:マリトモ『ニッポンのトイレほか』(アスペクト)