『堀江ねこざね』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第23回
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かやぶき屋根が並ぶ漁村が東京のベッドタウンに
千葉県浦安市の名所といえば、今では東京ディズニーリゾートを思い浮かべる人がほとんどだろう。広重が現在の浦安辺りで描き残したのは、堀江と猫実(ねこざね)という川を挟んだ2つの漁村の秋景である。
この川は旧江戸川につながる境川。絵の構図では、右側が猫実村、左側が堀江村、奥が旧江戸川である。富士山は多少誇張されていると思うが、現在の堀江の南隣は富士見という住所になっているので、この辺りからでもよく見えたのであろう。手前の砂州には、鳥を捕まえようとする人々が描かれている。この鳥は秋の旅鳥シギで、この地域の名物だったそうだ。
江戸府内を描いた絵とこの絵で大きく違うのは、家々の屋根。江戸では防火対策のために瓦屋根が奨励されていたが、農村地域はかやぶき屋根だったことがよく分かる。
写真は残暑がおさまった、秋の晴天の日に撮影した。絵の右端に描かれている豊受(とようけ)神社は、ビルに隠れて見えないが、今でも中央に見える橋の右側に鎮座している。遊歩道がきれいに整備された境川の両岸には、マンションやアパートが立ち並び、まさに東京のベッドタウンといった光景が広がっている。
●関連情報
浦安
1889(明治22)年、堀江、猫実、当代島の3区画が合併して浦安村ができた。それまで、浦安という地名は存在しない。
1969(昭和44)年に東京メトロ東西線の浦安駅ができると、東京に隣接するベッドタウンとして都市化が急激に進む。1965年から始まった海面埋め立て事業によって、75年に舞浜が誕生。83年、その舞浜に米国外では初のディズニーテーマパークとなる、東京ディズニーランドが開業する。以降、「浦安=ディズニーランド」のイメージが定着していく。88年にはJR京葉線の舞浜駅や新浦安駅が開通し、ベイエリアにはホテル群、駅周辺には住宅街や大規模マンションの建設が進んだ。2001(平成13)年には東京ディズニーシーも開園し、今では国内外から年間3000万人が東京ディズニーリゾートに訪れる。
浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。