『日本橋通一丁目略図』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第14回
Guideto Japan
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「白木屋」が「コレド」になっても日差しは変わらず
日本橋通一丁目の白木屋といえば、三井越後屋、下村大丸屋と並んで江戸三大呉服店の一つに数えられ、広重の時代には誰もが知る大店(おおだな)だったという。
元絵には、その店先が賑(にぎ)わう、夏の風景が描かれている。住吉踊りの一団と三味線を弾く太夫をはじめ、瓜(うり)売りやそば屋の出前など登場人物が多い。今の時代ではピンとこないが、当時はいずれも夏を連想させる人々だったのだろう。この絵で興味深いのは、傘を差したり、菅笠(すげがさ)をかぶったりと、誰一人として顔が見えないことだ。
現在、かつて白木屋のあった場所は、商業施設「コレド日本橋」となっている。夏の晴天の昼間に、絵と同じ場所で撮影を試みた。
ジリジリと照りつける太陽光線を感じながら、カメラを構えていると気付いた。広重は夏の強い日差しを表現するために、あえて人の顔を描かなかったのだと。今でも、夏の日本橋を歩いる女性の多くは日傘を差したり、帽子を深くかぶったり、男性はサングラスを掛けていたりと、顔はよく見えない。同じ時期、同じ場所の日差しは、160年たっても変わらないのであろう。
●周辺情報
中央通り
中央通りは日本橋を中心に、北は神田、秋葉原、上野へと通じ、南は京橋、銀座、新橋まで通じる東京都心の大動脈だ。国道15号と17号、都道437号と452号で構成されている。この通り沿いの町はいずれも大きな商業地や繁華街で、江戸時代から栄えていた。
しかし、現在の中央通りのように新橋から上野まで、1本につながる道が整備されたのは明治時代のこと。1882(明治15)年に日本初の馬車鉄道「東京馬車鉄道」が新橋-上野間で開業したのが契機となって拡張していったという。
近年の中央通り、特に日本橋界隈では、江戸風情とモダンな街並みの共存が演出されていて、観光客に人気が高い。
浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。