『蒲田の梅園』:浮世写真家喜千也の「名所江戸百景」第5回
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明治天皇も愛した蒲田の梅園
京浜急行の梅屋敷駅(東京都大田区蒲田)の近くに、聖蹟蒲田梅屋敷公園という和風庭園がある。文政年間(1818〜1831)に、道中の常備薬「和中散(わちゅうさん)」を商っていた山本久三郎が、売薬所の敷地に沢山の梅の木を植え、茶屋を開いたのが始まりとされている。
広重の時代、梅が咲く頃には多くの見物客が訪れたらしく、その賑わいの様子が描かれている。絵の中に幾つかの石碑が見られるが、俳句好きの久三郎が多くの句碑や里程標を置いたのだそうで、今でもレプリカの石碑が幾つか置かれている。この絵が描かれた約10年後、明治天皇が行幸の際に立ち寄り、お気に召され、以後も幾度か訪れたのが聖蹟の由来のようだ。
写真は2月の梅の時期、空が紅に染まる夕方に撮影した。今の公園は第一京浜国道(旧東海道)の拡張などにより往時と比べて相当小さくなっているようだが、池や石碑、藤棚の休憩所などが元絵の雰囲気を感じさせてくれる。
・スポット情報
聖蹟蒲田梅屋敷公園
江戸時代後期から、「亀戸の梅屋舗」と並ぶ梅の名所として知られた「蒲田の梅園」。現在も、その一部が「聖蹟蒲田梅屋敷公園」という名称の公園になって残っている。元々は和中散を販売する山本久三郎の売薬所の敷地だった。和中散は食あたりや暑気あたりに効能があるとされた漢方薬で、東海道沿いのこの地で旅人に向けて販売していた。近くにも和中散を扱う店が数軒あり、それぞれが茶屋を併設し、競い合って客を呼び込んだ。その中で人気だったのが、梅の銘木を集めた久三郎の茶屋だったという。
- 住所:東京都大田区蒲田3丁目25
- アクセス:京浜急行「梅屋敷駅」より徒歩5分、「京急蒲田駅」より徒歩7分
浮世写真家 喜千也「名所江戸百景」――広重目線で眺めた東京の今
「名所江戸百景」は、ゴッホやモネなどに影響を与たことで知られる浮世絵師・歌川広重(うたがわ・ひろしげ)の傑作シリーズ。 安政3年(1856年)から5年にかけて、最晩年の広重が四季折々の江戸の風景を描いた。大胆な構図、高所からの見下ろしたような鳥瞰(ちょうかん)、鮮やかな色彩などを用いて生み出された独創的な絵は、世界的に高い評価を得ている。その名所の数々を、浮世絵と同じ場所、同じ季節、同じアングルで、現代の東京として切り取ろうと試みているのが、浮世写真家を名乗る喜千也氏。この連載では、彼のアート作品と古地図の知識、江戸雑学によって、東京と江戸の名所を巡って行く。
『亀戸天神境内』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第1回
『日本橋江戸ばし』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第2回
『王子音無川堰棣世俗大瀧ト唱』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第3回
『上野清水堂不忍ノ池』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第4回
『水道橋駿河臺』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第6回
『綾瀬川鐘か渕』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第7回
『堀切の花菖蒲』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第8回
『赤坂桐畑』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第9回
『市中繁栄七夕祭』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第10回
『両国花火』:浮世写真家 喜千也の「名所江戸百景」第11回