知っていると100倍おいしい酒のABC(12)—味わいを豊かにする酒器—
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ぐい飲みとおちょこ
日本酒を楽しむ酒器には材質や形などさまざまな種類がある。今回は、老舗の居酒屋で、昔から親しまれている伝統的な酒器で味わってみる。
かおり ここで靴を脱いで上って、座布団に座ってね。
Joe わあ、畳。内装は木だ!日本的でいいなあ。映画の侍が出てきそうだ。どんなお酒があるのかな。
かおり 置いてあるのは店主の出身地のお酒、1種類だけなの。老舗の居酒屋は、限定した銘柄しか置いてない場合が多いみたい。
Joe たくさん種類をそろえて、グラスごとに飲ませる日本酒バーとは違うんだね。
かおり そうね。日本酒バーは、異なる種類の日本酒を楽しむ場所、居酒屋は料理を食べながら、店で過ごす時間や空間を楽しむ場所だと、私は捉えているの。私はあれこれ比べ飲みしたいから日本酒バーに行くことが多いんだけど、伝統的な日本文化や侍好きのJoe君は、きっとこんな店が好きだと思って誘ったの。今日の1杯目は、常温の「冷や」にしてみましょう。「冷や」と聞くと冷やした酒だと思うかもしれないけれど、実は常温の酒のことを言うの。昔は、冷蔵庫もなく、常温かお燗で飲むことが一般的だったので、お燗してない酒をこう呼んだのね。冷やした酒は「冷酒(れいしゅ)」と呼んでいるの。
Joe ずいぶん大きな器に入ってきたね。丸みのある形がいいなあ。手にすっぽり収まるし、手触りも好みだよ。
かおり 「ぐい飲み」という陶器の酒器よ。厚みがあって、唇に当たる感触も優しいでしょう?口径が大きいから、お酒の温度が変わりやすいけれど、常温なら気にならないし、ゆっくりと飲むときにいいから、私も自宅に集めているんだ。ぐいのみで飲むとき、私は「片口」を使っているの。口径が大きいので保温性はないけど、その代わり、酒瓶から移すときにざっと注いでもこぼれにくいから、気楽なの。
Joe この間の店で、お燗のお酒は、「とっくり」と一口サイズの小さな器が出てきたよね。
かおり あれは「おちょこ」。保温性のあるとっくりから、一杯ずつ注いで、温度が変わらないうちに飲み干すのに最適よ。薄手なので口当たりがシャープで、すっきりとした印象になるの。
Joe 冷酒のときは、かおりさんはどんな器で飲んでいるの?
かおり 「切り子」というガラスの酒器を使うことが多いかな。カットが入っているから滑りにくいし、見た目も涼しげで冷酒にぴったりなの。この店にもあるはずよ。ほら、あの棚に飾ってあるのが、切り子よ。
Joe 赤や青、黒などいろんな色があるんだね。きれいだ。
升酒ともっきり
Joe カウンターに積んである木製の四角い箱も酒器?
かおり「升(ます)」と言って、お酒を注いで「升酒(ますざけ)」として出しているの。もともとは米やお酒を測る計量カップだったけれど、結婚式などお祝い事のときに、大だるに入ったお酒を開けて、升で振る舞うこともあるの。升は木を組み合わせて作るところから「気(木)を合わせる」に通じるという意味合いもあるそうよ。
Joe どのぐらいの量が入るの?
かおり 江戸時代(1603~1868年)に統一されて、升一つが1800ミリリットルになったの。この店にある升は10分の大きさで、180ミリリットル入る一合升。今もお酒は一合、一升という単位が使われるの。父は、一合升の角に塩を乗せて、塩をなめながら飲むのが好きだと言ってる。
Joe かっこいい。僕も升酒を飲んでみたいなあ。かおりさんはどうする?
かおり 四角いから飲みにくくて……。
店員 では「もっきり」はいかがですか?
かおり もっきり?
店員 「盛り切り」から来た言葉で、升の中にグラスをセットして、グラスにあふれるくらいお酒を注いだものです。升ごと持ち上げてグラスの中のお酒を召し上がって、ある程度減ったら、グラスをテーブルに置いて、升にこぼれたお酒をグラスに戻して飲んでみてください。
かおり グラスはお酒に漬かっているんですよね?底がお酒でぬれたグラスをテーブルに置くのは、抵抗があるのですが……。
店員 空になった升をコースター代わりにしていただいてもいいですし、おしぼりをお渡ししますから底を拭いていただければ、気にならないと思います。
かおり じゃあ、Joe君には升酒を、私はもっきりをお願いします。
(空の升とグラスをセットしてテーブルに置き、目の前で注ぐ)
かおり ずいぶんたくさんのお酒を升にこぼしてくださるんですね。得した気分!
店員 どのぐらいこぼすかは、つぎ手次第ですよ(と、かおりにほほ笑む)
Joe(店員を横目で見ながら)かおりさん!升酒、ほんのり木の香りがしてすごくうまいよ。かおりさんのお父さんが気に入っている気持ちが分かるよ。(小声で)お父さんに会ってみたいなあ。
かおり え?
Joe 何でもないよ。またいい店を紹介してね。
バナー・文中イラスト=moeko
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