山頂で「人間将棋」:温泉、酒、果物も楽しめる山形県天童市

東京から北へ400キロメートルにある、日本一の将棋駒の生産地・山形県天童市。4月下旬になると満開の桜を背景に、甲冑(かっちゅう)や着物に身を包んだ駒役たちによる、人間チェスのような「人間将棋」が繰り広げられる。温泉の街としても知られ、果物や日本酒、温泉など魅力があふれる天童は、プチ旅行先として最高の地だ。

戦国絵巻物語の一幕にタイムスリップ

山形県の県庁所在地である山形市は、東京から北約400キロメートルに位置する。東京駅から山形新幹線で山形駅まで約2時間半、飛行機なら東京国際空港(羽田空港)から山形空港まで1時間50分で到着する。山形市に隣接する天童市では、4月下旬にちょっと珍しい桜祭りが催される。「人間チェス」ならぬ、「人間将棋」だ。

山形新幹線 E3系 つばさ天童では江戸時代後期から将棋駒づくりが盛んになり、現在は日本一の生産量を誇る。毎年春になると、満開のシダレザクラを背景にした「人間将棋」を開催し、将棋駒の町・天童を広くアピールしている。姉妹都市を結ぶイタリア・マロースティカで行われる「人間チェス」のように、将棋駒役の武士が甲冑(かっちゅう)や着物に身を包み、それをプロ棋士が操って対局する。

太閤(たいこう)・豊臣秀吉(153798)が桜の咲く京都の伏見城で、小姓と腰元を将棋駒に見立てて将棋の野試合を楽しんだ故事にならい、人間将棋は始まった。会場となるのは天童市街地の南東に位置し、天童公園として市民に親しまれる舞鶴山の山頂(標高242.1メートル)。開催時には、2000本の桜が咲き誇る。

舞鶴山の将棋塔「王将」将棋対局はいきなり始まるわけではない。まず、鎧兜(よろいかぶと)をまとって戦国武将に扮(ふん)した役者たちが、東軍西軍に分かれ、刀を握って立ち回る。太鼓の音をバックに迫真の殺陣が繰り広げられるものの、なかなか勝負がつかない。そして、「それでは人間将棋で決着をつけよう!」と展開する。縦16.87メートル 、横14.17メートルの大きな将棋盤の上で、甲冑や着物の人間駒が繰り広げる合戦は、まるで戦国絵巻物語の一幕のようだ。

人間将棋 写真提供=天童市観光物産協会

通常の将棋盤を使った対局風景人間将棋は2日開催され、1日目は女流プロ棋士、2日目は男性のプロ棋士が裃(かみしも)をつけて真剣に駒を指揮する。ルールは通常の将棋と同じだが、全ての駒を必ず1度は動かさなくてはならないのが暗黙のおきて。駒役には甲冑を身に付けた「駒武者」と着物姿の「腰元」があり、一般から募集され、16歳以上なら誰でも駒となって将棋に参加する資格がある。山頂には屋台やブースも出店され、例年5万人の来場者が観戦するという。

2018年度天童桜まつり(4月8日~5月6日、人間将棋は21,22日のみ)
写真提供=天童市観光物産協会

果物、酒もおいしい天童

将棋の駒以外にも、天童にはたくさんの名産品がある。ぜひ味わってもらいたいのが、山形の果物だ。「果物王国」を自認する山形では、その種類も豊富で、収穫量も高い。日本酒を醸す杜氏(とうじ)たちは通常夏に米を作り、冬場に酒造りに従事するが、天童では杜氏の多くが果樹農家も経営している。

 赤い宝石と呼ばれるサクランボの生産量は全国の7割を山形が占め、ラ・フランスの生産量も日本一だ。桃、ブドウ、リンゴといった果樹の他、スイカ、メロンなど多彩なフルーツが栽培される。春から秋にかけての実りの季節には、観光果樹園での収穫体験や併設されたカフェで新鮮なフルーツをふんだんに使ったスイーツが堪能できる。

 左党には、地元産の素材で造ったワインや、柔らかく透明感のある山形の日本酒もおすすめ。日本酒で県単位の地理的表示保証制度「GI」(Geographical Indication)指定を受けたのは「山形」が初めて。おいしさの秘訣(ひけつ)は、朝晩の寒暖差とはっきりした四季、雪解けの澄んだ水と澄んだ空気だ。

山形のサクランボ日本酒といえば、海外25カ国以上に輸出する出羽桜酒造の醸造所が天童市にある。隣接する「出羽桜美術館」では、出羽桜酒造3代目の仲野清次郎氏が収集してきた陶磁器、工芸品などを、木造瓦葺(ぶ)きの旧住宅(1900年初期築)の母屋と蔵座敷で展示公開している。アート好きの方には、江戸時代後期の浮世絵師・歌川(安藤)広重の「天童広重」作品群が見られる「広重美術館や「天童市美術館などもおすすめだ。

出羽桜美術館外観 写真撮影=山同 敦子

人気の駅弁「牛肉どまん中」

天童の温泉街は山形空港から車で10分、新幹線も発着する駅からのアクセスも徒歩15分と便利。天童高原ではスキーやスノーボードも楽しめる。ウインタースポーツで疲れた体は、温泉街や、天童市内にある無料の足湯や飲泉所、手湯で温めて癒やそう。

 帰りの席を確保したら、牛丼弁当「牛肉どまん中」(税込み1250円)やエダマメを使ったずんだ餅を楽しむ時間だ。ふっくら炊き上げた山形県産米「どまんなか」の上に、ご飯が見えなくなるほどの米沢牛の薄切り肉やそぼろ肉を盛る「牛肉どまん中」は、駅弁大会上位の常連。ゆでたエダマメをすりつぶした「ずんだ」を使ったスイーツは、東北ならではの甘さ控えめの優しい味わい。東京から北へ400キロメートルの山形県天童への旅は、交通手段が格段に向上したことで、季節を後追いしながら手軽に楽しめるおすすめ小旅行となった。

(左)牛肉どまん中弁当 (右)ずんだ餅

バナー写真:人間将棋 提供=天童市観光物産協会
山形のサクランボ tanakawho
ずんだ餅 chandni
文=ニッポンドットコム編集部 

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