
山形「出羽屋」佐藤家の朝ごはん
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<献立>
- 旬の山菜を使った惣菜
- 地場の野菜を使った惣菜
- 蕗味噌を塗ったバゲットのトースト
- 白ごはん
- わらびと油あげの味噌汁
- 雪の下人参のジュース
「山のものは じぶんたつだけが
くうやつだと思っていたんだども
お客さんがわざわざ来て
んまえんまえゆて
よろこんでけるなて
ありがたいことだなっす」
山形県西川町にある「出羽屋」は、山菜料理で名高い宿だ。千年以上も昔から修験道の行者を迎えてきた霊峰、出羽三山の山間に位置し、山からの恵みを四代にわたって提供し続けている。創業二代目にあたる佐藤邦治さん(故人)は昭和初期に、冒頭の言葉をもって、山形の山菜料理を文化にまで高めた功労者といわれている。
「出羽屋」で出す料理には、季節ごとに変わっていく旬の山菜やきのこが、数えきれないほど使われている。野趣あふれる山菜が、それぞれに適した調理で、ずらりと並べられるその驚きは「インタビュー編」の稿に譲ることにして、今回はその出羽屋を切り盛りする佐藤一家の朝ごはんを所望した。
朝の食卓に集うのは、三代目当主の佐藤治彦さん(60)と、妻で女将を務める明美さん(56)。治彦さんの父・邦治さんの妻で、一家のおばあちゃん、喜久子さん(88)。治彦さんの長男で、料理長を務める佐藤治樹さん(29)、妻の悠美さん(29)と、ふたりの長男、治磨くん(2)、長女の紫乃ちゃん(0)、そして治樹さんの妹、明希菜さん(25)。
四世代がなごやかに食卓を囲む光景は、核家族が普通になった現代では、もはや稀少な眺めだ。
食卓には山から届けられる山菜とともに、明希菜さんが畑で育てる野菜を使った惣菜が、賑やかに並ぶ。店で出す「表」の伝統的な山菜料理とは別に、パンに蕗味噌を塗ってトーストしたバゲットなども登場する。
料理旅館は、表も裏も女将が主役となって切り盛りを担う。その女将、佐藤明美さんは、天童市から佐藤家にお嫁入りした。
「同じ山形でも天童のような町と、月山の麓では、食文化がまるで違います。最初の一年は、春、夏、秋、冬の中で、めまぐるしく旬が変わっていく山菜の名前を覚えるだけで必死。似たような山菜でも、食感、甘味、ほろ苦さ、えぐみなど、それぞれ細やかな違いがあり、それが分かるまでは、やはり年月がいりました」
忙しく立ち働く母に代わって、その子どもはおじいちゃんが着物の胸にすっぽりと入れて、ごはんを食べさせていたという。
「その時に感じた温もりと、子どもの目で見た食卓の光景が、自分が料理をする時の原点にあります」と、現在、厨房の責任者を務める四代目の治樹さんはいう。
出羽三山の霊気は奥深い。行者が信仰を成就させるには、それまでの人生を捨てるほどの覚悟が必要だったという。そんな行者に対する敬意が、今も出羽屋の根底にある。
宿に泊まった朝は、帳場の向こうから治磨くんの遊ぶ声が聞こえてきて、店全体に素朴な温もりがただよっていた。この温かさがあってこそ、山は信仰の地であり続けるのだろう。
佐藤家の朝ごはんは、山菜と地場の野菜がたっぷりと使われた健康的な食卓だ
出羽三山の修験者を迎えた行者宿の来歴がにじみ出る「出羽屋」の看板
こちらは「出羽屋」の宿で出す朝ごはん。うど皮のきんぴら、ぜんまいの煮物、しどけの葉のおひたしなど山菜のほかに、温泉玉子、鮭ハラスの焼き物、小松菜のおひたしなど、家庭的で滋味あふれる朝ごはん
65年前に22歳で出羽屋に嫁入りした、二代目の女将、喜久子さんも現役。今も宿の「看板娘」として、新旧のお客さんに親しまれている
取材・文:清野由美 撮影:猪俣博史 シリーズ題字:金澤翔子(書家)
<情報>
出羽屋
住所 〒990-0703 山形県西村山郡西川町間沢58
電話 0237-74-2323
ファクス 0237-74-3222
ウェブサイト http://www.dewaya.com/