ニッポンの朝ごはん

京都・ティールーム「冬夏」の朝茶

暮らし

静謐の中で茶を味わう特別な朝

<献立>

  • 煎茶、ほうじ茶、もしくはヴェルヴェーヌティー
  • カカオ
  • おかき

 京都御所の東側。閑静な住宅街に、楚々として瀟洒な日本家屋がたたずむ。明治生まれの日本画家、西村五雲が住まいとした家は、約100年前に建てられたもので、板塀に見越しの松、苔庭、白漆喰の蔵と、日本建築の粋が集約されている。そんな由緒ある空間が、フードディレクターの奥村文絵と、ドイツ人の夫、エルマー・ヴァインマイヤーに受け継がれ、2016年にギャラリー、ティールーム、アーティスト・レジデンスからなる「日日/冬夏」(にちにち/とうか)としてよみがえった。

 まだ朝の香りが残る午前10時。ティールーム「冬夏」でふるまわれる「朝茶」は、京都観光の喧噪の対極にある、静謐な茶の時間である。

 栃の木でできたカウンターごしに、スタッフが時間をかけて、ゆっくりと丁寧に淹れるお茶。その味わいは、驚くほどまろやかだ。一煎、二煎と、湯をさし替えるごとに、茶葉が持つ香りは奥行きを増し、味わいは複雑に広がっていく。

「日日/冬夏」のたたずまい

「冬夏」は、玄関を上がった左にある。奥の座敷がギャラリー「日日」、右手に蔵がある。

 茶に添えられるのは、ハワイのカウアイ島で作られるオーガニックのカカオ。取り合わせとしては予想外のものだが、野性味に富んだカカオの風味が、思いがけず日本茶と合う。濃厚な甘味の後は、京都らしく繊細な塩加減で仕上げられた「おかき」で、ほっと落ち着く。

「ただ、お茶を飲むだけ。その中にこれほど新鮮な発見がある。その喜びを深く、広く、分かち合いたいのです」と、奥村は語る。

 ここでの茶は、朝ごはんの脇役としてではなく、まったく別に淹れられる特別なもの。その茶を無言で飲む時間から、一日のエネルギーがやってくる。

 

〇煎茶

 滋賀県の朝宮(甲賀市)で栽培される「朝宮茶」は、天台宗の開祖、最澄が唐から持ち帰った種子を由来とする。「冬夏」では、寒暖差が大きく、霧深い朝宮の地で、化学肥料と農薬を使わずに栽培された茶葉を、12種類ほど用意。ティールームの定番となっている「sencha_blend_asamiya」は、珍しい早生種の「あさつゆ」に、「やぶきた」「さえみどり」の3種をブレンドしたもの。

 5月末にはその年の新茶も届く。2018年は、やぶきた種の一芯三葉を手摘みした「やぶきた手摘み」、古来よりこの地に育つ、品種改良をしていない「在来」種、天然玉露と称されながら、現在は多くの茶畑から姿を消した「あさつゆ」種の3種が登場。摘みたての初夏だけに許された一刻の茶の味である。

〇ほうじ茶

「棒茶」と「無施肥やぶきた」の2種を用意。棒茶は、春の芽吹き前に刈り取る春番茶と、夏の収穫後に刈り取る秋番茶の、太い茎だけを焙じる。無施肥やぶきたは、肥料をまったく与えずに育てたやぶきた種を数年熟成させてから焙じる。いずれもカフェインが含まれず、ビタミン、カリウムが豊富。ほうじ茶ならではの香りを楽しめる。

〇ヴェルヴェーヌティー

 ある時、エルマーが南ドイツで、「人生をヴェルヴェーヌに捧げた女性」に出会った。ヴェルヴェーヌは南米原産のハーブ、レモンバーベナの葉。彼女が作るヴェルヴェーヌは、オーガニックであるだけでなく、さらに厳格なバイオダイナミックの規格で樹を育て、香りをつぶさないように、葉を一枚ずつ手摘みしたもの。ヴェルヴェーヌは消化促進、リラックスに効果が高いとされる。

〇カカオ

 ハワイ諸島で栽培されたカカオの実が材料。農薬、化学肥料を使わずに、自然酵母を使って発酵させたカカオは品種や育った環境によって、まったく異なるアロマ(芳香)を醸す。オーガニックシュガーとバニラビーンズだけを加えて作る。

〇おかき

 糯(もち)米の代表的な品種「こがねもち」を材料に、京都のおかき職人が一人で糯をつき、天日に干し、炭火で手焼きするおかき。やさしくカリッと仕上がったおかきは、塩加減の繊細さが印象的。

〇水

「冬夏」は、北の梨木神社、南の下御霊神社というふたつの名水処を結ぶ水脈の上に位置する。「冬夏」では毎朝、下御霊神社の地下水を汲み上げ、それで茶を淹れ、また冷水でも供する。

それぞれ特徴のある茶葉を、客が選べるように

茶筒に入っている茶葉の香りも嗅いで

スタッフが丁寧に湯の温度を見て
スタッフが丁寧に湯の温度を見て

ゆっくりと時間をかけて淹れる

最後の一滴こそが甘露

朝の心落ち着く時間

(文中敬称略)

取材・文:清野由美 撮影:楠本涼 シリーズ題字:金澤翔子(書家)

<情報>

冬夏

※午前10時~午後6時。火曜定休。
〒602-0875 京都府京都市上京区信富町298
電話 075-254-7533
ウェブサイト https://www.tokaseisei.com/

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