日本の魚介類、何もかも高い!?:2023年は国産主要魚種の消費拡大へ

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国産魚の品薄と高値が話題となった2022年。実は、水揚げが好調だった魚も少なくないのだが、食用として流通する量が限られているという。筆者は「日本で取れる魚を有効活用し、魚食文化を守る必要がある」と呼びかける。

日本では近年、サンマやイカを筆頭に魚の不漁や高値が目立ち、手軽に味わえないケースが多い。年末年始もマグロやイクラ、カニなどが高値に張り付き、2023年の正月料理に物足りなさを感じた人も多かったのではないか。

地球規模の異常気象や新型コロナウイルスの流行、さらにはロシア・ウクライナ情勢の混乱などを背景に、食品価格が高騰し、魚離れも一層進んでしまいそうだが、水揚げ量は順調なのに見過ごされてしまう魚が数多い。魚食普及活動を推進する大日本水産会の幹部は「漁師が取ってきた魚を、もっと国内で食べてもらうことが大事」と、強く訴えている。

食卓から遠のいてしまったさんまの塩焼き 写真:筆者提供
食卓から遠のいてしまったさんまの塩焼き 写真:筆者提供

人気の魚介は品薄・高根の花

サンマは、2022年も大不漁でシーズンを終えた。水揚げのペースは過去最低だった2021年(約1万8000トン)並みで、最盛期の1950年代後半から60年代前半と比較すると20~30分の1、10年前の10分の1程度と寂しい限り。この不漁はしばらく続くとの見方が多く、サイズも小ぶりになっているため、脂が乗ったサンマを味わうことは当面難しそうだ。

一方、サケ漁は北海道などで10月ごろからやや回復したものの、トータルでは低調なレベルで、イクラの高値が継続している。水産流通に詳しい元大手スーパーの仕入れ担当によれば、10年ほど前に100グラム598円で販売していたイクラが、現在1500円を超えているという。

約10年で3倍近く値上がりしたというイクラ 写真:筆者提供
約10年で3倍近く値上がりしたものもあるというイクラ 写真:筆者提供

年末のマグロ漁も振るわなかった。特にクロマグロの水揚げは少なく、東京・豊洲市場(江東区)では、青森県大間産など国産の天然ものが1キロ当たり1万円以上になることが多く、12月は中旬まで前年に比べ3割ほど高値となった。

冬場に需要が伸びるタラバガニも品薄傾向が強まっている。豊洲市場の仲卸が出品する通販サイトでは、脚4本の「1肩」が4万円の高値で販売していた。さらに正月用では、ここ数年価格が安定していたカズノコも、前年より1~2割高値だった。

写真のタラバガニは、一肩3万2400円。昨年末から、品薄で一段と高値感があった 写真:筆者提供
写真のタラバガニは、一肩3万2400円。2021年末から、品薄で一段と高値感があった 写真:筆者提供

豊富な国産魚介は注目されず、飼肥料・餌に回される分も

こうしてみると、大衆魚から高級魚まで大半が不漁で、「国産魚=高根の花」といった感じがするが、実はそうでもない。イワシ、サバ、ホタテガイにカツオやスケトウダラは、日本で順調に水揚げされている。

この5魚種は、農林水産省がまとめた2021年度の漁業生産量トップ5(重量ベース、ホタテガイは殻付き)。国内水産物生産量340万トンのうち、イワシとサバだけで約3分の1の110万トンを占める。それなのに、スーパーの鮮魚売り場やデパ地下の総菜コーナーに、イワシやサバがあふれている印象はない。偏った流通、消費によって、「魚介はみな不漁で高い」といった印象を与えているのだ。

主に100グラム以上の「大羽(おおば)」が生鮮出荷されるイワシ 写真:筆者提供
主に100グラム以上の「大羽(おおば)」が生鮮出荷されるイワシ 写真:筆者提供

決して不人気な魚ではない。イワシは刺し身や塩焼き、天ぷらでもおいしいし、サバはさらに万能。塩焼きやみそ煮、しめサバに加え、「サバカレー」や「サババーガー」、福井県の郷土料理「へしこ」などもあり、むしろ人気者といえる。

この2魚種がどのように消費されているかというと、農林水産省の産地水産物用途別出荷量調査(2022年10月発表)によれば、「生鮮食用向け」、つまり冷凍せずに魚市場へ出回るイワシは、全体の14.1%に過ぎない。「魚油・飼肥料向け」40.8%、「養殖用または漁業用餌料向け」34.4%など食用以外の用途が圧倒的に多い。サバの生鮮食用向けも13.8%と低く、缶詰用が27.6%。養殖用または漁業用餌料向けが45.3%を占めるのだ。

さらにイワシ、サバともに海外への輸出が多い。水産物を扱う商社によれば、国産のサバは東南アジアやアフリカに輸出されており、「アフリカ南部の国では、日本のサバを薫製にしたものが家庭料理の定番」という。それに対し、日本の食卓や料理店の定食、弁当でおなじみのサバの塩焼きは、大半がノルウェー産なのだから、少々複雑な気持ちを抱いてしまう。

500グラム以上の大型魚が流通主体となっている国産のサバ 写真:筆者提供
500グラム以上の大型魚が流通主体となっている国産のサバ 写真:筆者提供

国産魚を食べて消費量、自給率向上を

国内で食べられない要因について、宮城県の漁港関係者は「イワシやサバは、大きくて脂が乗っていなければ、漁港で冷凍向けに回され、生鮮出荷されないため」と語る。たとえ大型魚が少量含まれていたとしても、小型魚主体であれば「漁港の人手が足りないので、選別して食用に回すことができないケースも多い」そうだ。

豊洲市場の競り人は「サバは500グラム以上、イワシは100グラム以上が仕入れの目安。それ以下だと買い手が付かない」と説明する。サンマは少々小ぶりでも、季節ものとして売り出せるが、通年水揚げされるイワシやサバは、基準以下のサイズでは二束三文にしかならないのだ。

小型魚ばかりで大半が冷凍に回されるサバやイワシ 写真:筆者提供
小型魚ばかりで大半が食用以外に回されるサバやイワシ 写真:筆者提供

水産庁は、資源管理策の強化により漁獲量を底上げし、自給率を大幅に向上させる目標を掲げている。しかし、そう簡単にはいかないことは、もうお分かりだろう。

2000-02年度の3年間、史上最低の53%まで落ち込んだ水産物自給率は、21年度は59%に改善した。ただ、これを単純に喜ぶわけにはいかない。1人当たりの水産物消費量は01年度は40.2キロだったが、その後、減少の一途をたどり21年度は23.0キロにとどまった。つまり、自給率がアップしたのは、需要が減ったことの裏返しであり、魚食の文化・習慣が衰退していては意味がないのだ。

さらに、サンマなどの不漁を嘆いている間に、日本人はどんどん自国の魚から離れていっている。ノルウェー産サバのほか、「アジの開き」の原料には韓国やオランダからの輸入魚が多く、焼きサケ用の切り身もチリから輸入したギンサケ「チリギン」などに席巻された。これには、日本の魚介類は人手不足の漁港から複雑な流通を経て消費者にわたるのに対し、商社経由の輸入魚は中間業者を介して、小売店や飲食店へとスムーズに卸されていることも影響している。一度定着してしまった上に、その質もどんどん向上しており、国産に戻していくのは並大抵のことではない。

それでも、消費者一人一人が意識的に、国産のイワシやサバを食べる機会を年に数回増やすだけで、年間の消費量や自給率は大きく向上し、漁港から流通しやすい状況に改善できる。日本の漁業を守るためには、適正な管理に基づく漁獲量の底上げや、漁港での仕分けと流通の改善に加え、消費者の姿勢がとても重要なのだ。2023年は自国の資源を活用し、後世につなげていく努力をスタートする元年としたい。

サバをぬか漬けにした郷土料理「へしこ」も、近年は脂の乗ったノルウェー産を使用するものが増えている。国産サバにこだわる店もあるので、しっかりと吟味してみては? 写真:PIXTA
サバをぬか漬けにした郷土料理「へしこ」も、近年は脂の乗ったノルウェー産を使用するものが増えている。国産サバにこだわる店もあるので、しっかりと吟味してみては? 写真:PIXTA

バナー:サバやイワシなどの小型魚の水揚げ 写真:筆者提供

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