「月80時間以上の残業」2割超の企業で発生-初の「過労死白書」まとまる
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長時間労働による過度の肉体的、精神的疲労が心身の健康を損ない、ついには死に至る「過労死」。日本では1980年代後半から社会問題となり、2014年に議員立法で「過労死等防止対策推進法」が成立、施行された。今回の白書は同法で定められた政府による初の国会報告で、過労死の現状や、防止に向けた対策の策定・推進状況がまとめられている。
“認定”過労死は年180人超:「氷山の一角」との声も
厚生労働省は過労死・過労自殺の認定基準に照らし、一定の要件を満たした過労死・過労自殺を労働災害に認定している。白書によると、2015年度中に脳内出血や心筋梗塞など、脳・心臓疾患で死亡して労災保険支給が決定されたのは96人、また精神疾患による自殺者(未遂を含む)で支給が決定されたのは93人だった。
脳・心臓疾患による死亡者の支給決定件数は、2000年代に比べると若干減少している。一方、精神疾患による自殺者の支給決定件数は徐々に増える傾向にある。とりわけ、「業務上に強い心理的負荷がかかったことで、うつ病など精神障害を発病した」とする労災請求件数は、2015年には1515件に達した。1999年の請求件数は155件で、この16年で10倍も増加している。
白書では、警察庁や内閣府のデータとして、勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者が2015年に2159人に上ったとも報告している。この数字を見ても、“認定”過労死の数は「氷山の一角」に過ぎないことがうかがわれる。
15年に労災認定されたケースを見ると、脳・心臓疾患での死亡者のほとんどが月80時間以上、精神障害による自殺者の多くが月100時間以上の残業をしていた。過労自殺者93人のうち、月160時間以上もの残業をしていたケースが18人にも上った。
正社員の労働時間、高止まり続く
日本の労働者の年平均労働時間は14年で1741時間。1900時間を超えていた1995年から徐々減っているが、欧米諸国と比べるとまだまだ差がある。また、労働時間の減少は主にパートタイム労働者の比率が上ったことによるもので、一般労働者の総実労働時間は2000時間前後で高止まりしている。
厚生労働省は2015年12月から16年1月にかけ、企業約1万社(回答は1734社)と労働者約2万人を対象とするアンケート調査を実施。それによると、1年間に月80時間を超える残業をした正社員がいる企業は22.7%に達した。
月80時間の残業は、労災認定の目安になる「過労死ライン」といわれる。業種別にみると、情報通信業(44.4%)、学術研究、専門・技術サービス業(40.5%)、運輸・郵便業(38.4%)、複合サービス業(34.1%)、建設業(30.8%)などの割合が高かった。
労働者調査では、正社員の36.9%が高いストレスを抱えていることが判明。残業時間が多いほど比率は上がり、週20時間以上残業する人では54.4%が「ストレスが高い」と判定された。
これとは別の2013年の調査(厚生労働省「労働者健康調査」)では、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は52.3%。その内容(3つ以内の複数回答)を見ると「仕事の質・量」(65.3%)が最も多く、「仕事の失敗」「対人関係」などを大きく引き離している。
文・ニッポンドットコム編集部
バナー写真:大手広告代理店・電通の元社員、高橋まつりさん(当時24歳)の労災認定を受けて記者会見する母親の幸美さん。高橋さんは東京大学を卒業し、入社1年目の2015年12月に自殺した。「過労自殺」の認定は大きな波紋を呼び、東京労働局はその後、電通本社などを立ち入り調査した=2016年10月7日、東京都千代田区(読売新聞/アフロ)