憲法改正:9条をめぐる論点
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自衛隊めぐりさまざまな議論
日本国憲法第9条は「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を規定し、日本国憲法の掲げる「平和主義」を示している。
第2章 戦争の放棄
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
この条文を巡り、戦後つくられた自衛隊についてさまざまな議論がなされてきた。自衛隊の兵力は陸海空合わせ約25万人。2016年の防衛予算は在日米軍再編経費などを含むと、5兆円の大台を超えている。
政府の憲法解釈では、「戦争放棄」とは具体的には侵略戦争を意味し、自衛戦争は放棄されていないとの立場。自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」であって、「戦力」には当たらないとしている。また、自衛隊は数々の国連平和維持活動(PKO)で海外に派遣されているが、「武力の行使は(憲法上)許されない」として、施設部隊や司令部要員などの派遣にとどまっている。
国際協力の在り方も論点
9条改正を巡る論点は主に、①自衛隊を憲法に位置づけるべきか、②自衛権を憲法に明記すべきか、③非軍事、または軍事力を含む国際協力(国連の集団安全保障活動など)について、憲法に規定を置くべきか——などが挙げられる。
下表はこれまでに衆議院憲法審査会で挙げられた論点をまとめたものだ。「憲法を現実に合わせて改正すべきだ」とする意見がある一方、「9条を堅持し、現実を憲法に合わせて是正すべきだ」とする意見もある。また、「改憲が必要」という意見は保守派だけでなくリベラル派にもあり、自衛隊の性格や自衛権への考え方、集団安全保障への姿勢について違いが鮮明となっている。
憲法9条に関する主な論点
改憲が必要 | 改憲は必要ないが立法措置が必要 | いずれも必要ない |
---|---|---|
自衛隊の位置づけ | ||
・自衛隊を憲法に位置付けるべきだ | ・現状のままでよい | |
・「国防軍」として憲法に位置付けるべきだ | ・憲法の理念に合わせ、自衛隊の解消を図るべきだ | |
自衛権(個別的・集団的) | ||
・個別的自衛権を憲法に明記すべきだ | ・自衛のための必要最小限度の武力行使を認めつつ9条を堅持 | |
・集団的自衛権の行使を憲法改正により認めるべきだ | ・集団的自衛権の行使を認めるべきではない | |
日米安全保障条約・在日米軍基地問題 | ||
・憲法に外国軍隊の駐留を認めないようにする規定を置くべきだ | ・9条の理念に沿って日米安保条約を解消すべきだ | ・日米安保条約は現実的な安全保障条約 |
・日米地位協定を改正すべきだ | ||
国際協力 | ||
・非軍事に限った国際協力について憲法に規定を置くべきだ | ・非軍事に限った国際協力について基本法を制定 | ・現状のままでよい |
・軍事を含めた国際協力(集団安全保障)について憲法に規定を置くべきだ | ・軍事を含めた国際協力(集団安全保障)について基本法を制定 | |
核兵器の廃絶など | ||
・核兵器の廃絶や非核三原則を憲法に明記すべきだ | ・非核三原則を法制化すべきだ | ・現状のままでよい |
(衆院憲法審査会の資料を基に編集部作成)
自民党、改正草案で「国防軍」と明記
自民党は2012年に公表した「日本国憲法改正草案」で、自衛隊を「国防軍」とし、自衛権を条文に明記。現憲法の「平和主義」は維持するものの、「戦力の不保持」「交戦権の否認」を削り、戦力としての軍を憲法に位置づける姿勢だ。
一方、連立与党の公明党は、当面は9条を改憲の対象にしない姿勢だ。山口那津男代表は7月21日に記者会見で、「現行9条の解釈を示した上で、(3月施行の)安全保障関連法制を作った。それを自己否定するつもりはない」と述べ、改めて憲法に自衛隊を位置付ける必要はないとの認識を示している。
改憲に前向きなおおさか維新の会は、9条改正について「時期尚早」(松井一郎共同代表)との立場。同党が3月に示した「憲法改正原案」では、教育の全面無償化、道州制を明記した統治機構改革、憲法解釈を判断する憲法裁判所の設置の3点のみを改正すべき点に上げている。
民進党内には、自衛権の範囲を制限し明確にすべきだなどとして、9条改正に前向きな議員も相当数いる。しかし、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法を「違憲だ」として強く反発し、安倍政権の下では改憲そのものに反対する姿勢を見せている。
共産党は9条の理念に合わせ、自衛隊の解消を図るべきとの立場に立っている。
世論調査では「9条改正必要ない」が多数
NHKが4月に実施した「憲法に関する意識調査」によると、憲法9条を「改正する必要があると思う」人は22.1%、「改正する必要はないと思う」人は39.2%で、「改正の必要はない」が上回った。
「改正が必要」と答えた人の理由としては「自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだから」(55.1%)、「国連を中心とする軍事活動にも参加できるようにすべきだから」(22.6%)が多く挙がった。一方、「改正の必要はない」と答えた人の理由は「平和憲法としての最も大事な条文だから」(65.0%)、「改正しなくても憲法解釈の変更で対応できるから」(15.0%)、「海外での武力行使の歯止めがなくなるから」(12.4%)などだった。
NHKによると、調査は4月15日から17日の3日間、全国の18歳以上の2425人に電話によるRDD方式で実施、62.8%にあたる1523人から回答を得た。
バナー写真:東京の国会議事堂=2014年5月撮影(時事)