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安保法制、25年間の道のり

政治・外交 社会

日本の安全保障政策は国際紛争、テロ事件などの節目ごとに積み上げられてきた。特に冷戦終結(1989年)以降、湾岸戦争(91年1月)、第1次北朝鮮核危機(93年3月)、米中枢同時テロ(2001年9月)とアフガニスタンでの対テロ作戦、イラク戦争(03年3月)などを契機に大きく転換した。

アフガニスタン・テロ対策は「特別措置法」で対処

米ニューヨークの世界貿易センタービルに2機の航空機が突っ込んだ同時多発テロが起きたのは2001年9月11日。国連安全保障理事会は過激派組織「アル・カイーダ」によるテロであり、集団的自衛権の行使を正当化する武力攻撃と認定した。

この時、小泉純一郎首相は、アフガニスタンでの対テロ戦争を行う米国などの攻撃・侵攻を後方支援するため「対テロ特別措置法」を01年10月に成立させ、翌11月にはインド洋に海上自衛隊を派遣した。多国籍軍の艦船への給油のためであった。しかし、日米安保条約の観点からすれば、インド洋はまったく法律的義務のない地域であったことは言うまでもない。

政府の基本姿勢は、憲法第9条により国際紛争を解決する手段としての武力行使ができなかったため、対応措置は「武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」とした。また、活動地域は“非戦闘地域”と認められる公海、その上空、及び外国の領域(ただし、当該外国の同意がある場合に限る)とした。特措法は、憲法の解釈論議をかいくぐっての法制化であった。

イラク復興支援で陸自を約5年派遣

米国によるイラク攻撃は、2003年3月に「イラクが化学兵器放棄を求めた安保理決議を履行しない」ことを理由に、多国籍軍を編成して行った。しかし国際世論は大きく割れ、米英両国が戦争を主導したのに対して、仏独などは戦争に反対した。

日本政府は米国を支援する立場を貫いたが、実際の陸上自衛隊の派遣はサダム・フセイン政権が崩壊し、イラク戦争が終結した後だった。根拠法はイラク復興支援特別措置法(03年7月成立)で、04年1月に陸上自衛隊がサマワに派遣され、09年2月まで継続した。

陸上自衛隊の軽装甲機動車に押し寄せたイスラム教シーア派反米指導者サドル師派のデモ隊=2005年12月4日、イラク南部ルメイサ市(時事)

なお、政府は03年6月に「武力攻撃事態法」を成立させている。武力攻撃事態への対処について定めた法律で「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」について定義し、国や自治体、国民の協力などについて規定している。同法は、いわゆる「有事法」の基本法で、外国武装勢力やテロ組織が日本を襲った場合、民間人を保護、避難させ、武装勢力を排除するためのものである。

安倍・安保法制を助長した中国の軍事的台頭

では、安倍内閣による今回の安保法制整備は何がきっかけか。中国の軍事的台頭や北朝鮮の核開発などが背景にあるが、「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍晋三首相が2007年4月に「安全保障の法整備の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を立ち上げたことが大きな契機となった。

しかし、安倍首相は約1年で退陣し、安保法制懇の報告書は08年6月、福田康夫首相に提出されたものの、議論は棚上げされた。こうした中、民主党政権下の2010年9月には、尖閣諸島沖の領海で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が発生するとともに、中国公船が幾度となく領海侵犯を繰り返す緊迫する事態に発展、日本の安全保障をめぐる環境が大きく変化した。

集団的自衛権の行使容認を閣議決定

12年12月に政権を奪還した第2次安倍内閣は、安保法制懇を13年2月に再開し、14年5月に提出された報告書をもとに、政府として集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定した。

さらに、安倍首相は15年2月に安全保障法整備に関する自民、公明両党による「与党協議会」を再開させ、同5月14日、政府として「安保法制11法案」を閣議決定した。

安全保障をめぐる動向(3)

2007年 4月 第1次安倍内閣、「安保法制懇」を設置
2008年 6月 「安保法制懇」が報告書を福田康夫首相に提出
2010年 9月 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突
2012年 9月 野田内閣、尖閣諸島を国有化
12月 第2次安倍内閣発足
北朝鮮、事実上のミサイルで人工衛星「光明星3号」を打ち上げ
2013年 1月 アルジェリア人質事件、日本人人質10人死亡
2月 「安保法制懇」が再開
12月 国家安全保障会議を設置
2014年 5月 「安保法制懇」、集団的自衛権行使容認の報告書
7月 集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を閣議決定
2015年 1月 イスラム過激派組織「IS」による日本人人質殺害
2月 安保法制整備に関する与党(自公両党)協議を再開
3月 与党、安保法制の全体像について最終合意
5月 政府、安保法制11法案を閣議決定

文・原野 城治(ニッポンドットコム代表理事)

バナー写真:パキスタンの駆逐艦(奥)に給油活動を行う海上自衛隊の補給艦「ましゅう」=2010年1月15日、インド洋北部アラビア海(時事、代表撮影)

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