
嘘——朝日新聞「従軍慰安婦」報道の軌跡
政治・外交 社会
朝日新聞は2014年8月5日、これまでの「従軍慰安婦」関連報道の検証を公表。32年前の吉田清治証言をはじめ、多くの事実関係の誤りを認めた。しかし、そこで浮き彫りになったのは、「従軍慰安婦」の実態ではなく、日本と韓国という特殊な戦後を歩んだ両国の相関する歪んだ言論空間だった。
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資料 「従軍慰安婦」報道と歴史問題の推移
1977年 | 慰安婦問題 | 吉田清治『朝鮮人慰安婦と日本人 元下関労報動員部長の手記』刊行。 |
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1982年 | 報道 | 9月2日、朝日新聞が「済州島での女性狩りの事実」という吉田清治証言を大阪社会面に掲載。以後16回吉田証言を記事化。 |
歴史問題 | 6月26日、大手新聞とテレビ局各社が、文部省の高校日本史教科書の検定で、「(華北への)”侵略”を”進出”へと改めさせた」と報道。7~8月、外交問題に発展。文部省は改変の事実がないと発表し、報道各社も検証の結果、誤報(日本テレビ記者の誤りが原因)であることを認めた。教科書検定基準に「近隣諸国条項」が盛り込まれる。 | |
1983年 | 慰安婦問題 | 吉田清治『私の戦争責任』刊行。 |
1989年 | 慰安婦問題 | 吉田清治『私の戦争責任』韓国語版刊行。 |
1990年 | 慰安婦問題 | 10月、韓国の37の女性団体が声明発表。「慰安婦」の強制連行を認めたうえでの公式謝罪、賠償などの6項目を日本に要求。11月、「韓国挺身隊問題対策協議会」設立。 |
歴史問題 | 10月、ドイツ再統一、11月、ドイツ=ポーランド国境条約締結。この段階まで、西ドイツはヤルタ協定によるドイツ東部国境(オーデル・ナイセ線)を正式承認せず、旧東方領からのドイツ人難民の請求権も放棄していなかったが、これも決着。 | |
1991年 | 報道 | 8月11日、朝日新聞が初めて名乗り出た元従軍慰安婦の証言を録音テープを基に匿名で報道。韓国メディアより先。14日、北海道新聞が単独インタビューを実名入りで報道。15日、韓国主要紙が報道。 |
慰安婦問題 | 8月、韓国で元慰安婦が一人、初めて名乗り出る。日本、韓国で報道。いずれも「挺身隊」と「慰安婦」混同。日本政府調査開始。10月~92年2月、韓国MBS放送が従軍慰安婦を主人公にしたドラマを放送。12月、名乗り出た元慰安婦が日本政府を提訴(「アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件」.日本の人権派弁護士が主導。2004年に最高裁で原告敗訴)。 | |
1992年 | 報道 | 1月11日、朝日新聞朝刊、『慰安所 軍関与示す資料』の記事掲載。12日、朝日新聞社説「歴史から目をそむけまい」掲載、「挺身隊」と「慰安婦」混同。この朝日報道のあと、内外報道機関各社が強制連行の人数まで上げた吉田証言を報道する。しかし、その虚偽性が研究家の間で認識され、国内報道機関は8月以降、この証言を前提にした報道を控える。7~8月、朝日新聞が旧オランダ領東インド(現インドネシア)で戦時中に複数のオランダ人女性が強制的に慰安婦とされた件を、戦後のBC級戦犯裁判記録を基に報道。 |
慰安婦問題 | 1月、朝日新聞の記事を受けて、韓国メディアが一斉に報道。「挺身隊」と「慰安婦」混同。1月16日、宮澤喜一首相が訪韓、日韓首脳会談で謝罪。3~4月、歴史学者・秦郁彦氏が済州島で調査、吉田清治の一連の証言が事実無根であるとの結果を発表。4月、政府が調査結果を発表。アジア全域での慰安施設に対し公的関与があった例を認める。 | |
歴史問題 | 8月、中韓国交正常化 | |
1993年 | 慰安婦問題 | 8月、「河野洋平官房長官談話」表明 |
1994年 | 慰安婦問題 | 8月、村山富市首相が問題解決へ談話 |
歴史問題 | 1月、オランダ政府が旧オランダ領東インドでのオランダ女性慰安婦についての資料発表。中国で愛国教育が始まる。 | |
1995年 | 慰安婦問題 | 1月、「週刊新潮」で吉田清治氏が、自書の内容が創作であることを認める。7月、民間団体「アジア女性基金」が政府主導で発足。8月、戦後50年の村山談話発表。 |
1996年 | 慰安婦問題 | 1月、「吉田証言」を採択した国連クマラスワミ報告書提出。 |
1997年 | 慰安婦問題 | 1月、アジア女性基金が韓国の7人に償いを実施。韓国内で「裏切り者」非難。 |
1998年 | 報道 | 3月、吉田清治氏、朝日新聞の取材拒否。朝日は「真偽確認できず」と表記。 |
慰安婦問題 | 3月、韓国・金大中政権、「韓国挺身隊問題対策協議会」の要求を受け入れ、アジア女性基金の償いを受け取った7人を支援対象から排除。 | |
2000年 | 歴史問題 | 7月、アメリカとドイツ、ドイツ企業に対する訴訟を取り扱う財団財団「記憶・責任・未来」設立で合意。 |
2001年 | 慰安婦問題 | 1月、NHK、「シリーズ『戦争をどう裁くか』」の第2夜「問われる戦時性暴力」放送。2005年になって問題化。 |
歴史問題 | 「新しい歴史教科書をつくる会」の高校日本史教科書が検定通過。8月、小泉純一郎首相、最初の靖国神社参拝 | |
2004年 | 歴史問題 | 6月、韓国・盧武鉉政権「性売買特別法」制定(ちなみに日本の「売春防止法」施行は1957年)。 |
2005年 | 報道 | 1月、朝日新聞、2001年1月のNHK番組を取り上げ、「NHK『慰安婦』番組改変 中川昭・安倍氏『内容偏り』前日、幹部呼び指摘」と報道。直後に記事中で取材対象として出てくる「NHK幹部」の松尾元放送総局長が名乗り出て朝日の記事内容を全面否定。7月に朝日新聞は一連の報道の検証記事を掲載するが松尾発言を否定する事実は出なかった。 |
歴史問題 | 3~4月、中国で反日デモ広がる。韓国で8月、韓国盧武鉉政権が日本統治時代の「親日派」の子孫を弾劾・排斥する法律を制定。 | |
2006年 | 歴史問題 | 8月、小泉純一郎首相、最後の靖国神社参拝。 |
2007年 | 慰安婦問題 | 3月、「アジア女性基金」解散。3月、安倍晋三首相、「広義の強制はあったが狭義の強制はなかった」発言。欧米で反発。7月、米下院、対日謝罪要求決議。吉田証言を採択。 |
2010年 | 歴史問題 | 9月、尖閣諸島中国漁船衝突事件、中国の反日運動過激化。 |
2011年 | 慰安婦問題 | 8月、韓国憲法裁判所が、従軍慰安婦問題で政府の「不作為」に対し違憲判決。11月、「韓国挺身隊問題対策協議会」により、ソウル日本大使館前に「慰安婦像」設置。 |
2012年 | 歴史問題 | 5月、韓国大法院が戦中の日本企業の徴用工問題で個人賠償を認める判決。8月、韓国の李明博大統領が竹島に上陸。さらに「独立運動家」への天皇謝罪を要求。9月、日本政府が尖閣諸島国有化決定。中国で反日運動始まる。 |
2013年 | 慰安婦問題 | 7月、アメリカ・カリフォルニア州グレンデール市に韓国系米国市民の拠金で「慰安婦像」設置。 |
歴史問題 | 3月、朴槿恵韓国大統領就任、6月、中国に国賓訪問。 | |
2014年 | 報道 | 8月6日、朝日新聞が一連の「従軍慰安婦」報道の検証特集。軍による強制などについて「誤報」と認める。 |
慰安婦問題 | 6月、政府が河野談話作成過程の検証。談話見直しを行わない方針決定。8月、朝日新聞の検証報道を受け、自民党内も含め、河野談話見直し要求が高まるが、菅義偉官房長官が見直しの必要なしの方針を再確認。 | |
歴史問題 | 1月、中国黒竜江省ハルビンで「安重根記念館」開館。5月、中国陝西省西安で「光復軍」関連の石碑を除幕。7月、習近平中国国家主席、訪韓。中韓が対日戦を共闘したという認識発言。 |
参考資料
- 『朝日新聞』2014年8月5日朝刊、15、16面
- 秦郁彦『慰安婦と戦場の性』新潮社、1999年
- 吉見義明『従軍慰安婦』岩波書店、1995年
- 読売新聞戦争責任検証委員会『検証 戦争責任』中央公論新社、2006年
- 野口悠紀雄『1940年体制』東洋経済新報社、1995年
- ロー・ダニエル『竹島密約』草思社、2008年
- 舩橋洋一、三島憲一、御厨貴「徹底討論・問題の根源を洗い出す 〈戦争責任〉の着地点を求めて」『中央公論』2003年2月号掲載
- 田中健之「金王朝成立史」(中央公論別冊『北朝鮮の真相』掲載)中央公論新社、2012年
- 外務省ホームページ
- このほか報道各社の記事を参照
カバー写真=吉田清治(提供・読売新聞/アフロ)